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第34-5話 真紅の月!

(「見て、マルサネ。いや、リツコ……」)

しずかな、サリアさんの声が聞こえた。


(「あのふたり……幸せそうでしょ」

「そうね……」)


サリアさんの指差すほうを私は見た。


庭園の小路を生き生きとした瞳の、とても綺麗なフワフワした令嬢が嬉しそうに駆けていく。

庭園のベンチで待っていた若い長身の男も嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、迎えて立ち上がる。


さっきまで、サリアを医療センターに行くように説得していたルガーナ様と、若き日のサラック様。


ニッコリ、光が溢れかえるような笑顔でお互い見つめ合うと、仲良く肩を寄せあって大公宮に消えていく。


昔の事とはいえ、私の心には辛い光景だ。


(「見たくない。見たくない……」)


自分の中から涌いてくるドス黒い、暗い気持ち……。


(「イヤダ、イヤダ、イヤダ……!」)

思わず顔を両手で覆い、目の前の光景を拒否する私。


(「私も一緒よ……。

あの時()、私も見たくはなかったの。

婚礼を挙げて幸せ絶頂の二人の姿を……。

明るい未来を保証された眩しいお二人と、真逆な暗い、先のない死を宣告された私……」)


ささやくように耳の傍でサリアさんの声が聞こえて、私はハッと顔をあげた。



サリアさんの仕業だろう。

ふいに目の前の手入れされた庭園の景色が薄れ、気がついた時には巨大な邸のバルコニーに立っていた。


さっきまでの婚礼前の大公宮から賑やかな喧騒が聞こえ、祝賀ムード漂う明るい庭園から、虫の声が聞こえる、郊外の山中にいるかのような静寂に支配された、どっしりとした貴族の邸宅へ……。


私にも見覚えのある、エスト城下町のゲンメ邸のバルコニーだ。今晩、私がサリアさんに最初に出会った場所。



どこからか、弱々しいすすり泣きが聞こえてきた。

「もう、なぜこんなに苦しいの……?」

青白いやつれた顔、 ほつれた髪もそのままに白い寝着に身を包んだ長い黒髪の娘が嗚咽をもらす。


(「サリアさんはなんで、私にこんな場面を見せるの?」)

目の前のサリアの思いと自分の思いがシンクロするようで、私の胸も締めつけられるように苦しい。



なおも、月光の下、サリアのすすり泣きは続く。



(「そうね……あえて言うなら、知っていて欲しいから、かしら」

「何を……?」

「……ほら、もうすぐやってくるわ。運命が」)



「もう、どうせこのまま死ぬなら……」

サリアの口からぼんやりとした呟きが漏れる。


サリアは目を閉じて何かを呟いたと思うと、バルコニーから身を乗り出して、階下に向かってそのまま身を投げた。

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