第45話 モヤモヤ?
サラック様はマルサネだった時と変わらない様子で、グスグスしている私をしばらく嬉しそうに無言で抱きしめていた。
「サラック様……。ガッカリしてませんか?」
少し嗚咽が落ち着いてきた私は、サラック様の広い胸に顔を埋めたまま呟いた。
「ガッカリ?なぜ?」
言われている意味がわからないというように、サラック様が私の顔を覗きこむ。
「思ってたのと違うとか……」
「そうだな、違うな」
アッサリそう答えるサラック様。
ですよね~。
……。
やっぱり、若い娘が良いのかしら。
娘の和奏や歌音に「まだ若いんだから彼氏の一人も作れ」とうるさく言われて、私は年齢の割に身綺麗にはしてきたつもり。
お世辞でたまに、姉妹ですか?なんて言われて喜んでたのを思い出す。
ソーヴェ様の人外美魔女には到底かなわないにしろ、同世代に比べたら多少は若い方だと自分では思うんだけど……。
「思ったより、若い。41歳と聞いていたが、子どもみたいだ。身体も小さいし……」
私の髪の毛をゆっくり撫でながら、顔を寄せるサラック様。
ううっ、甘い……。
ただでさえ、久しぶりの人肌なのに、大好きなイケボとの合わせ技!
私、リツコはあっという間にクタクタの骨抜き状態。我ながらチョロいものね……。
とりあえず、若づくりはサラック様に通用したみたいで良かったわ。
ホッと胸をなでおろす私。
昔はひそかにコンプレックスだった化粧映えしない童顔にも、感謝。
こちらの方々は欧米体格が標準のようで、ソーヴェ様のように北欧のバイキングを彷彿させる大柄な方々が沢山いる。
そんな方々と並べば私みたいな極東アジア人は大抵、子どもみたいなものだ。若づくりというより単なる体格差の問題かもしれないんだけど……。
まぁ、何でもいいか。
そんなことをボーッと考えているウチにサラック様に呼ばれた。
「リツコ」
「はい?」
「可愛い……」
サラック様に耳元でストレートに囁かれて真っ赤になる私。
くう~っ、この声!たまりませんわ……。
……げっ!
ルーチェやメイドさん達がニコニコしてこっちを見てることに気づいちゃったよぉぉ……。
我にかえって見回してみれば、私の視界に入ってきたのは……呆れたように私たちを見てるソーヴェ様。
ひょぇぇぇ……恥ずかしい。今更だけど、人前だったわ!
「ハイハイ、盛り上がってるところ悪いわね。サカる前にサラックには一つ注意事項……」
ソーヴェ様が人差し指をたてて、私達の前に座り込んだ。
「邪魔をするな、ソーヴェ」
「続きは後でゆっくりしなさい。まぁ、あんたの好みドストライクだから、我慢できないのかもしれないけどねぇ」
「人をケモノのように言わないでくれ」
「じゃあ、とりあえず今は彼女を放しなさい」
「イヤだ」
ぎゅっと一層、抱き込まれた。
「ぐぇっ……」
嬉しいけど、ちょっと苦しい……。
「あんたねぇ、それじゃヴィンと変わらないわよ」
「あいつと一緒にされるのはイヤだな」
渋々、抱き込んでいた私を放すサラック様。
ソーヴェ様の効果覿面な一言。
……そんなに金の公子と同列にされるのはお嫌なのかしら?!
渋面のサラック様を見て、ソーヴェ様が楽しそうに大口を開けて笑った。
「はは……。我が息子ながら、あそこまでいっちゃったら相手が気の毒としか言いようがないわ。しかしサラック。本当にあんたが好きになる女って、いつも同じタイプよね。ちっちゃくって天然系で……」
「偶然だ」
「そうかなぁ……」
ちっちゃい?
あぁ、亡くなった前大公妃ルガーナ様も小柄だったもんね。
確かに体格は似てるかも。それ以外はヒロイン然とした彼女と私、あんまり似てるところはない……。
「とにかく、まず注意事項その一。リツコは暫くウチへ置いておく事。しばらくあんたは通い夫で我慢しなさい。大公宮へは連れて行ってはダメよ」
ソーヴェ様は真面目なお顔を作って言った。
「わかってる。色んな奴らをムダに刺激することになるだろうしな。彼女の身元を詮索されても厄介だ」
「あら、アッサリ。意外だったわ」
「どういう意味だ?」
「恋に狂った男はなりふり構わず、自分のところに拉致して行くかと思ったのよ」
「……それこそ、ヴィンセントならやるだろうな」
「そうね、サラックには一応、一国を預かる自覚があるってことね。素晴らしいわ。私的にはつまらないけど」
「つまらない、って。お前はトラブルを呼びたいのか?未然に防ぎたいのか?どっちだ、ソーヴェ」
サラック様は唸り声をあげた。
「トラブルなんてとんでもない。私、ハッピーエンド至上主義者ですもの。だからこうやって親切に注意してあげてるのよ?感謝なさい」
「それはどうも……」
セリフが棒読みですよ、サラック様。
「全く。心がこもってないわね。あ~あ、つまらないわ。私より強いイイ男が空からでも降ってこないかしら」
「戦ならカルゾでやれよ。頼むからエストには飛び火させないでくれ」
「失礼ね。何で私だと戦になるのよっ。ロマンスでしょ、ロマンスっ」
あら?
ソーヴェ様って意外に恋愛体質?
まぁ、こんなにお綺麗だから相手がいない方が不自然ではあるけれど……。
ん…?
また、モヤモヤしてきたわ。私……。
「何がロマンスだ。大体ソーヴェより強い奴なんて、人じゃない厄災以外何物でもないだろうが……」
「失礼ね。私より強い男は世界中を探せば居るわよ」
「そうだな……。南国キヒナの魔人王とか?それとも北のグルナッシュ無敗将軍か?」
「ちょっとぉ。それ、正体不明の化け物ばかりじゃないの……」
「相手に不足はないだろ?倒しがいあると思うぞ」
「だから、何故戦う相手の話になるわけ?」
二人の延々続く応酬をボケッと聞いていた私は、内心のモヤモヤに突き動かされるまま、呟いてしまった。
「やっぱり、メチャクチャ仲良しですよねぇ……。お二人とも」
「は……?」
「へ……?」
私の言葉に固まる二人。
しまった。要らんスイッチ押しちゃったかな。
「サラック様ってソーヴェ様と昔、恋……」
私の言葉を猛然と否定するお二人。
「「ナイナイ」」
イヤ、でも息ピッタリですし。
「これからも未来永劫、ソーヴェに手を出そうなんて命知らずは、メンフィぐらいしか出てこないだろうな」
身震いして言うサラック様。
イヤ、それはちょっと大げさでは?
「……いいじゃないの、一人居れば充分よ」
「ソーヴェは昔から寝起きがむちゃくちゃ悪くてな。寝てる時に近寄るだけでも、寝たまま死人が出るレベルで容赦なく攻撃するんだ。カルゾの使用人が大公宮の衛兵より強者揃いのは、ソーヴェのせいだな」
つまり、ソーヴェ様と朝チュンは命懸けということですね。
なるほど。それはサラック様じゃ絶対ムリだわ……。
私は、そこは深く納得した。
「こないだも起こしに行ったここの執事長が、コイツに蹴られて肋骨を折ったらしい。リツコ、くれぐれも夜中や朝にソーヴェの部屋には近寄るなよ?」
「そうね、その時間帯に私に用事がある時には誰かに言付けてもらった方が良いと私も思うわ」
ソーヴェ様、ご本人も自覚ありなんですね……。
「お前のところの使用人、お前を起こす当番は特別手当てが出ても全員嫌がってるって聞いてるが?」
「まぁ、根性が足りないこと。それなら束になってかかってこればいいのに」
「お詳しいですね、サラック様……?」
何でそんなことを知ってるんだろう。 よその邸の事情なのに。
やっぱり、ちょっと怪しい……。
「ソーヴェがちっとも起きないから長時間待たされることが多くてなぁ……。毎度待っている間、大抵凄い破壊音がするんだ。使用人達も青くなってるし。ここに居ればそのうち、リツコも直ぐにわかるぞ」
「はぁ……」
そんなこんなで、私はしばらくカルゾ邸にお世話になることになったが、なんとなく抱えてしまったその日のモヤモヤは……。
なかなか、消えてはくれなかった。




