第41話 あの日のメロディ?
再度、気がついたら……。
見知った部屋でした。
高い天井。
一人で寝るのには充分過ぎる広さのフカフカのベッド。
毎日取りかえられる清潔なシーツの洗剤の香り……。
ここは、ゲンメ公邸マルサネの寝室!?
「帰ってきた……?」
ガバッと起き上がると、ピキッと慣れた感覚が腰に走る。
「いったぁ……!」
ついでに足もつったっ!
「……っ!!」
悶絶してベッドに転がり 、左のふくらはぎをつった方向と逆に緩めて、ひたすら無言でマッサージする。
「はぁぁ……」
ちょっと落ち着いて、ベッドの真ん中に座り込む私。
しかし、……この身体。
この、馴染みのある短い手足と重い身体……。
ひょっとして……。
私はノロノロとクローゼットの隣の姿見に視線を向けた。
そこには、予想通り。
マルサネの若い大柄な姿ではなく、どちらかといえば小柄な方の中年のリツコの姿が写し出されていた。
「どぇぇぇ……っ!!」
どうするのよ。まんまリツコ、私の姿じゃん。
この最近何してもひっこまない下腹!
何とか、たるまないように必死になって、毎晩色々塗ってるほうれい線まわり……。
すぐ、水仕事でガサガサになるハリのない弱った肌。
チラチラ白いものが出てきたのを、必死にカラーリングしてるショートボブ。
……。間違いなく私、サワイリツコの姿だ。
サリアさん、間違えたの?
いや、ここへ行きたいとは確かに言ったけど!
マンションの部屋から、サリアさんに呼ばれて意識がフェードアウトする直前。
真っ赤な月光の中にマルサネの姿が見えたような気がしたから、てっきり……。
私、生き霊が憑依するみたいに、またマルサネの中に入り込むものだと思い込んでた。
まさか、リツコのままだとは……!
しかも、またマルサネの部屋だし。
どーするの、これ。
「……まずいんじゃない?」
だって、この世界で本当の私の姿を知ってる人なんて一人もいないんだよ?
中身がリツコなことを知ってるのも、サラック様ぐらい。あぁ、あとは外国に行ったらしい銀の公子かな。
……。こんなことなら、ルーチェぐらいには打ち明けておくべきだった……。
マルサネお嬢様のベッドに、突然見知らぬオバさんが寝てたら大騒ぎでしょ。
綺麗な女の子とか、若者ならまだ何かありそうな感じだけど、オバさんだよ?
……騒ぎどころか、侵入者か不審者として闇の人達にアッサリ始末されちゃうかもしれない。
怖い考えに捕らわれてベッドに頭から私は潜り込んだ。
「ヤバいヤバいヤバいっ……!」
とりあえず、シーツを被って例のものを探す。
「あった!」
あのデカイフードを発見!
クローゼットの隅っこにちゃんとスタンバイ。
よし、これを被って、と。
「ふ~う……」
さぁ、これからどうしよう……。
コンコン……。
まずいっ、誰か来たっ !
「おはようございます」
ドアの外から聞こえた声は……、ルーチェの声だった。
そっ、と扉が開かれてワゴンが差し入れられる。
ほぼ氷だけのピッチャーと、ベーコン、ソーセージ、ローストビーフと肉だけの盛り皿。
マルサネの朝御飯だろうか。
また、ギラギラしたご飯に戻ってるよ……。だから、ニキビが治らないのに、懲りない娘ねぇ。
「では、失礼いたします……」
あぁっ!ルーチェが行っちゃうっ!!
「待って!お願い!助けてルーチェっ!」
「……?」
ワゴンを押していたルーチェの足が止まったようだ。
廊下のガラガラ、という音が止まった。
「誰です?なぜ私の名を?」
低い、囁くような声でルーチェが答えた。
しまった!声が……、マルサネじゃない。
リツコの声じゃ、怪しまれるだけじゃん。
考えろ!考えるんだ、リツコ……。
「……ララララ~♪、ルルラルラ~♪……」
追いつめられた私の口から咄嗟に出たのは、ルーチェが洗濯などしてる時にリクエストされて歌っていたメロディ。
「え……?お嬢、様?」
「お願いルーチェ、私の話を聞いて……!」
必死な私の懇願にするり、とドアが開いてルーチェが室内に入ってきた。
「サラック茶がお好きな方のお嬢様、ですね」




