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第49話 覚醒?

「リツコ!」


とても、遠い向こうから誰かが呼んでいる……



それはやがて、いくつかの聞き慣れた声になって私の耳に届いた。


「リツコ……」



私はゆっくりと目を開いた。


全身が、鉛のように重い。

怠くて指一つ動かせない。


(ここは……どこ?)


今、どうして自分がここに横になっているか、私はわからなかった。


(何があった……?)


ズキリ!と頭の奥が痛む。


(私は……?)


オモイダセ……。


オモイダセ……!



(私は誰?)


ズキンズキン!


頭が割れるように痛い。


(あぁぁぁ……っ!)


巻き戻された旧式の活動写真のように、色んな映像が逆回りで一気に私の頭に雪崩れ込む。



(これは……この、記憶は……。私?)





「あ、お嬢様!しっかりなさって下さい」

必死なルーチェの声。

「気がついたかしら」

明らかにホッとしたようなソーヴェ様の声。

「リツコ!!」

必死な、サラック様の声。



「大公様。まだ動かしてはダメです。頭を打ってるかもしれませんから」

聞き覚えのあるような、ないような声が聞こえる。どうやらカルゾメイドの一人らしい。


……誰だったかしら。あぁ、そうだ。マリンと言ったっけ。ちっちゃなクリクリした瞳の少女のようなメイドだ。



私は、朦朧としたまま、そっと抱き起こされた。

誰かが差し出したグラスの水をゴクリ、と機械的に一口飲む。



少しずつ、霧が晴れるように頭がクリアになっていく……。



「絶対に抱きついたらダメよ、サラック。揺すったら脳が揺れるんだから。この子、まだ焦点があってないわ」

「わかってるさ。とにかく、リツコが無事でよかった」

ソーヴェ様の注意に頷きながらも、サラック様は目もとをほころばせた。



「それにしても、もう少し早く侵入者に気づけなかったのか?ベイトのセキュリティはどうした?」

私が目を開いたので安心したのか、サラック様はようやくソーヴェ様に今回の顛末を確認し始めたようだ。


「ごめん、あいつらの情報網を舐めてたわ。今回はセキュリティの動力源がヤられてた。奴らも学習するようね。ウィルやパロマが居ない今は、サイバー系がこちらも手薄で……。気づくのが遅れちゃったわ」

「まぁ、ソーヴェにはセキュリティは不要だからな……。しかし、奴らの目的はリツコではなくてマルサネだったんだろ?ゲンメでなくて何でカルゾに……」

不思議そうにサラック様は首をかしげた。


「ゲンメにも同じように襲撃したようよ。ね、ルーチェ」

「はい。カルゾの使者だとうそぶいてやって来ました。タウラージ様が追い返せとおっしゃるので敷地内に入れず、裏口から侵入しようとしたところを闇の者達が処分してしまったようですわ」

ルーチェが淡々と答える。


「イスキア、というかカルドンヌは懲りないわね。この後に及んで今度はカルゾとゲンメを揉めさせたいのかしら。浅知恵な。これ、ラマンドロも噛んでると思う?サラック」

「さてね。アイツの考えてることはわからん。いざとなれば全部妹に押しつけるのは見え見えだが」

「だろうね。ダルバの話だと、リツコにはマルサネは何処だと脅していたらしいわ」

「目的はこの間の復讐、か?」

「もちろん、白蛇達はこないだマルサネに全滅させられた恨みもあるでしょうけど、根本は主のネチッコイ指令で動いてるんでしょうよ……」

「蛇姫かぁ、ヴィンセントが居なくなっても大人しくならんなぁ。ベイトには追っかけていかんのか……」

「あんたねぇ、あちらに迷惑でしょうが。我が国の恥をこれ以上、輸出するつもり? リツコが無事なら何でも良いって思考、改めなさいよ」

「無事じゃないだろ。今回だって擦り傷だらけだ」

「そうね、身体を張って守ったウチのナルドはボロボロだけどね……」

ソーヴェ様の言葉に、何故かギロっと隣に居たマリンにまで睨まれて、慌てるサラック様。


「それはもちろん、リツコが無事なのはナルドのお陰だと思ってるさ。彼のケガが早く治るように医療センターの最高級の医療を提供しよう。しかし、マルサネは本当に何処にいるんだろうなぁ」

睨まれたサラック様は慌てて話題をかえようとした。


「ナルドには、サラックのポケットマネーから特別ボーナスを弾んであげて頂戴よ。……まぁ、確かにマルサネのことは何処にいるか気になるところね。ルーチェ、あれから何かわかった?」

ソーヴェ様は呆れつつも、サラック様の話に乗ってルーチェにふった。

「いいえ、ソーヴェ様。お嬢様……リツコ様があらわれるまでは確かに、マルサネ様は寝室でおやすみになっておられました。やはり、あの日ゲンメ邸から出られた形跡はなく、足どりも全くつかめてません……」

ルーチェは申し訳なさそうにソーヴェ様に報告した。


「マルサネの無事も気になるわ。海蛇たちが躍起になって探しているってことは、彼らの手には落ちてないって事なんでしょうけど」




「……大丈夫です……。マルサネは、無事です」

ボンヤリと夢の中に居るかのように、会話を聞いていた私が突然口を開いたので、皆驚いて一斉に私を見た。



「リツコ!」

「お嬢様!!」



「どういうこと?リツコ」

ソーヴェ様が優しいけど、キッパリとした口調で尋ねた。


「上手く、言えませんが無事なんです……。ごめんなさい……ソーヴェ様。それしか今は言えません……」

私はソーヴェ様に向かって頭を深く下げた。


「リツコ……」

ソーヴェ様はそれ以上、何も言わず私をじっと見つめた。


「リツコ……?」

サラック様も心配そうに私を見つめる。


「……サラック……さ、ま。ごめんな、さい……」

私の喉からはもう。嗚咽のような声しか出なかった。




私は両手で顔を覆った。

涙がボロボロと滝のように頬を伝って止まらない。




「リツコ。なぜ……泣いている?」

サラック様がそうっと、羽毛のように優しく私を抱き寄せた。




「……ごめん、なさい……。ごめん……」

「もう、謝らなくていい」



ギュッと抱きしめられ、私はまた一層、涙が溢れた。


ソーヴェ様やルーチェ達使用人はいつの間にか、退室していた。




陽が燦々と降り注ぐ客間のベッドにサラック様と二人きり……。



昨日までは、乙女のように妄想して待ち望んでいたこのシチュエーションも、今の私にはすっかり色褪せたものになってしまった。



「……」


だって、私は思い出してしまった……。



思い出してしまったの……。


サリアさんが言ってたことが、今なら分かる。



私は、確かに澤井律子。

そして、前世の名前は……。





マルサネ・ゲンメ。






|そう。私はマルサネだった《・》……!



だから、今マルサネがどこに居るか。

私は既に知っている。



これから、マルサネに起こることも。

これから、私に起こることも……。



あぁ、涙が。

涙が止まらないの……。



私は、運命を受け入れるだけ、なんだろうか。



サラック様と初めて交わした嬉しいはずのキスは……、涙の味しかしなかった。

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