第34-3話 真紅の月!
(「サリアさん、一体私に何を見せたいの?」
「……何を見るか、何を思うかは貴女次第」
「……」
「今はしばらく私に付き合って……」)
謎かけのような言葉を紡ぐサリアさんの表情を探るが、私からは影になって見えなかった。
私は彼女に手を引かれるまま、中庭へフワフワとすすむ。
(「……っ!!」)
眼前で、先程まで子犬のように元気に走っていた少女、サリアが建物に入る直前で立ち止まったかと思うと、崩れ落ちるように倒れた。
(「えぇ?!どうしたの、転んだ?頭打ったの?」
「いいえ、転んだのではないわ……」
「はい?!あんなところで倒れてて大丈夫?!」
「大丈夫、ちゃんとすぐに見つけてもらえるから安心して」)
慌てる私に対して、冷静なサリアさん。
そっか、サリアさんはこの先の展開を知っているんだ。
当たり前か。本人なんだもんね……。
「サリア!」
倒れているサリアを見つけたのは、タウラージだった。
彼はサリアの呼吸や意識を冷静に検分すると、植え込みに向かって叫ぶ。
「ここへ医療センターの救急医を呼べ!急げ」
「承知」
黒い影が凄い勢いで、校外に走り出ていく。
「ちっ!」
タウラージはサリアの両脇と膝下に手を入れて抱き上げると、ゆっくり慎重に歩き出した。
「私どもがお運びします」
ゆらっと木陰から黒い人影がタウラージの前に浮かび上がるのが見えた。
「不要だ。サリアの迎えを呼んでやれ」
「はい」
(「あれは、闇の者?」
「そう。ゲンメ当主に代々仕える闇のゲンメの手足よ。彼もゲンメを継いだばかり……あの性格だし、事情もあってなかなか引き継ぎが難しくてね。この頃は闇も仕える者は少なかったはず」
「へぇ~、しかしお姫様抱っこ、譲りませんでしたね」
「……そうね」)
あ、サリアさん。ひょっとして照れてる?
(「ほら、起きたわ?」
「ハイハイ……」)
「タウラージ?」
医務室のベッドに横たえられていた少女が目を覚ました。
「気分はどうだ?」
「頭がクラクラする……」
「貧血の類いかもしれん、医者がくるまで大人しく寝ておけ。動くんじゃないぞ」
つっけんどんにタウラージはそう言うと、さっさと医務室を出ていった。
(「何あれ?感じ悪~い」
「照れ隠しでしょ。当時の私は全くわからなかったけど」
「あれで、わかれっていうのも無理な話だと思うわ……顔が怖すぎる」)
サリアさんは照れ隠しって言うけど、とてもそんな風には見えなかった。この頃から安定の悪人顔なんだもん。
「ここへはタウラージが運んでくれたの?」
サリアの質問に医務室のスタッフが頷く。
「さすが従兄弟さん同士ですね。言葉は少ないですけど、心配されていた様子でしたよ」
「そう……でもね、彼が誰かの心配なんてするわけはないわ。さっきもさっさと行っちゃったでしょ?彼にとって私なんて、どうでもいい使えないゲンメの駒の一つよ。本当に冷血機械人間なんだからっ!」
興奮したようにサリアはスタッフに反論した。
そのサリアの勢いから、今までタウラージとはさぞ、不愉快なやり取りの歴史があったんだろう、ということが推測された。
「まぁ、タウラージ様も当主を継がれたばかりで、何かとお忙しいのでしょう。でも、サリア様のお迎えやお医者様の手配はされていかれましたよ。今日は医務室の医師が不在なことまで、把握されていらっしゃいましたし」
「そういうところは抜かりないのよね。昔から……」
興奮して疲れたのか、まだ青白い顔をしたサリアは、ぽすっとベッドに倒れこんだ。
(「えっ、従兄弟だったの?」
「あら?知らなかった?まぁ、彼の義母の妹が私の母だから、直接血縁ではないんだけどね」
「なるほど。全然似てないと思った……」)
従兄弟同士で片やゲンメ当主ってことは、政略結婚だろうか。血族で結束を固める、なんて閉鎖的なゲンメの一族のヤりそうなことだ。
(「幼い頃から親が決めた婚約者だったの?」
「いいえ、全然」
「えっ、じゃあ何で?」
「ふふ、何でだろうねぇ」)
何だか嬉しそうなサリアさん。
まさかの恋愛結婚?
とりあえず、恋愛結婚的な要素が今のところはゼロなんですが……。




