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第18話 蛇姫の獲物!

「聞いてます?」

「……?」

私は学園の食堂でボーッともの思いに耽っていた。もうすぐ、掲示板の配信日。


何か、ネタになるようなことがあるかしら……。


毎日、そんな事ばかり考えてる気がする。だって、読者の期待にこたえないといけないじゃない?


毎日の楽しみである、本日のオススメランチも今日は思ったものと味が微妙に違い、ちょっとガッカリだったなぁ……。

学園の食堂の食レポすると身バレするし。どうしたものかしらねぇ。


「……マルサネ、貴女大丈夫?ボケッと宙を見て不気味ですわ」

目の前にはゴスロリファッションに身を包んだ、蛇みたいな美女。


珍しい。蛇姫が一体私に何の用?


「御用件は何?」

「ちょっとはマシな脳ミソになったかと思ったけど変わらず脳筋ですのね。貴女に聞いた私が間違ってましたわ」

「じゃあ、聞かなきゃ良いのに」


イラッとして立ち上がる。

今日のランチは味が濃すぎる。この味付けなら、もうちょい野菜が多目の方が水分が出ていい感じの味になるんじゃないかしら。

食堂のご意見箱にメモを入れておこう。



「待ちなさいよ。何処へいくの?」

「はぁ?」

「人が話をしているでしょう?話は終わってないわ」


これだから、お嬢様ってヤツは……。

無視しても、蛇姫は何処までもついてきそうだしなぁ。


ため息をついて、食堂の椅子にもう一度座った。

「どうぞ」

嫌々向かい側の椅子をすすめる。


「そういうところなのよね。以前とは別人のようよ。貴女が人に椅子をすすめるなんて、人間らしいことをすると本当に驚かされるわ」

失礼なことを言いつつ、気が削がれたのか大人しくすすめられた椅子に座る蛇姫カルドンヌ。


「ずっとご説明してる通り、頭を強打した後に知恵熱とかいう非常に珍しい病にかかりましたの。別人なのは記憶があまり残ってないからだと思いますが、慣れて頂くしかありませんね」

すっかり言い慣れた台詞を私はスラスラと口にした。


頭打って、知恵熱。強引に言い立てればみんな、大抵これで「よくわからないけどそうなんだ」と納得してくれるのよね。そんな事って実際ほとんどないと思うんだけど。



「知恵熱ねぇ……まぁ、いいわ。じゃあ質問に答えて頂戴」

「質問?」

「まずあの女は今、何処にいるか貴女知っていて?ついでにあの銀の公子もよ。国外追放とかバカげた噂もきいたけど、本当はどうなってるの?」

「なぜ私に?イスキア公女である貴女が、私に話しかけてくること自体が分かりませんが?」


蛇姫、先の会議で南北公主同士が睨みあってたこと、忘れちゃったのかしら?

「ふふふ……難しいことを言うようになったわね。マルサネ」

蛇姫は肩をすくめた。

「私はお兄様と違ってそのような小難しいこと、どうでもいいの。金の公子さえ手に入ればね」

蛇姫はチロチロと舌先で紫色の唇を嘗め回した。


わぁ、忘れてた。こいつ、執念深い蛇女だったわ…。あの兄もしつこそうだったし、こんな兄妹に狙われるなんて、ヴィンセント様は本当にお気の毒。


「あのエストの邪魔な貰われっ子も居なくなったことだし、ソーヴェ様の友人の娘だか何だか知らないけど、ぽっと出のモデルになんかヴィンセント様は渡さないわ」

「それで?」

「ゲンメのネットワークなら何か情報を掴んでるんじゃないのかと思ったのよ?」

「さぁ、父なら今、領地に戻ってるので。私では分かりかねますね」


そうなのよ。思わず、こないだの会議でバーコードをかきむしっちゃって。新しい育毛剤試すためだか何だか言って、北の領地に帰っちゃったのよ。ハゲ狸。本当かどうかしらないけど、寒い所の方が引き締まって毛根が育つらしいわ~。


「あら、ゲンメ公はお留守なの?残念」

「居場所を知ってどうするつもりです?また、刺客でも?」

「刺客?まさか。他人になんか、任せないわ。

大体、私自身で手を下さないと何にも楽しめないじゃないの。

そうねぇ、あのキレイなモデル顔をどんな風にしてやろうかしら。どの道具が一番意識を保てるかしらね。出来ればヴィンセント様の前で泣き叫ぶところを楽しみたいんだけど……」


「ストップ。悪趣味にも程があるわ」

うっとりと自分の嗜虐思考を駄々漏れにする蛇姫の口を塞ぐ。


「まぁ、綺麗事を。マルサネ、貴女も散々ウィルブランに悪趣味なことをしてきたじゃないの。そういえばあの女の握手会に行ったり、賊に捕らわれてたアイツを助けたり、随分と仲良くしてるみたいね。いつの間にそんな関係に?」

「別に個人的に親しいわけじゃないわ。どなたか()が、うちの敷地に疑惑が向くように、彼を拐わせたりしなければ関わることもなかったわ」


「ふん、猿姫のクセに生意気ね。素直に居場所を吐けばいいものを」

「もし、知っていても貴女に伝える義理はないと思うけど?」


蛇姫と無言で睨みあう。

蛇姫の虹彩が本当に蛇のように光って、身が縮むような感覚に陥ったけど、負けずに睨み返した。


「まぁ、いいわ。来週に表向きは大公とカルゾ公の全快を祝って夜会が開催されるのは知ってて?」

「いいえ」

先に視線を外したのは蛇姫の方。

今まではマルサネを良いように扱っていたかもしれないけど、これからはそうはいかないわよ。


「ヴィンセント様はそこに、本当に婚約者ならあのアルルとかいう娘を同伴させて来るでしょう。そこまで待つわ」

「お好きにどうぞ。私を巻き込まないで」

「そうはいかないわよ、マルサネ。大公家の主宰だから、四公家の参加は必須。ゲンメ公が領地に居るのならば、参加するのは娘の貴女でしょ?」

「え?」

「アルルとかいう娘、マルサネからの呼び出しには応じるかしら?ヴィンセント様だと見破られるかもしれないけど、貴女の名前なら油断して、ノコノコやって来るかもしれないわね」

「……何をするつもり?」

「それこそ、貴女に教える義理はないわ…」


蛇姫は含み笑いをしながら、椅子を立った。

「私の名前なんか使ってもムダよ。アルルは来ないわ」

「さぁ、それはどうかしら。当日のお楽しみね…」


蛇姫の長い髪を靡かせた黒い後ろ姿を見つめながら、無意識にギリッと唇を噛みしめていたのか、私の口の中に血の味が広がった。



アルルが危ない。

蛇姫は、きっとやる。


どんな手を使っても彼女を狙ってくるだろう。

でも、どうやって伝えたらいいの?



私の頭の中からは、あんなに悩んでいたミスターユッカの配信日のことはすっかり消えてしまっていた。

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