side:ゲンメ公女マルサネ part5
リツコがネットで買ったらしい地味なドレスに何とか身体を押し込んで、あたしは馬車に飛び乗った。
さっき衣装部屋の前でルーチェを捕まえ、パーティーに至急行きたいと伝えたら、手際よく黙々とあたしの支度を手伝ってくれた。
ルーチェのおかげで何とか、パーティーの時間には間に合いそうだ。
手伝ってくれたことはありがたかった。けど、リツコと明るく楽しそうに支度を手伝っていたルーチェをあたしは知っているだけに何とも言いがたい、モヤっと感が残る。
あたしはリツコとは違うかもしれないけどさ。
同じマルサネなんだから、ちょっとぐらいニコリとしたらどうなのよ……?
今まで使用人にキツく当たってきた自分のことを棚にあげて、ルーチェを追いつめそうになってしまった。
うぅむ。
味方を作るのって難しいわ。
大体、これから行くパーティーだって、どうしていいかさっぱりわからない。パーティーって、何するんだろ?
リツコなら、ルーチェに聞いて二人で色々考えたりしたんだろうな……。
実はあたし、生まれて初めて他公家のパーティーに呼ばれたんだよね~、アハハハ……ハハ……。
だって!あたしは公女なのに、誰も何処にも呼んでくれない。
あの蛇姫だって、奴の地元イベントに呼ばれて姫様扱いされてるのに。
あたしは、何処へいっても狂暴な猿のように暴れると思われてるらしいわ。
だからパーティーっていえば、大昔、あたしの誕生日に食べ放題のバーベキューをゲンメ公邸の畑でやったぐらいの記憶しかない。
絶対、カルゾ公邸の庭には畑なんかないだろうし、食べ放題でもないわよね。
畑の肥の臭いの充満する中で、土にまみれて紙皿を持って肉や野菜が焼けるまでウロウロするのが、あたしの唯一知ってるパーティーなんだけど……。
室内のパーティー……さっぱりわかんないわ。
慣れない衣装を着て馬車に揺られながら、一人あたしはだんだん不安になってきた。
もし、パーティーで突然歌えって言われたらどうすればいいんだろう?
まぁ、歌ってもいいけどさ……。
あたしは蛇姫の言うとおり、昔から筋金入りのド音痴なんだよね。
本当に破壊音しか出ないんだけど……良いんかな?
あたしが歌ったら、間違いなく偽者扱いになるわよね……?
今日は風邪をひいて喉を傷めてることにしよう。うん。
「お嬢様。間もなくカルゾ公邸に着きますが……」
もぉ、着いたの?
何を話せばいいかとか、全然考えれなかったわ。
カルゾ公邸のパーティーに行く、なんてハゲオヤジに即答するんじゃなかったなぁ……。
§§§
「よく来てくれたわね、マルサネ」
馬車を降りると、大柄なゴージャス金髪美女が出迎えてくれた。
「ソーヴェ様……!」
わざわざ、女主人自らのお出迎えに感激するあたし。
やっぱり来てよかったわぁ。
「……マルサネ?」
「はい?」
ソーヴェ様は笑顔のまま、傍らの花瓶の花を一輪、目の覚めるようなスピードであたしに向けて投げつけた。
「……!」
思わず、あたしは反射的に手刀で床に叩き落とす。
花びらを散らしながら、床に落ちる豪華な一輪の薔薇。
「ソーヴェ様。これは一体……?」
「見事な反射神経ね。流石に長年鍛えているだけあるわ」
「はぁ」
あたし、試されたの?
ソーヴェ様。リツコの時はこんなことしなかったのに……。
「ソーヴェ様!」
騒ぎを聞いて小柄なメイドが慌てて駆けつけてきた。
「大丈夫よ、マリン。薔薇のトゲはちゃんと処理してあるわ」
ソーヴェ様の言葉に何か言いたげだったメイドをそっと、どこからか長身の執事が出て来て視線だけで制する。
「ねぇ、マルサネ。貴女は誰?」
シン!と静まり返った玄関ホールにソーヴェ様の凛としたお声が響く。
「え……?」
「質問を変えましょうか。この間までマルサネと名乗っていた人物は何処にいるの?」
「……ソーヴェ様っ」
あたしは、唇をギリッと噛んだ。
流石ソーヴェ様。あっさり、中身が違うって見破られちゃったわ。
さて、どうする。
あたしが元々のマルサネです、と釈明してソーヴェ様に果たして解って貰えるだろうか……?




