番外編 第25.5話 カルゾ執事は見た!金の公子と秘密の箱 side:ナルド
物語の時系列で25.5話から番外編がございます。
リツコは少し、お休みです。
暫く、番外編ZONEを公開しますのでよろしくお願いいたします。
はじめまして。私はナルド・クラシコと申します。先代のカルゾ公の代からお仕えしております、事務官兼執事でございます。
私に妻子はございません。花の独身35歳。いい加減、身を固めたらどうだとあちこちから言われ、故郷からやたらと昨今、見合い話が舞い込むようになってまいりました。
ま、私のことはさておき。
当家の坊っちゃま、世間では金の公子などと称されておりますヴィンセント様が学園に入園された幼少期から、このような表現が許されるならば我が子のように成長を見守って参りました。
ヴィンセント様はご両親様の美貌を受け継がれ、皆にそれはそれは、誉めそやされてお育ちになりました。
が、ヴィンセント様当人はいつも無表情。
特に幼馴染みのウィル様以外には誰に心を開くわけでもなく、ひどく大人びた、子どもらしいところがないことが欠点であるようなお子でございました。氷のような鋭い、美貌と才能を兼ね備えた、今や誰にも文句のつけようもない万能な青年に立派に成長されました。
そんなヴィンセント様が、です。
最近、すっかり様子が変わられてしまいました。
表情というか、感情をあらわにされることが出てきたのです。
私にとっては大事件!
今までのヴィンセント様ではあり得ないことなのですが、なぜか誰も私に賛同してくれる者がおりません。
メイド達に相談してみても、「それはヴィンセント様が素敵な恋を知ったからですよ」などとキャーキャー、黄色い声をあげて騒ぎたてるだけ。
全く、話になりません。
恋、かどうか知りませんが、先日の四公会議で「ある令嬢」にヴィンセント様が熱烈な口づけをされたのは、事実のようです。
ソーヴェ様の言葉をお借りするならば、「人前でするには、ドン引きで最低に粘着質な」ものだったらしいのですが。
持ち前のお顔の綺麗さでカバーされ、世間一般の方々には、ヴィンセント様の非常に深い愛情が伝わってきた、と美化された噂が吹聴されているようでございます。
あぁ、やはり。
今日も何だかボンヤリとされております。
私に時間を指摘されるなど、今までのヴィンセント様では本当にあり得なかった事です。
「ヴィンセント様……?」
「あぁ、もうそんな時間か。ナルド」
私に声をかけられて、機械的に執務室へ向かうカルゾ公子ヴィンセント様。
最近のヴィンセント様はボンヤリしているか、イライラと奇行ともとれる行動をされるか……誠に不安定でいらっしゃいます。
元々、幼馴染のウィル様との怪しげな噂はありましたが、あれは化け物じみた公女様達避けのカモフラージュ。
これまで女性には全く見向きもしなかった我が公子様はメイド達の噂通り、いわゆる恋の病に落ちてしまわれたのでしょうか。
まぁ、それならそれで年頃だし、喜ばしいことなんですが……。
私の違和感が拭えないのは何故でしょう……?
高貴な方のお考えは私ども一般人では、計り知れないものだとわきまえてはおりますが……。
それにしても恋ゆえの愚かな行動とはいえ、いささか度をこしているというか、子どもっぽくなられ過ぎているというか……。
何でしょう。公子様にそぐわないのです。
ヴィンセント様が人に興味を持たれること自体に違和感が半端ありません。
人やモノに興味が全くなく、執着されなかったお方が初めて「欲しい」と思ったものが、幸か不幸か、グルナッシュのアディジェ家のモデル、アルルお嬢様だったようです。
まぁ、ヴィンセント様と一緒に居ると分かりやすい独占欲というか、執着に笑ってしまいます。
街に出掛けて、アルル嬢の看板を見つけると「人工物は環境に悪い!」とか仰って、片づけさせてしまうし、アルル嬢のポスターを見つけられたら「掲示物は観光地の景観に良くない!」と急に剥がすように言われるところは、誠に子どもっぽいというか、なんというか。
また、ウィル様直伝で通信機器の扱いにも長けていらっしゃるので、どうもアディジェのホームページの画像を見えなくしたり、掲示板を炎上させたりもしてらっしゃる様子。
そのうち、アディジェから営業妨害で訴えられないか、私はヒヤヒヤしております……。
お母上のソーヴェ様とアルル嬢の母君は御親友同士であったとのことで、おかしなことをしないように、再三ソーヴェ様が注意をされてるようですが、ヴィンセント様のお耳には全く入っている様子はなく……。
お小さい頃は、あんなにお利口だったヴィンセント様が最近のソーヴェ様の一番の悩みの種みたいです。
「本日の最後の陳情者は面会希望ですが、よろしいですか?」
「あぁ……」
私が執務室でお声かけしても気のない返事。
ほら、上の空でいらっしゃる。
「失礼しま~す」
入室してきたのはあざとい胸のあいたドレスを着た、化粧は少し濃いめだがそこそこの美貌の女。
事前の書類ではカルゾ領の南にある有力者の妻で、夫のDVで領地には知らせず、エストに居を構えたいという訴えらしいのですが……。
あきらかな公子様狙いの陳情客ですね。
ソーヴェ様はお優しい方なので、本当に困っている人を救い落とさないように、基本は陳情などしてくる者を無下に断らないように指示されています。なので拾わなくてもよい者まで相手をしなくてはならず、このような女も多々、やってきてしまうのが現状です。
「初めまして、お会いできてとても嬉しく思います、公子様」
女は媚びるように微笑んでおりましたが、ヴィンセント様は視線は書類に落としたまま、無表情に頷くだけ。
まったく女に興味を持たれた様子はございません。
ヴィンセント様のノーリアクションにもめげず、女は大袈裟に両手を組み、胸を強調しつつ必死にアピールをはじめました。
「私はカルゾのロエロ家、メリッサと申します。夫に日々虐げられ、先日は口にするのも憚られるような仕打ちをうけ、エストに逃げて参りました。どうか、公子様のお力添えで保護をしてくださいませ」
いや~、胸の谷間が丸見えですね。
明らかに下着はつけていないので、先っぽも見えそうな勢いです。
男に媚びる計算されつくした、上目遣い。夫に虐待されて逃げてきた人のする表情じゃないですね。私は趣味ではありませんが、お好きな人はこういうタイプはメロメロかもしれません。
「安物の香水臭い」
「肌が汚い」
「唇が紅すぎて病気のようで気持ち悪い」
「上目遣いがわざとらしい」
「化粧が濃くて元の顔がわからない」
「年齢サバ読みすぎ」
「服が下品」
「髪の毛がパサパサで手入れが悪い」
「DV装ってるのに傷がないとは浅知恵な」
「声の出し方も気色悪い」
「胸を丸出しにして痴女か」
「頭の中が自主規制で自主規制……」
容赦なく、氷点下の冷気で目の前の女に言葉の刃をふるわれるヴィンセント様。
「ヴィンセント様!ストップ!!」
目の前のメリッサの顔色がみるみる失われ、聞くに耐えない放送禁止用語まで発し始めたので、私は慌てて止めに入りました。
「心の声がダダ漏れになっていらっしゃいますが?」
「ん?どうした?ナルド」
ヴィンセント様は、御自分が機関銃のように相手に言葉の刃を連射されていたことに気づかれていないようです。
「では、メリッサとやら。今回はロエロからエスト市民に籍を移したいという要望で良いのか?」
メリッサは氷の言葉の連射を浴び、ガックリと床にへたりこんだまま、呆然としておりました。
まぁ、無理はございません。
あのお顔から自主規制ですものね。
「はい、公子様の許可がおりましたので、後は手続きを案内します。ご退出を」
私はさっさと固まっているメリッサをドアの外へ押し出した。
ふ~。
以前は鋭く睨みつけて黙らせるか、微笑んでたらしこむかでしたが。
このようなパターンは初めてです。意図的に発言されているとは到底思えません。無意識下の言動、独り言のようなものが、ガードが緩くなって出てしまったのでしょうか。
それにしても、初対面の人間にいきなり自主規制なんて、人として、如何なものでしょう。
先程の言葉の羅列、普段のヴィンセント様の頭の中身を覗いてしまったようで、思い出すだけで肌がゾワゾワいたします……。
「とりあえず、今日はこれで終わりですね」
私が執務机の書類を整理しはじめたところ、背の高い迫力美女が執務室に駆け込んできました。お母上、カルゾ女公主ソーヴェ様です。
「ちょっと!ヴィン。あんた何で勝手に地下室改造してるのよ!」
ソーヴェ様が領収書の束をヴィンセント様に叩きつけられました。
「将来、快適に過ごすためのちょっとした改装ですよ」
動じることもなく答えるヴィンセント様。
「何がちょっとした改装よ。あんなの立派な監禁部屋じゃないの!」
「……そのように見る方が見たら、そう見えるかも知れませんね」
「知れませんね、じゃないわよ!さっさと元通りにしなさい。わかったわね!」
「わかりました。もう少しカントリー調にマイルドな感じに仕上げてもらいましょう」
「そういう問題じゃありません!もとの物置に戻しなさい!!」
「……」
「監禁部屋のままだったら、こっちも考えがあるからね。私の言うことを聞いてもらうわよ?」
「条件と言うわけですか。いいですよ」
あくまで、監禁部屋は死守したいらしいヴィンセント様。
「覚えておきなさいよ?」
ニンマリと人の悪い笑みを浮かべるソーヴェ様。ソーヴェ様も何か企んでいらっしゃる様子です。
その日は無事、これ以上親子喧嘩もエスカレートすることなく、それぞれお休みになられました。
問題は次の日の朝です。
「ヴィン!!」
朝食をとるためにやってこられたソーヴェ様が朝から、大きな声でヴィンセント様を呼ばれていました。
「朝からどうされたのです?」
ヴィンセント様が食堂に現れると、ソーヴェ様は怒りもあらわに、Gnet大手通販のロゴが入った箱を目の前の息子に投げつけました。
「何よこれ!!いったいあんた、こんなモノどうするつもりよ?」
「あぁ、やっと届いたんですね。中身、見ましたか?」
ニッコリと嬉しそうに微笑まれるヴィンセント様。
「見たから言ってるんでしょ!」
「いくら母親とはいえ、それはプライバシーの侵害…」
「見たくて見たんじゃないわよっ。見られたくなかったら、キチンとしまっておきな!というか、私の名前で発注するんじゃないっ!私の所に届けられて、開けて朝からビックリしたわっ!この変態息子っ!!」
結構な剣幕のソーヴェ様。
これも珍しいことです。一体、箱の中身は何が入っていたのでしょうか……。
「失礼しま~す」
母子で口論に夢中になっていらっしゃったので、好奇心で私は覗いてしまいました。
……見なきゃよかったです。
めちゃくちゃ後悔いたしました。
中身は拘束用の手錠から、怪しげな瓶に入った媚薬。
全身を拘束する革製品から、果ては大人のオモチャまでアダルトグッズがぎっしりとつまっておりました。
私にはちょっと用途が解らないものも入っておりまして……。
主の趣味について、あまり言及したくはありませんが、ソーヴェ様の仰った通り、間違いなく「変態」と呼ばれても仕方ないと思われます。
「とにかく、これは没収よ!」
「母上がお使いになるのですか?」
「使うか!あんたでもあるまいし、そんな趣味ないわ!」
「まぁ使いたくても、お相手もいらっしゃいませんしね」
「余計なお世話よ」
「使わないなら返して下さい」
「返しません。処分します。ナルド、お願いね」
うわぁっ!呼ばれてしまいましたっ。
「はっ、はい」
私はソーヴェ様から箱を受け取り、とりあえず中身が見えないように紐でしっかり縛りました。分別して当家のゴミとして出すのも、どうしたものかと思いますし、コッソリ焼却処分をするしかないでしょうか。
「大体ね、好きな相手にそんなものを使ったら普通は嫌われるのよ?解ってるの?」
「最初にいきなりは全部は使いませんよ?段階を踏んでから、楽しむに決まっているじゃないですか。どれからどのように使用する予定か聞かれたいのですか?」
「お断りするわ。なんで息子の妄想を朝っぱらから聞かなきゃならないのよ……」
しかし、一体どこでヴィンセント様は、そのような知識を得られたのでしょうか。まぁ、Gネットでしょうね。 これはやっぱりネット通信社会の弊害としか…。
「とにかく、アルルに使ったら許さないわ。それこそあんたを逆に一生監禁するから」
「まぁ、誰に何を言われようと、私は欲しいものは手に入れるつもりです。嫌われるつもりもありませんので、ご安心下さい」
「だから、どこからその自信はわいてくるのよ……お願い。約束して、あの子をうちの息子が強姦したなんてことになったら私、リゼルヴァに顔向けできないじゃないの」
「強姦なんかしませんよ。気持ち良いことはしても、酷い目にあわせるつもりはありませんから。そこまでハードなプレイは、別に趣味じゃありませんし」
「……本当に朝っぱらから何言ってるのよ」
全くソーヴェ様に同感です。本当にヴィンセント様はどうされてしまったのでしょうか。
普段、ヴィンセント様がボンヤリされている時に感じる私の違和感。
ひょっとしなくても、恋に悩む感じではなく、妄想全開でいらっしゃるからではないかと思い当たってしまいました……。
「聞かれたので、答えたまでです。とにかく、今回は謝りますのでその箱はお返しください」
「さっき、処分するといったでしょ!ナルド!いいからさっさと早く捨ててきて!!」
「はい~っ」
私は箱を抱えて慌てて食堂を出ました。
退出する私に向けられた背中に刺さるヴィンセント様の視線の痛いことったらありません。
私が退出した後も、外見は姉弟のように見えるお二人ですが、延々母子喧嘩をされていたようです。
まぁ、暫くネットショッピングはソーヴェ様がヴィンセント様のIDを凍結され、利用を制限されるというところで落ち着いたようだったのですが……。
今回のこの「箱」の件については後日談がありまして。
あの日、ソーヴェ様に命じられ、私が確実に箱については焼却処分をいたしました。全然、燃えてくれないアダルトグッズを半泣きで処分した自分を、自分で褒めてあげたいぐらいです。
ですが、数日後。
確実に処分したハズの箱と同じモノが、またナゼか私の事務机の上にのっていたそうです。
その日は私が出勤が遅かったので、私はそれを人づてに聞きました。
運悪く私が出勤する前に事務用品かと思って、お手伝いの女の子たちが開けて中身を見てしまったようです。
…その日を境に、私は「監禁変態執事」という有り難くない称号をいただき、露骨に若い娘には避けられ、同僚や他の使用人から憐れんだような視線を向けられるようになりました。
そして、その箱の行方なんですけどね……。
その日、先に出勤していた同僚に聞いたところによると、若い事務員に箱を開けるように指示をしたのはヴィンセント様だそうです。
女の子たちが、箱を開けてドン引いていたところへご機嫌な公子様がタイミング良く現れ、「これは没収だな♪」と大事そうに抱えて、自らどこぞへ運んでいかれたそうですよ。
恐らく地下室の監禁部屋かと思われます。
後は今朝のことですが、私の滅多に使うことのないIDが乗っ取られて、利用した覚えのないアダルトグッズサイトから請求がきておりました。
所謂、架空請求ではなく本当に利用されたモノっぽいです……明細の商品名が私がこの間苦労して焼いたハズのものと同じでした。
絶対に、絶対に!ソーヴェ様に言いつけてやりますとも。ええ。
お坊ちゃまといえど、私の給料から天引きはどうしても許せません!
そう固く決意をして、今朝出勤したところ、またGnetショッピングの箱が私の机の上に届けられておりました。
もちろん、私には全く身に覚えがございません。
また、ヴィンセント様でしょうか……。
恐る恐る開けてみると、猫耳やら、シッポ、首輪、モフモフとしたコスプレ、やはりその他アダルトグッズがギッシリ入っておりました。
「ナルド、いい趣味ですね」
ほぉら、やはりいらっしゃいました。
「ヴィンセント様!勝手に私のIDお使いになるのはおやめください」
「何か証拠が?」
ハイハイ、あるわけないですね。あなた様がされる事ですものね。
「……」
私は無言で箱を抱えて事務室を出ようとしたところ、ヴィンセント様に止められました。
「何処へ持っていくのですか?」
「ソーヴェ様のところです!」
「母とそれを使うつもりですか?彼女は大柄過ぎて、ちょっと似合わないと思いますよ」
「使いませんから!」
廊下で猫耳やらを抱えてヴィンセント様と口論している私に、通り過ぎる使用人たちの生温い目が……!?
監禁変態執事の次は猫耳変態執事でしょうか……。
「私が届けてあげましょう」
「イヤ、結構です」
貴方、また絶対、地下室運ぶ気ですよね?
「遠慮は無用です」
「遠慮なんかしてません……!」
「この間、母が言ってましたがそのようなモノを初めてで使うと相手に嫌われるそうですよ」
「へ……?」
ヴィンセント様に突然ボソッと耳元で囁かれて、衝撃に私は思わず箱を取り落としてしまいました。
「私は、私はお言葉ですが、童◯ではありません~!」
はっ!
若いメイドたちがスゴく冷たい目でこちらを見ているではありませんか。
「大声で言うようなことでしたか?ではこれは私が運んでおきますから」
私の落とした箱を嬉々として拾い、やはり地下室に向かわれるヴィンセント様。
全く懲りていらっしゃらないようです。
このままでは、毎朝、私の箱地獄は決定でしょう。
公子様の「秘密」の箱が増えていく前に、私はソーヴェ様に勇気を振り絞ってアダルトサイトの請求書を持っていき、相談いたしました。
妙齢の、しかも女主人にアダルトサイトの請求書を持っていく勇気はないだろうとヴィンセント様に見くびられていたかもしれませんが、私だって負けてはいられません!給料が減ってしまうので、死活問題です。
「聞き分けのない子には、お仕置きが必要よね、ナルド」
深~い溜め息をついてソーヴェ様は私からアダルトサイトの請求書を受け取られました。
ソーヴェ様のお仕置きとは?
ちょっと怖くて私にはお尋ねする勇気が、ございませんでした。
今までの私の経験から言わせていただくと、こういう時のソーヴェ様って、何か突拍子もないことを思いつかれて実行されるんですよね……。
何でもいいのですが、これ以上母子喧嘩に私を巻き込むことはやめていただきたいものです。
お願いですから、もう私の机に「箱」が届きませんように……。
(カルゾ執事は見た!金の公子と秘密の箱〈sideナルド〉アラフォー版 ~fin)




