第30話 婚約破棄決行!
「つまらない茶番ですね。いつまでこんな下らないことをされるおつもりですか?」
「ヴィンセント!」
それまで黙って聞いていたヴィンセント様が急に口を挟んだ。
「ウィルに言われてたので、とりあえず黙って大人しくしていましたが。全く、付き合いきれませんね」
「やっぱりウィルか……」
深い溜め息とともに、サラック様の呟きが聞こえた。
やっぱり、って何だろうか。銀の公子が何かしたのかしら?
ソーヴェ様が渋い顔でヴィンセント様をたしなめる。
「ヴィン、大人しくしているって約束だったはずよ」
「約束ですか。幼い子どもでもあるまいし……別にあの箱や部屋は自力で何とかしますから、反古で結構です」
何故だかヴィンセント様の言葉を聞いて、ソーヴェ様の後ろに控える執事が蒼白になっていた。
……あの執事さん、大丈夫かしら?
だけど箱とか部屋ってっ何の話だろう……。
「あっそ。可愛くない子」
口を尖らすソーヴェ様。
「親子喧嘩なら帰ってから勝手にやってくれ」
サラック様が唸るように言った。
「喧嘩ではありませんよ、大公。先日も私は四公家だろうが縁談はお断りするとハッキリ申し上げたはず。私の真実の愛は母に弄ばれるような軽いものではありません」
「軽くはないけど、あんたのは重すぎるのよ……」
ソーヴェ様が今度はヴィンセント様に唸る。
「重くて結構。では、そういうわけでマルサネ。貴女との婚約は破棄させて貰います」
彼にとって二度目?の婚約破棄を金の公子は爽やかに宣言した。
(「婚約破棄ですって!」
「やっぱりですわね。何かのドッキリかしら?」
「大体、おかしいと思ったのよ、ヴィンセント様と猿姫ですもの」)
踊ることも忘れ、群衆は大公の目前で繰り広げられた婚約破棄劇に騒然となったいた。
今日、舞踏会ですよね?
皆さん、私ら見せ物ではないですよ……。
しかし、本当にイケメンの破壊力は半端ない。
私、ざまぁ王子の動画を久しぶりに思い出しちゃった。さすが本物。
美しいお顔に微笑まれて、婚約破棄されたのは私だけど、そんなことを忘れてうっとり見惚れてしまったわ。
「婚約破棄の理由は貴女も私も心に決めた相手が居るからです。よろしいですね?」
ヴィンセント様の言葉に私はコクコクと必死に首を縦に振った。
よろしいに決まってる。
そもそも、私も暴れて婚約破棄してもらおうと思ってやって来たんだもの。
ヴィンセント様から破棄してくれるのは予想外というか、予想すべきだったというか……。
色々、何が目的でどうなってるのか、私混乱してきたわ。
「この婚約、これで無効ね。タウラージ」
「どういうつもりだ、ソーヴェ」
ギロっと狸オヤジが本性丸出しでソーヴェ様にくってかかる。
「さぁ、これからが本番よ」
「?」
「婚約破棄された不誠実な令嬢、もしくは不誠実な公子の処分を大公にしてもらわなくてはね。さて、サラックどうするの?」
ソーヴェ様の突拍子もない言葉にサラック様も呆然としていた様子だったが、自分の名前を呼ばれて我にかえって叫んだ。
「おいソーヴェ、正気か?処分って、お前の息子だぞ?」
「あら、こないだは貴方、自分の息子を国外追放したじゃない」
「あれは……」
「マルサネとヴィンも国外追放する?」
母の言葉を聞いて、嬉しそうに顔を輝かせるヴィンセント様。
何故に?
銀の公子もだけど、そんなに国外行きたいの?
……わかった!ヴィンセント様はアルルの所に行きたいのね。
ある意味、わかりやすいわ。
「二人にそんな事をする理由はない」
「あら、公女として不倫は罪よ。理由はあるわ」
「マルサネは不倫などしていない」
「何故、貴方がそう言い切れるの?サラック」
「……」
口ごもるサラック様。
その困ったお顔をみていて何となく、私。ソーヴェ様の意図がわかってしまった。
サラック様にミスターユッカだと皆の前で白状させようとしているんじゃ…?
でも、それってどうなのかしら?
とりあえず、ソーヴェ様の手の内にのせられてみよう。
「じゃ、マルサネにもう一回聞くわ。貴女の相手は誰?」
「私からは申し上げることはできません」
「なぜ庇うの?」
「ご迷惑がかかるからです。不倫などでは勿論ありません。私が一方的にお慕いしているだけですので」
「片想いだといいたいのね?でも貴女たちがランチをした時、相手の男は部屋を取っていたようよ?それを使ったか貴女に聞くべきかしら?」
「部屋……?」
何のこと?あの日はランチをして……帰ったハズだけど。
私は言われたことが、一瞬理解ができなくて呆然と立ち尽くした。
……!部屋って……サラック様がまさか、そんなこと!?
イヤ、でも部屋なんか使ってないし。
肉体関係あるようにちらつかせたいの?
ちょっとそれは、サラック様の性格的に無理があるんじゃ……。
ソーヴェ様、私たちには過激すぎますわ。
(「そういえば、こないだまでマルサネ姫と言えば猿のように発情されて、男を追い回しておいでになられてたっけ」
「酒場をうろついて、誰とでも寝所を共にされているとも聞いたことがありますわ……」
「いくら公女でも、ヴィンセント様にはあまりにも不釣り合い。本当に公女として相応しくありませんよねぇ」)
やはり。
耳を塞ぎたくなるような言葉が次々に聞こえてくる。
「いい加減にしろ!ソーヴェ。いくらお前でもやり過ぎだ」
険しい顔をしてサラック様が立ち上がった瞬間、
「マルサネ!危ないっ!」
「リツコ、逃げろっ!!」
突然、シュッという空気を切る音とともに何かが私の方向に向かって飛んできた。




