第35話 ある日常の朝?
「ねぇ、ルーチェ。どうしてうちのハゲ狸、じゃなかったゲンメ公が結婚したか、なれ初め知ってる?」
朝食後のお茶を運んできたルーチェは、突然の私の質問に淡々と答えた。
「なれ初めですか?確か、幼馴染同士でご結婚されたと記憶してますけど」
「そっか」
ハゲ狸からのプロポーズ?はあんまり色っぽい感じじゃなかったけど、サリアさんはそれなりに照れてたし。リアクションを見る限り、それなりに惚れてたような気もするんだけど。一応恋愛結婚だったのかなぁ?
「突然、どうしたんですか?お嬢様」
「いや、恋愛結婚だったのかなぁって思っただけ」
「旦那様が恋愛結婚ですか?あまり、イメージが湧かないお話ですね」
「そうね。やっぱり似合うのは、ドロドロした政略結婚よね~」
「私はノーコメントでお願いします」
苦笑いを浮かべて、お茶を私の前にルーチェは置いてくれた。
中身は毎日、安定のサラック茶……毎日、ルーチェが淹れてくれるんだけど、何となく人前で飲むと照れる。
「昨夜、眠れましたか?」
「え?」
「明け方、お嬢様の歌声がきこえたような気がしたので……」
「聞こえた?」
「はい。初めて耳にする歌でしたが……」
「夢を見たのよ。それで明け方に目が覚めたの」
「差し支えなければ、どんな夢ですか?」
「そうね。色々かな。死者の思い、遺された者への思い…みたいなものかしら」
「あぁ、昨夜はブラッディ・ムーンでしたね…」
「……そうだったわね」
ルーチェはそれ以上、突然沈みこんだ私に夢について聞いてくることはなく、黙々とテーブルの上の食器を片付けてまわった。
「で、今日はどうされますか?」
食器を片付け終わったルーチェがいつものように、予定を確認してきた。
「学園に行くわ。このままだと、卒業の単位が足りなくなっちゃうんでしょ?」
「その気になっていただいたみたいで、良かったです。ただでさえ出席日数ギリギリでしたもの」
「ハハハ……そんなにサボってたの?」
「はい。最近はきちんとお休みになられていますが、以前は夜に出歩かれて、昼に起きられることが多かったですからねぇ」
不良娘だな。深夜徘徊してたのか、マルサネは。
大体、私はここ10年ぐらい夜になるとすぐに眠くなるから、夜更かしなんか殆どできないわ。
そのかわり、朝は早く目が覚めるのよね。これから老人になると、この生活リズムはさらに加速していくと思われる……。
「お嬢様。もう、お出かけの時間ですよ」
「え?なんで。まだ早いんじゃ?」
「ダメです。当分、学園までの近道はお止めになるよう、旦那様より指示されておりますので」
「近道禁止って、どうしてよ」
近道の裏道は、表通りでいくより、断然早く学園につける道。近道で行けば、もうちょいゆっくりお茶して着替えができるもんね。
「こないだのイスキアの残党ですよ」
「まだ、捕まってなかったんだっけ?」
「と、聞いてます。副リーダー格の者がまだエスト城下町に潜んでる可能性があるとか」
「どうせ、闇の者達が護衛についてるんでしょ?そんなのへーきよ、平気」
「何事も用心した方が良いですよ、お嬢様」
「え~、まだユックリしたいもん」
「まぁ、まだ寝間着でいらっしゃいますしね~」
結局私はそれからグダグタと着替え、いつものように近道で学園に出かけたのだった。




