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番外編 カルゾメイドの溜め息!side:マリンpart9

「おはようございます」

今朝は、私ことマリン・ハーランドの勤務は久しぶりに遅出でした。夕方から夜間までメイド勤務が入っているので、今日は長い一日になりそうです。



「おはようございます」

爽やかにナルドさんの机から挨拶がかえってきました。


見たことのない、少し黄色がかった黒茶色の髪をした若い男がナルドさんの机から立ち上がり、私の方へ向かって歩いてきます。


「え……?」

私がとまどっていると、ダルバがそっと後ろから教えてくれました。

「本国から来たランブロさんよ。今日からここのスタッフに配属されたらしいわ」


「初めまして。ランブロです。本日よりこちらで働かせていただくことになりました。よろしくお願いします」

ニコニコとランブロ青年は人の良さそうな笑顔を浮かべながら、右手を差し出してきました。


「マリンです。ここのスタッフをしております。今日は遅出で……ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

差し出された大きい手を握りました。


フム。剣ダコがあるわね。剣術が得意なタイプかしら。


ゴツゴツした、事務仕事に向かなさそうな手を握りながら私は思わず、得手を探っちゃいました。


「あぁ、こちらは兼務仕事が多いんでしたっけ?ご苦労様です」

「ランブロさんはナルドさんの後任でいらっしゃったんですか?」

「ええ、とりあえずナルド執事長の仕事をある程度引き継ぐように、とソーヴェ様には言われてますが……あの方のように私にこなせるかどうか……」

「私でよければ、お手伝いいたします。わからないことがあれば何でも聞いてくださいね」

私は笑顔を張りつけて一礼すると、机に座って書類のチェックにとりかかりました。


全然、文字が頭に入ってきません。

私の頭の中が、ナルドさんのことでいっぱいになってしまっているからでしょうか。


後任者が赴任してきたってことは、ナルドさんもヴィンセント様と一緒にベイト国に行くことが決まったんでしょう。


いつもの見慣れた書類の山の中にナルドさんではなく、ランブロさんが座っているのが、なんだか違和感というか、寂しい感じがします。


ナルドさんの仕事スピードと量は尋常じゃないので、同じようにこなすのは到底無理だろうな、とランブロさんに少し同情する面もあります。


私もランブロさんが慣れるまでは、しばらく残業が増えちゃうかもですねぇ……はぁ。なんか仕事のモチベーション、ダダ下がりです。



とりあえず、お茶でも淹れてから切りかえて仕事を片づけよう、と私は背伸びをすると給湯室へ向かいました。


§§§


「あら、マリン」

「パロマ!」

給湯室には先客がいました。


「お茶ならスタッフ分、持っていくわよ?」

「ありがとう……なんだか落ち着かなくて」

「あぁ、あの新しい若い執事長でしょ?」

パロマが、ニヤニヤして自分の眼鏡を拭いています。湯気で曇ったのでしょうか。


眼鏡を外したパロマは濃い睫毛に縁取られた、グリーンアイの猫目の美人で、思わず見惚れてしまいました。


「ん?何か私についてる?」


パロマが眼鏡をかけてしまいました。

残念。まぁ、見慣れた眼鏡姿もバリッと知的なできる感じの女!になるので悪くはないのですが……。


「ねぇパロマ、貴女本当に留学申請するの?」

「うん、もう申請ならしちゃったわよ。ソーヴェ様の推薦も頂いたし」

「早っ」

昨日だよね?行こうかなって言ってたの……。


「そう?まだ書類手続きがあるから出国は来週かな?早いといえばヴィンセント様なんて、もう今夜出発よ。一応、私はヴィンセント様付きの副官扱いで、ベイト国でもカルゾ所有の邸宅に置いてもらえることになったから、今夜からでも本当はついて行きたいんだけど……」

「パロマ凄ぉい」

「凄くなんかないわよ。邸宅に置いてもらえる代わりに毎日、ヴィンセント様の一日の行動をソーヴェ様に報告メールいれないといけないし、結構制約が多いのよね……」

「報告係みたいな感じ?」

「まぁ、そんな所かしらねぇ。そんなことより、マリン!告白するなら今日しかないわよ?ボヤボヤしてていいの?」

「はい?」


告白?誰に?


「執事長のこと、気になるんでしょ?」

「え……」

「居なくなってもいいの?」


あぁ、パロマにはバレバレかぁ。寂しいなぁと思ってたの、顔に出てたんでしょうか。


「強引に迫っちゃいなさいよ。執事長は押しまくれば勢いで簡単に落ちるわよ?意外に押しに弱いし。襲っちゃいなさい♪」

「…ちょっとっ!パロマ!!」

「ヴィンセント様とのやりとり見てれば一目瞭然じゃん」

「そうね……って、襲わないわよ……!」

奇襲かけても、反撃されたら実力的に敵わないし。

大体、そういう問題じゃない。上司に襲いかかっていくなんて、本当に単なる痴女じゃん……。


「執事長ねぇ、学生時代はモテたんだけどなんか、真面目で変な女に騙されたのか、殆ど付き合った相手が見当たらなくて、多分素人◯貞。

ほら、こないだ最近は、全く娼館の利用はないってマリンには教えたじゃない?でも日々のオカズ雑誌は購入してるから、完全に枯れちゃってるわけじゃなさそうよ。そこそこ、深夜にアダルト動画の視聴歴もあるし。ちょっと、弱味をみせて煽ればのってくるんじゃないかな?

不定期に購入してる袋とじの特集で若い女の子のグラビアが気に入ってるみたいだから、マリンみたいな小柄で童顔グラマーは結構好みだと思うんだけど?」

ツラツラと最近調べあげたと思われるナルドさんの恋愛方面の情報を開示するパロマ。


こないだから、色々調べてるみたいなんだけど、その辺の探偵事務所なんかより、個人情報がよほど詳細で怖い。

こんな風に暴かれるならうっかり、ネット検索したり買い物したりもできないわ……。


「パロマ!本人が聞いたら泣くよ……?情報ソースはどこ?」

「うふふ。ソコはヒミツ。まぁ、ちょっと気になったから普通に洗ってみただけだけどね?そうそう。最近、通販のアダルトショップの高額購入歴があるのよ……」

「……それって例の箱でしょ?」

「そう。アルルもだけど、マリン。あんたでもきっと似合うわよ、猫耳。猫耳つけて襲っちゃえ!」

「私だったら、猫耳つけた部下に突然襲われたら嫌だわ」

「そうかなぁ?」

「そうよ!」

「はい、マリン。とにかく、これ執務室持ってって」

パロマに一人分のお茶セットのトレイを渡されました。


「一人分?」

「ふふん。今日はヴィンセント様は邸外回り中。今日の執事長のスケジュールは、一日中執務室に缶詰みたいよ?ほら、襲うならチャンスは今!」

「だから襲いませんって」

「まぁ、頑張って~!なんか執事長、忙し過ぎて昨日からあんまり食べてないみたいだから、軽食も厨房から貰っていくといいわよ?遅い朝ごはん代わりに二人で食べなさい?もう二人分頼んであるからね」

パロマはそう言うと、事務所の皆さんの分のお茶を持って出ていきました。



一人、給湯室でパロマに持たされたトレイを持って立ちつくす私。


心の準備、いやポケットのものを渡す準備が……。



出国前の引き継ぎや片づけでしょうか。パロマが何で知ってるかは置いといて、ろくに食事もとらずにお仕事をされているのも心配です。


ひっかかるのは、パロマのお膳立てというところですが……。


私は最近、すっかり癖になった大きな溜め息をつくと、トレイをワゴンにのせ厨房に向かいました。

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