番外編 カルゾメイド軍団は見た!IN秘密の北塔
「知ってる?あそこの北の塔には……出るんですってよ」
面白そうに声をひそめてそういったのは、パロマだった。
「ちょっと、やめてよ」
意外に怖がりのモニカが耳をふさぐ。
「またあんた、なんか企んでるの?」
ダルバが冷たく言いはなった。
「失礼ねぇ。本当なんだってば」
「へぇー」
棒読みで答える私、マリン・ハーランド。
もう、長年の付き合いでパロマの持ってくる話がロクでもないことは身に染みている。
「もう、誰も信じていないわね」
深くため息を吐き出すパロマ。
彼女にとっては全ての行動が計算ずくだ。
今回こそ、騙されないわよ。
「もし、出たとしてもそれがどうだっていうのよ?パロマ、お化け退治にでも行く気?」
「そうなのよ!なんでわかったの?」
パロマの目が輝いた。
「ウゲっ!」
「やだ、パロマ。本気なの?」
「冗談キツイよ」
一斉にメイド仲間は抗議の声をあげた。
「それが、ソーヴェ様の命令だとしても?」
パロマがニヤニヤして、切り札を振りかざす。
「……」
「嵌めたわね、パロマ」
「で、いつどうやって何をするの?」
「それはね……」
※※※
「ちょっと、押さないでよ」
パロマが振り返って文句を言った。
「だって、ここの橋は狭いのよ!」
しれっとダルバが答える。
今、思いっきりパロマをどついたの、私は見たわよ。ダルバ。
まぁ、パロマを闇討ちしたい気持ちはわからないでもないけど。
「やだぁ、なんか居る~!」
蝙蝠か何かの小動物が顔に当たり、キャーキャー騒ぎ立てるモニカ。
「しっ、静かに」
「むぐぐぅ」
背後からパロマに口を塞がれるモニカ。
「ほら、あそこ。誰か居る……」
カルゾ邸の北側にある塔はかつてのユッカ大公……恐らくイスキア大公が治めていた暗黒時代に反逆者を拷問したり幽閉したりしていたとの噂が残り、そのまま廃墟も同然に打ち捨てられている場所である。
ユッカ大公令の立ち入り禁止の札がかけられ、昼間も薄暗く、エスト市民は気味悪がって誰も近づかないさびれた場所であった。
「ここで良いか?」
ユラリ、と塔の陰から黒い背の高い影が動いた。
あら?この低い声……。聞き覚えがあるような。
私は首をかしげた。
「あ……っ!」
ゆらり、と木陰からまた、大きな影が出てきた。
「逢い引き?」
すっぽりと黒いマントと帽子を被った二つの影は、何か大きな鞄をお互いに取り出して言い合っていた。
「いや、そんな色っぽいものじゃなさそうよ」
背の高い方の男が荷物を相手に強引に押しつけた。
押しつけられた男にどうやら文句をいっている様子だ。
しかし、やたらと大きい鞄だ。一体何が入っているんだろうか。
「で、パロマ。これどーするのよ」
「あいつらを成敗したらいいの?」
見かけはおしとやかなお嬢様だけど、意外に好戦的なダルバが愛用の細剣を取り出した。
「う~ん、相手はあいつらではないんだよね」
パロマが困ったように言った。
「は?」
「じゃ、相手はどこなの?」
キレそうになるダルバをなだめて、私はパロマに尋ねた。
「ここの中よ」
パロマは塔の中を指差して言った。
「げぇっ」
モニカがカエルの潰れたような声をあげた。
「ここ入るの?」
ダルバも嫌そうに顔をしかめた。
「行くのよ?」
パロマは私達の背中をグイグイ押して、塔の最上階へ上がる階段の方へ押しやった。
半刻後。
なんとか、ひーひー言いながら、最上階まで私達は螺旋階段を上がりきった。
「やっと来たわね」
30階はあっただろうか。体力のある私達カルゾメイドでも一気にかけ上がるのはキツかった。
「さて、当然鍵はかかってるわね……」
扉のノブを確めるパロマ。
「どいて」
扉を力が一番強いモニカが体当たりで突き破った。
「さすが、モニカ。やるぅ」
バンっ!
小気味の良い音がして、入口の蝶番が弾け飛ぶ。
私たちはそれぞれ警戒しながら、室内に雪崩れこんだ。
「……!!」
中に入ると、目の前に華奢な細い白いふわりとしたドレスを纏った少女達が現れた。
一人、二人……。
可愛らしかったけど、表情は全くない。奇妙な動きでフワリ、ふわりと移動していた。
プルプルのピンクの唇と長い睫毛に縁取られた瞳、緩くセットされた亜麻色の髪、小さな顔。
何処かで見た顔だわ。
そっか。……アルル・アディジェだ!
間違いない。
彼女のトレードマークのような笑顔と瞳の輝きがないが、姿かたちはそっくりだ。
でも、でもさぁ……!!
なんでアルルが、こんなに塔の最上階に一杯いるのぉぉぉ!!
私達は次から次へと湧き出てくる沢山のアルルもどきがフワフワしている中で呆然としていた。
「ナニよ、コレ?」
ダルバが一人驚いた様子のないパロマに尋ねる。
「あぁ、みんな人形なの。ヴィンセント様が棄てたゴミよ」
「は?」
「へっ?」
「はぁぁぁぁぁ~!?」
私達は揃って大声をあげた。
「Gネット通販のアダルトショップ特注品なんだけど、特注品だけに返品がきかなくてね。ヴィンセント様のなかなかお気に召すものが作れないんだって。当然、カルゾ邸に置けないから、ヴィンセント様に言われて執事長がここに押し込めたらしいのよねぇ」
「……」
「下で見たのは業者の男に必死に返品交渉をする我らが上司、執事長」
道理で。聞き覚えのある声だと思ったわ。
こんな仕事までさせられてるなんて、ナルドさんは本当に気の毒すぎる。
「ほら、あっちはダッチ○イフ アルル夏服バージョンね」
「こっちはセク○ロイド アルル2号。メイド仕立てらしいわ」
「……ねぇ、パロマはなんでそんなに詳しいの?」
「だって、商品伝票をソーヴェ様のお部屋で見たんだもの」
「……」
「市民から北の塔最上階から大量の人影が見えるという幽霊騒ぎの投書が来ちゃったみたいなのよね。それで、さっさと人形を処分してきて頂戴、というのがソーヴェ様の御命令よ」
「……」
私たちは無言でパロマの言葉を聞いた。
主人のアダルトサイトの返品交渉をこっそりやらされる執事長もどうかと思うが、そのダッチ○イフの処分を任される私達もどうなの?
これってメイドの仕事なんだろうか……。
「ふむ」
手近にフラフラしていたアルル2号を捕まえるとパロマはおもむろにアルルのスカートの中に手を突っ込んだ。
「……!!」
「一応、使用感があるわ。新品ではないから勿体なくはないわね」
「使用感?」
ダルバの頬がひくつく。
「取り敢えず、色々つっこんだりはしたみたいなんじゃ……」
「お願いだから、それ以上言わないでぇぇぇ……」
この中では一番純情なモニカが真っ赤になって叫んだ。
それから、私たちは黙々と作業に勤しんだ。
ええ、働きましたとも。
フワフワするアルルもどきを捕まえて、部屋の真ん中に集めて縄でまとめて括ったときには、私らが誘拐犯か何かのような気分になったわよ。
嬉々として、アルルたちを縛り上げるパロマが立派な悪役女王にみえたわ。
哀れなアルルもどき達は、空気が抜けるヤツは抜いて、電池が抜けるヤツも電源を落として。
最後に私たちが塔を出る時には、パロマお手製の超小型軽量爆弾が炸裂。
真夜中なのに、真昼のような閃光と轟音が沸き起こり……。
あっという間に、私達の前で高くそびえていた不気味な塔は大音響とともに瓦礫の山となって崩れ落ちたわ。
可哀想に、アルルもどきたちはパロマの爆弾で、一瞬で焼き尽くされたから跡形も残ってないでしょうよ。
「……」
メイド軍団全員が半端ない虚しさを抱えて瓦礫の山を見つめて言った。
「このお仕事、何だったんだろうねぇ」
「さぁ?私に聞かないで……」
「帰ろっか」
「そうね……」
私達は全員、身体も心も何だかどっと疲れきってカルゾ邸へ帰ったのでした。
お父さん、お母さん。
私はメイドのお仕事、頑張ってます。
〈おしまい〉




