第27話 衝撃の婚約offer!
「でかした!マルサネ!!」
夢見心地でカフェから戻り、ぽーっとしながら玄関に入ったところで、いきなりゲンメ公=うちの狸オヤジがフガフガ興奮して転がり出てきた。
「はぁ?」
全く、興奮している意味がわからない。
北の領地に髪の毛を育てに帰っていた筈じゃなかったっけ?
暫くこっちには来ない予定では?
見たところ、別段髪の毛は育ってはいない。
むしろ、更に残念な感じになって、汗でべっとり頭皮に張りついているような気もする……。
「あの時、ヴィンセントにキッパリ辞退と言われたから、望みはないとすっぱり思っていたが……一体お前、どんな手を使ったんだ?」
興奮して私の顔面に唾を飛ばす、ハゲオヤジ。
う~ん、バッチい。
同じ年代だというのに、どうしてこうもサラック様と違うんだろう。
「だから、何を仰ってるのですか?」
「まさか、お前知らないのか?」
「はい。何かサッパリわかりませんが」
ハゲ狸殿、慌て過ぎて全く何が言いたいかわからない。
「カルゾが、ソーヴェが婚約を申し入れてきたんだぞ!」
「へぇ、それはおめでたいですね。じゃ、後でニュースでも見ておきますので……」
まだ、私はカフェでサラック様と過ごした幸せオーラの余韻に浸りたいのよ~。
早く自分の部屋に帰らせてよ……ルーチェが部屋で待ってるんだから。
それに申し訳ないけど、狸オヤジの顔が濃すぎてサラック様の面影が薄れてしまう~!
「ニュース?え!?もうニュースに流れてるのか?!」
狸オヤジ、何を慌ててるの?
しかし、そんなにゴシップ好きだったかしら。次期四公だから気になるのかな?何をそんなに興奮してるんだろ。
「さぁ?でもアルルとヴィンセント様ならトップニュースなんじゃないですか?」
「アルル?アルルともやっぱり婚約してるのか?では、この申し入れは一体、どうなってるんだ!!」
「申し入れ……?」
「これだ。おまえも読んでみろ。なんか、新手の詐欺だろうか」
はぁ、立派な紙ですね。
四公の公印、カルゾ家の家紋も印刷されてる、なかなか立派な書簡みたいですけど?
「……この度は、御息女マルサネ様と長男ヴィンセントとの婚姻を前提とした婚約を申し入れたく……?!……どえぇぇぇっ!」
「だろ?」
狸オヤジが鼻を膨らませてフガフガする。
衝撃……!?
衝撃過ぎて逆に冷静になるわ。
まぁ、意味はわからないけど手の込んだ、悪戯の類いじゃない?
「何かの間違いじゃないですか?やっぱり詐欺か悪戯か……」
「儂もそう思う。だが、まぁ続きも読め」
ハゲ狸に促されて機械的に続きも読む。
「正式な申し入れは、お受けいただいた後にさせて頂きます。まずは、取り急ぎお願いまで。ソーヴェ・カルゾ……」
「この自筆のサインなんだけどな、凄いクセ字だろ?間違いなく、ソーヴェのものだと思うんだが……手の込んだ偽造か、イスキアの嫌がらせか。マルサネ、お前ソーヴェからこんな申し入れを貰う覚えはあるか?」
あるかと言われても、ある筈なんかない。
蛇姫あたりから仕掛けられたドッキリ説が一番可能性が濃いのでは?と私も思う。
「全くありません。先日の夜会でお話させて頂いたぐらいでしょうか……」
「一体、その時に何の話をした?」
「何だったと言われても……何だか、先代のカルゾ公にヴィンセント様が似てきたとかそんな世間話だった気がします」
だったよね。その後、泣き過ぎてしまったから正直、あんまり覚えてないわ……。
「先代のカルゾ公って、なんでそんな話をソーヴェがお前に……?そもそも、いつの間にそんな仲良く話すような仲になったんだ?」
「あぁ、思い出しました。蛇姫にアルルを私の名前で呼び出して罠にかけてやると言われて、ヴィンセント様とソーヴェ様にお伝えしたんですわ」
「お前、そう言う肝心なことは先に言え!こないだの銀の公子の件もだが、儂へのホウレンソウが無さ過ぎる」
ホウレンソウって、ここ会社ですか?だいたい報告しようにも、アナタ遠い領地で一人、育毛してたじゃん……。
「はぁ、でもそもそもターゲットが居なくて蛇姫は何も出来なくて、何も起こりませんでしたよ?」
「う~む……じゃあこれは、何かの策略か?」
「と、私に聞かれても」
「だなぁ」
父子で顔を見合わせる。
「可能性としては、ソーヴェ様がアルルを蛇姫から守るために、偽の婚約で蛇姫の狙いをゲンメに向けさせる、とかですかね?」
「う~ん、なるほど。でもそんなぐらいで、カルドンヌは諦めるようなタマか?」
「……まさか。ヒートアッブするだけですわ 」
「だとしたら、尚更これは意味不明だよなぁ……まぁ、とりあえずソーヴェがどういうつもりか知らんが、受けると返事をしとくぞ」
「へ?」
受けて、万が一結婚なんてことになったらどうするつもりなのよ、このハゲ狸?!
「何かの罠でも別に良いだろ。上手くしたら本当に嫁に行けるかもしれないし」
「ええっ~?!」
「そうしたら、儂は大公の祖父かぁ……マルサネ、頑張って励んで後継ぎ生んでくれよ~」
「本気で仰ってますか?」
「本気も本気。念願の孫を大公に据えて外戚祖父として、国政を操る絶好の機会だしな」
ウキウキと軽い足どりで書斎に向かうハゲ狸。
「国政って……エスト大公もソーヴェ様もお元気ですし、ヴィンセント様も黙っているようなお方ではありませんよ?」
「まぁ、やり方はその時はそれなりにあるだろうよ?」
「…!」
私の言葉に振り返って、狸オヤジは目を細めて闇い悪い笑いを浮かべた。
コイツ、絶対に物騒な事を考えてる……。
私が思わず固まっているうちに、書斎にチンチクリンな小男は姿を消した。
忘れてたわ。あのオヤジ、単なるウッカリハゲのオヤジではなかったんだった。
私は唇を噛みしめる。
ゲンメ公主で尚且つ、ユッカの裏社会に君臨する暗殺ギルドの頭領。身内だけど、油断のならない相手。
マルサネを今まで放置してきたのは、母を亡くした一人娘をどう扱っていいかわからなかったからだと思う。愛情もタウラージなりにあったんだろう。だから、娘の好きにさせて尻拭いも黙ってしてきた。
ただ、今の私は以前のマルサネと違う。厄介者だけだった娘が、別人のように大人しくなったことで、彼にとって役に立つゲンメの「駒」になった。ということは、今後は嫌でもゲンメ公の政治的な思惑に巻き込まれていってしまう。
サラック様と会えて浮かれてたわ、私。
気をつけないと……。
身内、父親に足元を掬われてしまう。タウラージも蛇姫同様、目的の為なら何をするかわからない相手だ。
とにかく、まずはヴィンセント様との婚約なんてありえない話の真偽を確かめなくちゃ。
今日、サラック様と私をカフェで引き合わせてくれたのはソーヴェ様の筈。
じゃあ、さっきの書簡が本当にハゲ狸の言うように本物だとしたら……?
う~ん。
一体ソーヴェ様……どういうおつもりなのかしら…?




