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side:ゲンメ公女マルサネ part4

「知恵熱が下がったそうだな、マルサネ」

食堂に向かう途中で、あたしはクソオヤジと顔をあわせた。


……相変わらず、頭は薄い。最近の最新育毛の効果は全くあらわれていないようだ。


当然、サヴィートからの報告があがってるから、今朝の騒ぎはオヤジ殿は承知だろう。


これでも闇の元締。

ゲンメの闇の長老が我が子のように手塩にかけて育てた、闇の頂点に立つ人物なのだから。



「残念ながらね」

あたしは食堂の椅子にどかっと座ると冷たく答えてやった。

リツコのようにお父様、なんて呼んでやるもんですか。


「恋の熱も下がったか?」

「さぁ。海蛇の毒なら今朝、貰ったかも」

「聞いてないが、ヤられたのか?」

ハゲオヤジの目がスッと細められる。


「まさか。話にならないほど雑魚だった」

あたしの言葉に少し、安心した様子のハゲオヤジ。

あれ?もしかして心配したの、かな?


「殆どお前一人で片付けたそうだな」

「それなんだけど。あいつらこの間の残党なんかじゃないわ。こないだの大公宮を襲った奴等より数段落ちる下っ端よ」

「蛇姫直属の使い走りだろう。全く懲りないことだ」

「そういうヤツよ、あの女は」


戦闘の話じゃないと会話のできない父娘。

いつの間にか、そんな関係になってしまっていた。


まぁ、共通話題が有るだけマシかな。




「その様子なら、護衛はもう必要ないか?」

「要らないわ。邪魔なだけよ」

あたしはつっけんどんに答えた。



リツコとブラッディムーンの時、あたしが生まれる前の父母を見た。


あの時、このオヤジなりに辛い人生を送ってきたんだなと、多少同情のようなものもあたしの中に芽生えたような気がする。だから少しは唯一の身内である、クソオヤジに優しくしてやろうと思ってはみたが……。


これが、なかなか難しい。

長年染みついた態度はなかなか、変えられない。



「そうか。ではガヴィ達は外すがいいな?」

「お好きにどうぞ」

「では、これはどうする?」

クソオヤジはなにやら上等の高そうな紙で作られたカードを投げてきた。


これは……招待状?

見覚えのある印が押されている。


確か、カルゾ公家の紋章だ。


「ソーヴェにお前、知らないうちにえらく気に入られたらしいな。カルゾの身内だけのささやかなパーティーだと。どうする?」



ソーヴェ様!

リツコ、妙に気に入られてたもんね。



あの、うっとりする戦神のような強さ。

実は長年、ソーヴェ様はあたしの憧れの人物なの。


今までは行事の時に遠くから眺めてるだけだったのに、リツコのおかげで会話が出来るようになって……。



「う~ん……」

でも、そのリツコはもう居ない。


あたし、ソーヴェ様と会話なんかできるんだろうか。



思考がまとまらず、卓上のコップに手を伸ばした。


ちょっと、飲み物でも飲んで落ち着こう。



「多分だが、大公も来るぞ?」

「……ぅげぇっ」

あたしは、口に運んだサラック茶を吹き出した。

よりによって、サラック茶!

こんなところに置かないでよね……。



「ソーヴェのことだからな。どうせお前らを会わせることが目的だろ」

「……」

そっか。そうでした。

リツコに何故だか、大公様もメロメロなんだった。



どうしよう。

母さんやベタ惚れのリツコには申し訳ないけど……。



あたしは大公様って、全く好みじゃないんだよ~!!



まぁ、どこが問題って。


まずは年齢かな。

いくら若く見えるといっても、オヤジと年が変わらないし……リツコと違ってあたしは共通の話題もない。


そもそも大公様は文化人として有名な方。

武道も人並みには嗜んでるらしいけど、あたしのように特別戦闘好きな訳ではない。


リツコが大好きだったネットも、雑誌もグルメも全くあたしは興味関心がないからなぁ…。



そして、一番の理由はあの呑気な笑顔。

あたし、あれが生理的にムリ。



あのお顔みてると、本当にイライラするもん。


ハイハイ、あなたは人生、楽しいことが多くていいですね、みたいな嫌味を言いたくなってしまう。



はっ。

これではあたし。

若い頃のクソオヤジと同じじゃないの。



カモン、母さんの遺伝子~!

降りてこい~!!


奇妙な格好で悶えるあたしを冷たく見ながら、オヤジがイライラして声をかけてきた。

「で、どうする?行くのか?」

「行くわよっ!」


クソオヤジが投げたカードをあたしは開いた。


「……げぇっ……」


こんの、クソハゲッ!!


日付、今日じゃないかぁ~!


今夜だよ、今夜。

もう殆ど時間がないじゃん!


「どうした、断るか?」

慌てるあたしを見てニヤニヤするハゲオヤジ。

クソムカつくわ~。残りの頭髪全部抜いてやるぞ。


「うるさい!行くって言ってるでしょっ!」

あたしは捨て台詞を吐くと、ダッシュで衣装部屋へ向かった。

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