第34-2話 真紅の月!
(「あれ?」
「ふふ、タウラージよ」
「ウソッ若っ、髪の毛フッサフサじゃん……しかも、天パ?」)
気がつくと私はサリアさんと手を繋いで、手入れの行き届いた庭に立っていた。
目の前を年齢に不釣り合いなほど落ち着いた雰囲気(要するに老けている!)、ドングリ眼なのに鋭い眼光、口を固く引き結び、不機嫌そうな表情をした黒髪巻き毛の若い男が通りすぎていく。
残念ながら背は低いが、何だか妙に威圧感は半端なく、彼がタダ者ではないことは誰が見ても一目で分かる。
「……!」
私たちの視線に気づいたのか、タウラージは私たちがいる方向に振り返った。
その見る者を刺し殺すような、ゾッとする冷たい視線に思わず、私はサリアさんにすがりつく。
(「サリアさん……」
「大丈夫。私たちは見えないわ。タウラージは勘が良いから、気配を読んだのかもしれないけど」)
タウラージは訝しげに首をかしげ、建物の方へ戻って行く。
(「ここは?」
「学園の庭よ。ちょうどタウラージと私がマルサネと同じ年の頃かしら」)
隣にいるサリアさんは懐かしそうに目の前の噴水広場を見つめている。
ということは約20年前ぐらいの学園だろうか?
道理で何となく私にも見覚えがあったはずだ。
庭のレイアウトは今もあまり変わっていない。
今はアンティーク調になっている、見覚えのある噴水やベンチがピカピカな所が違うぐらい。
「サラックさまぁ」
今度は、広場に長い黒髪の少女が現れた。年齢の割に表情はあどけない。何となく、幼女が遊ぶ着せかえ人形のように整った可愛らしい顔だちだ。走ってきたらしく、健康そうなプックリとした頬が上気して赤くなっている。
「サリアか、どうした?」
広場のベンチで何やら本を広げながら微笑んでいたのは、若き日のサラック様。
深いダークブラウンの髪、高い鼻梁の整ったお顔、長い手足。そして、変わらない人の良さそうな、へにゃっとした温かい笑顔、私の大好きな深い低音の耳に響く良いお声……。
「やったぁ、今日はルガーナ様はご一緒じゃないのですね!」
心底嬉しそうなサリアに苦笑するサラック様。
「あぁ、今日は一日、留学生会館で過ごすらしい」
「もしかしてあの、噂のメチャクチャ強い姫様達とですか?」
「そのようだな。どうもルガーナと気が合うようだ」
「まぁ……油断したにしろ、以前メンフィ様を一瞬で叩きのめした姫様達ですよね?」
「いや、あれは全く油断などしてなかった。アイツの実力だ」
「え?だってメンフィ様は昨年の武道大会の優勝者じゃないですか」
「まだまだ、メンフィじゃ全く歯が立たないようだったぞ。ま、そこがアイツにはツボったみたいなんだが。
戦闘マニアの感覚は私には理解できない世界だな。強い者ほど美しく、愛しいとは。全く共感できん」
サリアはサラック様の言葉にポカーンと口を開ける。
あぁ、今はソーヴェ様がこの国にやって来て間もない頃なんだな。
私は一人、納得してサリアに同情する。
普通、あんな綺麗な人が鬼のように強いとは誰も思わないもんね。
「で、サリア何用だ?」
「あ、ハイ。大公宮からの使いが来てます」
「またか。やれやれ」
うんざりした様子で、本を抱えてサラック様は立ち上がった。
「悪いがサリア、午後の講義は出れないと伝えてもらえるか?」
「はいっ!」
忠実な子犬のように、サリアはコロコロと校舎へ走って行く。
(「サリアさん、可愛いですね」
「ふふ、ありがとう。この頃はサラック様も若くして大公就任されたばかりで色々バタバタしてたのよね。ルガーナ様との婚礼。それにソーヴェ達がやって来て……色々あったのよ。激動の時代だったわ」
「あの~?サリアさんはサラック様のこと……」
「好きだったわよ。ずっと憧れの人。貴女こそどう思っているの?」
「私、ですか?いや、私はその……好きですけど」
「ふふ、貴女も可愛いわね」)




