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第48話 カルゾ執事の実力!

「ダルバ!リツコ様を連れて早く離れるんだ!剣はあきらめろ」

執事のナルドの鋭い声があがる。


「了解。リツコ様、こちらへ。決してその女の血に触れてはいけません」

「え、ええ……」

可愛い顔をしたメイドのダルバは、手にした細剣を渋々といった様子で投げ捨てると、私を背にかばいながら邸の入り口の方へ誘導する。



助かった、のかなぁ。



恐怖に固まっていたせいか、なかなか私の足はすすまない。もつれて転びそうになってしまう。



「バルレッタが殺られた!」

ヒュッと鋭いダオスタの口笛の合図と同時に、馬車の中から黒い影がいくつか飛び出してきた。


影たちは躊躇なく、駆けつけてきた執事のナルドとモタモタ逃げる私たちに襲いかかる。



「執事長!」

「ダルバ、そっちは頼んだぞ」


そう言い捨てると、ナルドは男達の中に素早く身を躍らせた。


黒い疾風のようにナルドの拳が、最初に馬車から出てきた男の鳩尾にめりこむ。

ぐしゃっと厭な音がして、黒装束の男は壁面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。


続け様に半月刀を振りかざして突進してくる男達を、ナルドは踊るようにヒラリと優美な動きで軽くかわしざま、手前の男の後頭部に強烈な手刀を叩きこむ。

首をへし折られた男が地面に沈む前に、懐剣で別の男からの凶刃を跳ね上げ様に切り上げ、その長い足で豪快に蹴り飛ばした。



「………強い……っ」

本当に、瞬きする間だった。


ナルドが一人で馬車から飛び出してきた男達を一瞬で片付けてしまった。

やられた海蛇の男達はピクリとも動かない。


ナルドは息一つ乱れた様子はなく、優雅に乱れた髪を後ろにはらった。



「ナルドって……、執事さんでしたよね?」

思わず、隣のダルバに尋ねる私。

「そうですねぇ。まぁ、ソーヴェ様には敵いませんけど、ウチの使用人の中では一番の腕利きですから」

別段驚いた風もなく、のんびりと答えるダルバ。



これで、ソーヴェ様には敵わない?

どんな化け物なんだろうか、ソーヴェ様は……。



「うぅっ……おのれ、カルゾの執事!」

ギリギリと歯噛みしながら、ナルドを睨みつけるダオスタ。


「オリジナリティの欠片もない台詞だな、白蛇長ダオスタ。蛇姫の守役が我がカルゾへ何の用だ」

「……貴様に答える義務はないわ」

「わざわざソーヴェ様の御不在を狙って乗り込んできた訳を吐いて貰うぞ。答えなければ蛇姫に聞くまでだ」

「させるか!」



ダオスタは纏っていたマントを脱ぎ捨て、ナルドに大剣を振りかざし打ちかかっていった。と同時になぜか、その姿がぶわっと黄色い靄のようなものに包まれる。


「毒粉の煙幕です。リツコ様、下がって」

ダルバが風向きを見ながら、私を二人から遠ざける。


「毒?」

「海蛇の常套手段ですよ。彼らは毒飼いの一族です。死してもなお、毒を撒き散らします」

「ナルドは大丈夫なの?」

「執事長なら問題ありません」

ハラハラして落ち着かない私と違って、ダルバは全く動じることはないようだ。


映画の戦闘シーンぐらいしか免疫のない、戦後育ちの平和ボケした私には刺激が強過ぎる。

あたりに充満する生々しい血の臭いが、別世界に来たんだなと今更ながら私に実感させた。



……ここは、異世界なんだ。




でも目の前で繰り広げられている、ナルドとダオスタの打ち合いは映画のワンシーンのように現実離れしてみえた。


長、というだけあって歴戦の戦士。ダオスタは初老とはいえ両腕や胸、首回りにもみっしりと筋肉がつき、私の素人目にもあきらかに動きが先程の男達とは違う。

が、そんな強者相手にも涼しい顔で必死の斬撃を懐剣で受け流すナルド。


あきらかに格が……、違い過ぎる。


ナルドの破格の強さが私に洋画を鑑賞しているかのような錯覚を起こさせた。



何度か耳の奥まで鳴り響く、ガン!ガンガン!と剣戟の音がしたかと思うと、ナルドが後方へ飛びのいた。


「俺に毒は効かない」



私には見えなかったが、いつの間にか早業でナルドがダオスタの顔面に撃ち込んでいたようだ。


「クソッ!」

ダオスタが額に受けた傷の血と混ざってドロドロになった毒粉を片手で払い落とした。



「撃ち込み様、毒を撒き散らす。伝統的な海蛇の戦い方だが、ワンパターンだ」

「……ほざけ!」


カァァン……!


ダオスタの大剣がナルドの懐剣に跳ねとばされた。


「チッ……」

右手を押さえてナルドを睨みつけると突如、ダオスタは馬車の方に向かって身を翻した。



「逃がすか!」

撥ね飛ばした大剣を、ナルドがまるで投子のように走り去るダオスタの背中へ投げつける。


「グオッ……ッ!!」

ギ、ギ、ギ……っとこちらに向かってゆっくり振り返り、自分の剣で串刺しになった状態のまま、ニタァと血塗れの凄惨な顔で暗い笑みを浮かべるダオスタ。



「……お前らは……道連れだ……」

口からゴボっと血を吹き出させながら、ダオスタは何かのスイッチを押した。



「爆薬か!」

ナルドが叫ぶ。


「まずい!離れろ!」

「リツコ様ぁ!」


カルゾの庭先に停められた目前の馬車から、轟音のような爆音と閃光が弾ける。


私はすごい勢いで走ってきたナルドに抱えられて地面に転がった。


「……っ!」

爆風と轟音の嵐。

ゴウゴウと全身に響き渡る音と衝撃……。


ナルドに庇われながらも全身を地面に強く打ちつけられたせいか、私は意識を手放した。

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