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第38話 現実への帰路!

「退院おめでとうございます」

「ありがとうございます。お世話になりました」

私は地元の市民病院の軋む扉を押して、外に出た。


「暑い……」

眩しい日射しに思わず、手をかざす。


たった、10日間。いつの間にか、月が変わって梅雨は過ぎ、夏空の青さが目にしみる。



今日は、平日。

子ども達は、学校だ。和奏はまた、会社を休んで付き添うと言ったが仕事に行かせた。


これ以上、新人に休暇を取らせるわけにはいかないし、私はどこか身体に異常があるわけじゃないから、一人でも平気だ。



目が覚めてから一通り検査をしたが何の異常もなく、医者の許可も出て、めでたく本日退院になった。


医療保険の手続きや診断書の依頼だなんだ、と雑用に追われてのんびり考える時間もなく、退院まで時間は穏やかに何事もなく過ぎて、今日に至る。



荷物は昨日、和奏達が持っていってくれたので、バッグ一つの軽装で移動できるのは有難い。



(これから、我が家へ帰るんだ……)


(我が家……?)

(私の住所は……)


(エスト城下町、オーリオ通り、ロンバルディア街区8……)


タクシーに乗って、運転手にそう告げたら連れてってくれるだろうか。


ボンヤリ黒塗りのタクシーを眺めながら、平日の駅ビル街を抜けて複合駅の方向へ歩く。


(しっかりしなくちゃ……ここは、日本。私が生まれ育った国……)



見慣れてるのに違和感のある風景の中、私はどうやって家まで戻りついたのか、全く覚えていない。


いつどうやって電車を乗りかえたのかも記憶にない。


ふと気がついた時には電車の座席に座っており、また気がついた時には自宅の前の道をフラフラと歩いていた。


(私、大丈夫かしら……)


子ども達の手前、これまで何でもないように振る舞ってきたが、自分がひどく混乱していることに気づく。



私……、自分がどうしたらよいのか、全くわからない。


何が本当で、何がそうでないのか。


真っ当に考えれば、この世界の私が本当でマルサネだった私が幻だったのだろう。



それをどこかで否定したい私が、心をかき乱している。


(どうして、私はここにいるんだろう……)


そんなことを考えていたら、私は玄関の前に立っていた。


「ここを開けたら戻るんだ、私に。私は……澤井律子」


ポーチから鍵を取り出して、 私は深呼吸する。


(……マルサネ……)

(……お嬢様ぁ……)


目をつむると、響いてくる声。


思わず、カッと目を開くとマンションの屋根越しに、真っ赤な月が見えたような気がした。


(……月……!ブラッディ・ムーン……?!)


幻覚だったのだろうか。向こうの空に見えた、滴る血のような真紅の月は……。


私が瞬きすると、そこにあった月は消え、赤色が広がっていたのが嘘のような青い空が広がっていた。



(あぁ、やっぱり……戻れない……のかしら)

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