番外編 カルゾメイドの溜め息!side:マリンpart11
ナルドさんを涙目でじっと見つめると、目に見えてオロオロとされました。
「マリン……どうしたんですか?何か、気に触ることを言いました?」
「いえ、大丈夫です。何でもありません……」
私はナルドさんからちょっと離れて下を向きました。
出国すると思ってて、まだ一緒にいられるとわかって安心して泣いたなんて……ちょっと言えません。
「それにしても暑くなってきましたね。この麺の香辛料のせいでしょうか?」
胸元を少し寛げて、手でナルドさんが暑そうに扇ぎました。普段、かっちりとしめられてるシャツからのぞく、鍛えられた筋肉に普段よりドキドキする気がします。
ん?
何か、私。変です。
脳ミソがピンク脳になっている?!
「本当に。凄く暑いですぅ……」
何だか、クラクラしてきました。身体の奥からカーっと熱があがってきて、背筋がゾクゾクします。
風邪でもひいちゃったんでしょうか、私。
でも、寒気とはちょっと違うような気がします。
私は自分の身体を思わず、抱きしめました。
「……っ……あぁ……ん」
自分で触っただけで身体中がゾワゾワして思わず、変な声が出ちゃいました。恥ずかしくて、頬に血がのぼってくるのがわかります。
やだぁ……何これ……?
落ち着こうと、慌ててティーカップに口をつけようとしたとたん、
「マリン、もう飲むな!」
ナルドさんの鋭い声がとびました。
「はいっ」
私はティーカップを置いて飛び上がりました。
「どういうつもりだ、パロマの奴……!何を考えてる!」
ナルドさんは低く唸るように言って、スープの深皿にスプーンを投げつけました。
「パロマが……?」
「悪い、気づくのが遅すぎた。スープかお茶に何かが混入されてるようだ」
「一体、何が?」
「おそらく、サテュリオンだと思う。催淫剤の一種を盛られたな。マリン、一応聞くが、耐性訓練は受けたか?」
「いいえ」
私は首を横にふりました。
猛毒を飼うことで有名なイスキアの『海蛇』やゲンメの『闇の手足』に対抗するために、カルゾで警備に携わる者は猛毒などの耐性訓練を受けています。
ただ適齢期の女子は特に不妊や胎児の遺伝子異常を引き起こすリスクがあがるので、カルゾではよほど最前線の希望者以外、女性で訓練を受けている者はいません。
「だろうな。俺はある程度耐性があるが……そこもパロマの奴、計算済か。クソッ」
「一体、どういうつもりで催淫剤なんか……?」
「さぁな。何にしろ質の悪い悪戯だ」
また、すっかり『俺』になったナルドさんは、慎重に指先で残ったお茶とスープを舐めました。
その仕草さえ、やらしいなぁと催淫剤に犯された脳で、私はうっとり眺めてしまいました。
完全にピンク脳全開です……。
「スープの方か……マリンはまだ、あまり手をつけてなくて幸いだったな」
「ナルドさんはほぼ完食ですね……」
「すまない。海鮮スープの味つけで油断した。混入されてる量は大したことなさそうだが……マリン、大丈夫か?」
「大丈夫です……すみません。何か、ゾクゾクして風邪みたいですけど」
「……抜くあてはあるのか?」
「……へ?それってどういう……?」
「恋人でも、性欲処理の相手でもあてはあるかと聞いている」
「ありません!!」
「じゃあ、これ飲んどけ。即効性はないが、何にもしないよりは早く抜ける」
ナルドさんは、懐から錠剤を出すと私に握らせた。
解毒剤かな?
「ひゃっ……あ……りがとう、ございますぅ……」
ナルドさんの指先が触れただけで、ジンジンします。
貰った錠剤を口に運ぼうとしましたが、手が震えて口に運ぶ前にポロリと机に転がってしまいました。
「あっ……」
「仕方ないな……」
ナルドさんは机から錠剤を拾いあげると、自分の口の中にほうり込みました。
「……うぅ……んっ!」
ナルドさんの顔が迫ってきて、気がつくと両頬を押さえ込まれ、少しかさついた熱い唇が重なってきました。
唇をこじ開けられ、私の舌の上に錠剤がおとしこまれます。
錠剤は舌を絡ませるようにされるうちに、シュワっと溶けていきました。
ぼうっと快感に身を震わせていた私は、去っていくナルドさんの舌に自分から無意識に絡みつかせちゃったみたいです。
「……!」
そこから、何かナルドさんもスイッチが入っちゃったみたいで…。
ナルドさんは一瞬、身を震わせたかと思うと、貪るように唇を深くあわせてきました。
「…ん…ぁあ…ぅん…」
そのまま、上顎や歯列をなぞられ、舌を吸い上げられて溢れた唾液を飲まされ、啜られて…。やっと呼吸をする合間に、私は自分でも耳を疑う喘ぐような甘い声をあげてしまいました。
舌で顎の裏や舌の柔らかい部分を擽られるようにされたり、強く吸われたりされるたびに、頭の芯までジン!と痺れるような快感が全身を駆けめぐり、頭の中は真っ白です。
気がつくと霞がかかったようにボ~っとして、ナルドさんの首に手を回して、私はその逞しい鍛えられた身体にねだるように熱い身体を擦りつけていました…。
「……ぁあ……っ……やっ」
めくりあげられたスカートから侵入してきた熱い手の平の感覚に本能的に腰がひけてしまい、ナルドさんの腕を払った瞬間、ナルドさんの動きがフリーズしました。
「すまない。俺もサテュリオンにヤられてしまったようだ」
ナルドさんは私をぎゅっと抱きしめたかと思うと、ぱっと引き剥がすように身体を離しました。
「マリン、頼む。早くここから出ていけ」
「え?そんな……私が相手ではおイヤでしたか?」
「何を言ってる。逆だ」
「逆?」
「こんな媚薬の悪戯にのって、一時の性欲処理で無理に抱いて良いことなどない」
「無理じゃないです。私は……私はナルドさんなら構いません……」
私はナルドさんにしがみつきました。
なんだか、ここで突き放されたら拒絶されたようで、やりきれませんもの。
私も女の意地です。何より、すっかりその気になってるのに、こんな中途半端で止められるのもツラいですし……。
それに男の人の方が媚薬で興奮状態なら、もっとキツいんじゃないでしょうか。色々と。
「俺が嫌なんだよ、マリン。人を駒のように弄んで動かす、パロマにのせられるのは勘弁だ。俺は自分の意思で、ちゃんとお前を抱きたい。きちんと相手に責任を持ちたいんだ」
ナルドさんは私の手を掴んで立ち上がらせ、ドアのところへ私の身体を押しやりました。
「……ナルドさんは大丈夫なんですか?」
「俺なら大丈夫だ。耐性訓練を受けていると言っただろ?さっきの薬も効いてくるはずだ」
「……でもぉ……」
「でも、じゃない。とにかく早くここから出ろ!!」
「は、はいっ!」
ナルドさんの破壊力抜群の『俺』命令にかなうはずもなく、私はヨロヨロしながらも、慌てて執務室を出るとドアを閉めました。
「失礼しますっ」
私は廊下に出ると執務室のドアを背に、ズルズルと座り込んでしまいました。
薬が効いてきた気配はなく、まだ身体は火照ったままです。
ナルドさんは一人で大丈夫でしょうか……。
いくら訓練して耐性があるとはいえ、一皿ガッツリ食べてしまってましたから、私より催淫剤の影響は強いと思われます。
私を、部屋から出した後にお一人で、そのぉ……処理をされるんでしょうか。
……。
そこはあんまり、考えない方がよさそうです。今、私のピンク脳が妄想で暴走しかけましたわ。
ピンク脳の妄想と言えば……。
そう、私!さっきナルドさんとキス……してしまいました。
薬を飲ませてもらうためとはいえ、一応キスですよね?
あれは治療とか処置的な行為だと言われたら泣いちゃいますよ……。
それに、私もそんなに経験がある方ではありませんが、素人◯貞とか勝手に言われてる割に、そこそこ女慣れしてるような気がします。キスが上手だと思うのは、惚れた欲目かもしれませんが……。
惚れた……のが周囲にダダ漏れだったから、パロマがこんな悪戯を仕組んだのかもとちょっと反省です。
さっき、ボーッとしているうちに部屋を追い出されてしまいましたが、思い出すと何か凄いことを言われちゃったような気がします。自分の意思で……って、どういうことでしょう……。
いやぁ、真面目な彼らしいといえば、らしいのですが。期待倒れだと泣けます。
はぁ~。
こんなことがあって、明日から二人きりでここで密室でお仕事なんですよねぇ。
私、どんな顔して働けばいいんでしょうか。
ナルドさんのことだから、さっきのことなどすっかり忘れてひたすらお仕事に勤しみそうですが……。
まぁ、それならそれで私はいいですけど。ベイト行きはなくなったみたいですし。
結局、ポケットのものはまた、渡さずじまいですけどねぇ。
ふぅ~。
私は深く息を吐き出しました。
これから先のことを考えると、ちょっと楽しみのような、でも私の恋の進展は前途多難な予感のする溜め息でした。




