番外編 カルゾメイドの溜め息!side:マリンpart2
「あの~、ナルドさん?あの時の……」
「えっ、あっ、マリン!?今忙しいので、また後でっ!!」
何処がどう忙しいんでしょうか。ボリュームランチ食べ終わって、今、のんびりコーヒー飲んでましたよね?
ガチャガチャと皿を鳴らしながら、慌ててすっ飛んで食堂を出ていくナルドさん。
はぁ。
私はナルドさんに、露骨に避けられてるようです。
あのゴミを拾った朝から。
私のポケットには、焼け焦げたゴミが入った袋がスタンバイ。
何か大事そうにしていたから、お返ししようと思って声をかけると、ことごとく逃げられます。
現在、8連敗中。
机の上に置くのも、仕事中に書類と一緒に返すのも、モノがモノだけに躊躇われません?
私が痴女扱いされても困りますし。
それにしてもいつまで、私はこれ、持ってればいいんでしょうか。返さずに黙って捨てるのが正解かもとは思いますが……。
どうやって捨てるのかも悩みどころです。誰かに見られて、私のゴミかと思われても嫌ですし。
ふぅ~。
「ねぇねぇ、マリン。いつからあの真面目な執事狙いなの?」
「は?」
いつの間にか現れた同僚メイドのモニカが私の隣に座ってニヤニヤしてます。
何ですと?
ナルドさん狙い?
「誰のこと?」
「あんたよ、マリン」
げ、私?!
「最近さ~、何だかいつも気にしてるみたいじゃん?あいつ見てソワソワしてるし。さっきも何か、モジモジ話しかけていくしさ。あいつ、情けなく逃げちゃったけど、マリン、何言ったの?無理やり迫ったの?」
「迫ってないわ!」
私がいつも気にしてるのは、このゴミをいつ返そうと人がいなくなるのを見計らってたからよ。
うぅ~。気があると思われたのは心外だわ。
「別にあんたの趣味をどうこうは言わないよ?見てくれは別にそんなに悪くないし。年齢的にもそこそこ経済力もあるんじゃない?浮気はしそうなタイプでもないし。婚活物件としては悪くないんじゃないの?」
「モニカ、私、婚活してないから」
「え、じゃあ、何かの罰ゲームとか?」
「どんな罰ゲームよ……」
「真面目な執事をその気にさせてこい、みたいな?」
「それ、ナルドさんみたいなタイプにやったら、あとで絶対トラブるやつだよ」
「ふ~ん、じゃあ何よ?」
「ちょっと用事があってさ」
「あぁ、なんだ。人事とか書類的なもの?」
ナルドさんはこの邸の人事や細々とした、庶務の責任者をしています。
親身に相談にのる感じではないですが、淡々と的確に書類を処理するスペシャリストなので、行政的な手続きの相談、身内の相続とかの相談をしてる人もいるみたいです。まぁ、細かい理屈っぽい尋問に耐えることが出来る方だけ、ナルドさんを利用することをオススメします。
「まぁ、そんなところ?」
「なんだ、言いにくい系のやつか。アイツが一応、苦情窓口だもんね~。何かマリンに嫌なことを言うヤツがいるの?」
「いや、職場苦情とかじゃないから。大丈夫」
「そっかぁ、じゃ、ご身内に何かあったとか?」
「う、うん」
「そっか。力になれそうなことがあったら言うんだよ~」
身内に不幸があったことになったけど、ナルドさん狙いと思われるよりいいか……。
お父さん、お母さん元気なのにゴメンナサイ。
明日こそ!
朝イチで誰も居ないところでさっさと返してしまおう。
……そう思って頑張って朝イチに出勤してきたのに、いつもなら真っ先に座ってるはずの執事机に主の姿はありませんでした。
「おはよ~、マリン」
モニカに目を擦りながら挨拶されました。
「おはよ~、モニカ。あれ?朝はお休みじゃなかった?」
「うん、当直明け~。何か、また朝から食堂がバタバタしてて」
「また、ソーヴェ様達の親子喧嘩?」
最近、何だか多いみたいです。数日前も派手にやられたみたいで……。
喧嘩、というよりも、いつも一方的にソーヴェ様がまくし立てて、ヴィンセント様が聞き流されるような感じで……またそれが火に油を注いでるような。
「ん~、何か地下の工事がどうのこうのって」
アクビしながらモニカがナルドさんの机に座りました。
「あぁ。最近、地下室の工事してるもんね。物置なのに、やたら工期が長いような気もするけど…」
「ねぇ、マリン。この箱かしら?今朝届いた事務用品の箱って……」
「え?」
「さっき、ヴィンセント様がナルド執事のところに事務用品が届いているかもしれないから、執務室に運んでおいてくれって」
「え~?ヴィンセント様が?わざわざそんな事言う?」
「執務室のインクでも切れたのかしらね」
「おはようございます」
「おはよーございます」
「おはよ~、ダルバ。パロマ」
使用人棟から続々と出勤してきました。
「あれ?ナルドさん遅くない?」
「あぁ、今日遅出になってる。ソーヴェ様にゲンメ公邸までお使い頼まれてるみたいよ」
黒板の予定表をみて、パロマが答えてくれました。
「ふ~ん、じゃこれ持っていこうかな……ん?何かやたら重くない?」
「インクだから?」
「半分でいいんじゃない?」
モニカが箱を開けて……固まりました。
「なぁに?これ……」
みるみる真っ赤になっていきます。
「どうしたの?モニカ」
ダルバやパロマも箱の中を覗きこみました。
「うっわ~!最低……」
媚薬や手錠、拘束器具や大人のオモチャ……。
良く見ると、この間ナルドさんが大事そうに抱えてた箱と同じサイズのGnet通販の箱じゃないですか。
「ど変態執事じゃん!」
「あの堅物執事、実はこんな趣味をお持ちでしたのね~、人の性癖はわからないものです」
ダルバとパロマが面白がって箱の中身を眺めだした。モニカはイケイケの雰囲気のわりには純情らしく、ビックリして固まっていましたわ。
まぁ、私もこないだ初めて実物みたんだけどね。焦げてたけど。
「うわ~、これ何に使うヤツよ?」
「誰か、監禁して拘束するつもりだったのかしら?」
冷静な眼鏡っ子のパロマが中身を手にとって、興味深そうに検分し出しました。
やめなさいって。
おや?
パロマの手にしてるヤツ、私のポケットに入ってるヤツと同じ……。
わざわざ、燃やしたのに同じもの頼むか?
不良品だったのかしら?
でも、それなら返品すればいいわよね。
「何、◯ーター見ながら渋い顔で唸ってるの?マリン」
怪訝な顔でパロマに指摘される私。
「だって、変じゃない?わざわざこんなもの職場に……」
「あっ、おはようございます。ヴィンセント様」
「ヴィンセントさまぁ」
私が口を開きかけたところで、ヴィンセント様が事務室に現れました。
朝からなんと珍しい。
「どうかしました?モニカ、荷物はありましたか?」
「それが、ヴィンセント様……」
箱を示して、再び真っ赤になるモニカ。
「おや、これはいけませんね」
中身をみても表情一つ崩されないヴィンセント様。
「私が没収しておきましょう」
爽やかな笑顔を見せて、箱を抱えて去っていかれました。
「キャー!」
「久しぶりの笑顔~!!」
あんたたち、ヴィンセント様は爽やかに抱えてたけど、あの中身アダルトグッズですけど?
しかも、部屋から出る時、若干嬉しそうにニヤニヤしてたんですけど、見てた?
その後、ナルドさんの変態性癖について皆は盛り上がってたけど、私はヴィンセント様のニヤニヤが引っかかって、モヤっと疑惑が拭えませんでした。




