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第28話 悪役令嬢の本懐!

「地味すぎるかしら」


ルーチェに着替えを手伝ってもらいながら私は鏡の中の自分の姿を見て、大きな溜め息を吐いた。


相変わらず、ドレス姿の似合わないこと。


今日の装いは当然、以前のピンクフリフリではなく、深いモスグリーンのAラインのストンとしたシンプルなドレス。

ショートカットにした髪型も少し伸びてきたが、耳にかかる程度の短めのボブにルーチェに切り揃えてもらった。

いかつい体型を少しでも隠そうとオフショルダーにして、亡くなったマルサネの母が使っていたというシンプルな首飾りをつける。


ゲンメ公女として正装の完成だ。



「良くお似合いでいらっしゃいますよ。本日はおめでとうございます、お嬢様」

「本気で言ってる?ルーチェ」

「いいえ。でもお嬢様がご自分で決められたことなのでしょう?」

ルーチェの声音は何となく冷やかだ。ヴィンセント様との婚約に納得いってないのだろう。


まぁ、私が一番納得してないんだけどね。


解せないのは、あんなにアルルだけを愛されてる(執着愛?)ヴィンセント様が今回の婚約に反対されなかったこと。

アルルは国内に居ないというし、何か破局的なことがお二人の間にあったのだろうか。

でも、こないだの夜会の感じだとそんな風にもみえなかったんだけど……。


謎過ぎる。



「ご自分で決められたって……抵抗はしたわよ。でも、あのオヤジは聞く耳もたないし。今回のこと、本当にどうなってるのか、さっぱりわからないのよね。ウジウジ考えてもわからないから、もう直接ソーヴェ様に聞くしかないと思わない?」

「そうですね。冗談にしても、大がかりな……国民ニュースにもなってしまってますしね」

「怖くてネットニュースやユッカナウは見れないわ」

私は本気で身震いした。

ユッカ国民からのバッシング、怖すぎる。


「ユッカナウといえば、お嬢様。サラック様のことは良かったのですか?」

「良かったのですかって言われても……こんな風になっちゃったら、どうもならないでしょ」

「そうですね。訳がわからないのは、この間サラック様に引き合わせて下さったのもソーヴェ様。今回、お二人を引き裂くようにされたのもソーヴェ様。元々直情的なところはおありだと思いますが、聡明な女公主様のなされることとは……」

「ルーチェ」

人差し指を口に当ててルーチェを黙らした。


どこで、父ゲンメ公の「闇の手足」が聞いているとも限らない。たとえ、娘でさえも。


「すみません」

「そろそろ行こうか。ルーチェ」

「はい、お嬢様」


これから、大公宮で定例の舞踏会が開かれる。主宰はユッカ大公。先日の夜会のように、大公主宰行事は四公の参加は義務づけられている。

今回は特に、カルゾ公子とゲンメ公女の婚約披露を兼ねていると触れ回され、注目度は半端ない感じだ。


「吐きそう……」

人々の注目は半端ないだろう。

緊張で胃が飛び出そうだわ……。



私にとっての気がかりは、ルーチェの言う通りサラック様のこと……大公として今日も当然、出席されているはず。



サラック様は一体、今回の婚約をどう思われているのかしら……。


もちろん施政者として、四公の政略結婚は当たり前のことでしょう。

今回の婚約は元々、親和的なエストとカルゾにゲンメが加われば三公での圧力になり、南方のイスキアへの押さえになるという政治的な目論見もあり、ユッカの国益にもなる話。

大公は私情でそこに干渉はされないと思うんだけど、私のことは何とも思われていなかったとしたら?

政治の駒の一つに過ぎないと思われていたら、それは…寂し過ぎる。



Gnetでサラック様の即位時のフォトを検索した時、隣に寄り添っていたのは穏やかな柔らかいフワフワした感じの可愛らしい奥様。

小柄で可愛らしいルガーナ様とマルサネは真逆だ。


新婚当時の幸せそうな二人のツーショットを見るのが精神的にキツくて、昔の記事を探ろうと思ったけど見れなかったんだっけ。

若い頃のソーヴェ様にしつこくベタベタして容赦なく張り倒されてるカルゾ公、なんて記事もあって、それは面白かったんだけど……。




私……はどうしたいのかな?


ヴィンセント様と婚約は、ない。


アルルとヴィンセント様の邪魔者にはなりたくないもの。何があったか知らないけど、先日のあの氷のような殺気、ヴィンセント様がアルルを諦めるとは思えないし。何とか、お二人が上手くいくように協力はしたいと思う。



じゃあ、サラック様とは?


私は大公妃になりたいなんて、大それたことは望んでない。望んでないけど……少しでも一緒に居たいと思うことはダメなんだろうか。



でも、良く考えたらサラック様も独身。今後再婚の話も出てくるだろう。


そう、例えばソーヴェ様。

大公妃なら、お美しく親しいソーヴェ様が本当にお似合いだ。



また、ズクン!と胸が痛む。


私の醜い、黒い嫉妬心。


マルサネの義母になろうと申込をしてきた、自由で優しく、美しい女公主。

サラック様は否定して下さったけど、ソーヴェ様はどうなんだろうか。ソーヴェ様に迫られて、サラック様はノーと言えるの?


また、特に国の為なんて言われたら、お二人の意思とは関係なく話が進んでしまうかもしれない……。




「お嬢様……」

気がつくと、ルーチェが心配そうにこちらを見ていた。ハンカチでメイクが取れないように、目頭から押さえられる。私、また泣いてしまっていたらしい。


ヤダわ。本当に更年期ね。涙もろくて……。



「大丈夫よ、ルーチェ。なるようになる」


そうよ、小娘でも有るまいし。ピーピー泣いてたって何にも変わらないわ。


嫌だったら、嫌って皆の前で大声で言ってやればいいだけじゃないの。

どうせ、マルサネはいつも暴れてたんでしょ?通らなかったら暴れてやって、婚約破棄されればラッキーじゃん。



ん?


婚約破棄?!



そっか。

ヴィンセント様に婚約破棄されればいいんだ。



私は「悪役令嬢」なんだから。



婚約破棄、上等!

悪役令嬢の本懐を遂げてやるわ!

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