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第29話 断罪イベント?

「帰りたい……」

私に突き刺さる、好奇心丸出しの露骨な視線……やっぱり、小心者の私には耐えられない。


悪役令嬢とかムリだわ。

だって私、所詮ただの主婦だもん……。


さっきまでの私の意気込みは、華やかな衣装に身を包んだ人の迫力と参加人数の多さに圧倒され、あっという間にシューっと萎んでいく。着いたら、いの一番にやってやろうと思っていた高笑い一つ、出来やしない。


だって、唐突に何もおかしくないのに一人で笑ってたらただの変人じゃない?

ああいう高笑いのタイミングとか、用途はイマイチ庶民にはわからないのよね……。


「何言ってるんだ、晴れ姿じゃないか。いやぁまさか、こんな日が来るとはなぁ……さっさと行くぞ」

私の隣で気持ち悪いほど上機嫌な狸オヤジ。

まるで、花嫁の父のような出で立ちだ。この期に及んで尻込みする私の手を掴んで、舞踏会の会場がある大広間に嬉々として引っ張っていく。

エスコートしてるつもりらしい。



悪いけど、ハゲ狸!

ご機嫌なのはここまでよ。


今日の私は暴れてやるんだから!



さぁ、暴れるわよ……。

うき~っ!!



……でも暴れるってさ。


何をど~やって暴れたらいいのよっ!!



この人混みでテーブルでもひっくり返すの?

隣にいるハゲ狸を張り倒せば良いのかしら?

バーコード頭をむしったら、大騒ぎになるかしら?

ダメね。それじゃ、ただの親子喧嘩だわ。


う~ん。



しまった。ルーチェに今までどうやってマルサネが暴れてたか具体的に聞いてこれば良かった……暴れ方もわからないわ、私。




そんなことを考えているうちに、大広間の扉をくぐり、会場にたどり着いてしまった。


定例の舞踏会は前回夜会の時より、簡素化された大公の挨拶が終わった所で楽団が一斉に華やかな楽曲を奏ではじめた。私たちが大広間に踏み込んだ時は正にはじまったところだった。


ユッカの中でも身分の高い貴族階級と思われる、艶やかな豪華なドレスを纏った一団がダンスフロアに次々と散っていく。

おのぼりさんのように、イチイチ感心して眺め、初めて見る舞踏会に興奮する、やっぱり挙動不審な私。



「タウラージ様。主の命でお迎えに参りました。恐れ入りますが、御足労願えませんでしょうか」

奥の四公用にあつらえられたテーブルに着いて早々、執事服の真面目そうな長身の男に声をかけられた。年齢的にも落ち着いていて、黒髪のオールバックがいかにも出来る感じの執事!って感じだ。


「カルゾの執事か、わかった。案内しろ」

「マルサネ様もご一緒にとのことでした。それではご案内いたします」

どうやら、見知った相手らしく警戒感は皆無、スキップしそうな勢いでついていくハゲ狸。私も後ろから、こそこそとついていく。



カルゾ執事に連れていかれたのは、ダンスフロアの真正面。


大公の椅子の隣に人々の注目を一身に浴びてソーヴェ様とヴィンセント様が立っていた。



うっ、眩しい。


相変わらずキラキラしているお二人だわ。美貌を縁取る目映い金髪が光を纏ってそこだけ後光が射しているかのよう。


本当に私らドンヨリ父娘が並んだら、月とスッポンよね……。


ソーヴェ様の隣には、見るだけで胸が熱くなる人の姿。

ユッカ大公、サラック様の姿があった。


「この度は、どういう風の吹き回しだ。何を企んでる、ソーヴェ?」

狸オヤジは開口一番、ソーヴェ様に疑念をぶつける。流石、浮かれてるといっても確認はしたかったようだ。私は後ろから、そっとソーヴェ様に頭を下げる。


「人聞きの悪いことを。ゲンメにとっても悪い話じゃないでしょ?」

「そうだが、あまりにも唐突な話。裏があるとみるのは当然だろ。まぁ、それを込みでも乗らせてもらうがな」



「さぁ、じゃあ始めましょうか。今日のメインイベント」

「それは……婚約披露か?」

ハゲ狸がウキウキと聞く。


「まぁ、そんなところね。でもその前に、皆の前でここで聞いておきたいことがあるけどいいかしら?」

「何をだ?」

怪訝な顔のハゲ狸。



「まずはマルサネからよ、いいかしら?貴女、暫く前から特定の男と何回か、カフェで会っているわね?」


何を言い出すんだ、ソーヴェ様は…。


唐突に私に声をかけた美魔女とサラック様を交互に見てしまった。

サラック様ははた目にもハラハラした様子でこちらを見ている。


「はい。お会いしております」

私の返答に私たちの様子をチラチラと伺っている会場の群衆がどよめく。

まぁ、思いっきりゴシップネタよね。


でもサラック様とのこと。私は否定はするつもりはないから。

こないだセッティングしたのはソーヴェ様ご自身なのに、わざわざここで聞いてくる真意はわからないけど、私は正直に答えた。


「どういう関係かしら?」

さらに追いうちをかけるように質問するソーヴェ様。


「どういうとは?」

何を答えたらいいんだろう。

リエージュとミスターユッカのことをここで話せということ?


「ソーヴェ!このような場でそのような事を聞くものではない」

焦った様子でサラック様が口を挟む。


「サラックは黙ってて。マルサネがその男をどう思っているの?と聞いているの」

ソーヴェ様がピシャリと言った。


「……その方のことは、心からお慕い申し上げております。誰にも代えがたい存在です」

私はすっと頭をもたげて真っ直ぐにソーヴェ様を見つめて答えた。


(「ぉぉ……!」

「……ご婚約されたのに、恋人が……?」

「よくもそのようなことが堂々と言えるものねぇ……」)


会場からヒソヒソと囁く声が聞こえてくる。



「言ったわね」

ソーヴェ様がニヤリとする。



「じゃあ、貴女は他に好きな男がいるのにカルゾに嫁に来るつもりなの?」

「「ソーヴェ!」」

今度は事の成り行きが掴めなくてポカンとしてたハゲ狸も慌てて、サラック様とハモってソーヴェ様を止めようと駆け寄った。


「うるさい男どもね。タウラージもちょっと黙ってて頂戴」

鬱陶しそうに、袖をふってハゲ狸とサラック様を睨みつけるソーヴェ様。


「その相手は今日、ここに来ているかしら?」

「それは、言えません」

「そう。貴女のお相手は父親と同じぐらいの年齢と聞いているわ。家庭持ちなのではなくて?」



(「不倫?!」

「それは……相手はここに?」

「昔から男遊びが激しくていらっしゃるのは有名でしたからね」)


更に会場からざわめきが広がった。

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