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第11話 迷探偵の推理?

「ちょっと行ってきます」

私はそわそわして、背もたれの高いゆったりとした豪華な肘掛け椅子から立ち上がった。


「またかマルサネ。お前そんなに近かったか?」

「まぁ、お父様。女は冷えたり、ホルモンバランスだったり色々大変なんですよ。ご存知ないですか?」

「ホルモンバランス……?」

隣に座るハゲ狸が娘からの聞き慣れない言葉に目を白黒させていたが、それには構わず私は化粧室へ駆け込んだ。


「はぁ、なんか落ち着かないわ」


だって、宮殿だもん。

床はフカフカの豪華な絨毯。高い天窓がつき、豪華なシャンデリアが煌めく高い天井。


一点豪華な場所を作り込んであることが多い結婚式場とかと違って、360度見回してどこを見てもどこまでも豪華なのよ。


座ってお茶ばっかり飲んでたら、そりゃトイレも近くなるって。何か、微妙に緊張するし。


トイレも内装が妙にキラキラしてて、結局落ち着かない。

そこそこに退散し、 ゲンメに割り当てられている控え室へ戻る途中で、もっとキラキラしている二人組を見かけた。


思わず、植え込みのような大きい観葉植物の陰に回り込んで姿を隠した私。



うわぁ……二人揃ってるぅ。

鼻血もんじゃん。



ユッカナウの次号特集巻頭カラーはこれで決まり、って感じ?


「銀の公子に愛を囁く、金の公子」

腐女子の妄想大爆発、間違いないわっ。


私の視線の先には、窓際の壁にもたれてリラックスして談笑する二人。


昨夜、月の光の下では弱りきってみえた銀の公子は若さゆえかすっかり回復したみたい。


昨夜の凄絶さが滲み出るような美しさは影をひそめ、生命力が溢れるような快活な美しさに変わっていた。

銀の糸のような長めの前髪から時折やんちゃそうに輝く菫色の瞳、艶やかな肌が少年の名残を感じさせ、そのアンバランスな魅力がまたマニアにはたまらないんじゃないかしら。


そしてそんな彼を見つめる、窓から差し込む光に緩やかに流れる輝く金髪に縁取られた端正な金の公子の横顔には、フワッとした柔らかい微笑みが浮かんでいる。


超レアじゃん!


いつもの冷静かつ、氷のような無表情はどこへ?

何、そんな笑い方できるの?反則じゃない?


パパラッチ!カモン!!

どうしてここにカメラはないのっ?


私が物陰で一人で悶えてたら、風向きが変わり二人の会話が微かに聞こえてきた。


「……お前、何か企んでるだろ?アイツをここに呼ぶ必要性が何処にある?」

「それは、保険だといいましたよ?」

「保険なんか要らないだろ。仮にここにヤツが現れても、戦い方さえ気をつければお前一人でも何とかなる相手だ」

「そうでしょうか?」

「力をガードに最低限に回しながら、普通に戦えばお前なら剣で負けることはないと思うけど?」

「それはそうでしょうねぇ」


え?何?

戦う?今日の会議、そんな物騒なことが起こりそうなの?


大公と女公が一緒にいきなりダウンなんて、ちょっと変な話だなと思ったけど……。

クーデターでも起こるのかしら?


それで昨日、うちの小屋に銀の公子が捕まってたの?


誰に?

何のために……?



サッパリわからない。ゲンメはノータッチだって、昨夜銀の公子が言っていた。

ってことはイスキアが何か企んでるの?


蛇姫、なんかめっちゃ企んでそうだから、犯人的なのはイスキア?

今朝のニュース、イスキア艦隊が竜巻で沈んだのとかも関係があるのかしら?



まぁ、なんか物騒なことになってもこの逞しいマルサネの身体なら、戦えそうな気がするわ。

ほら、体が覚えてる、ってヤツに期待。


あ、まだ話は続いてるようね。



「二回もヤツを取り逃がしてるのに、その自信はどこから湧いてくるんだ?」

「次は逃がしませんよ」

「それだけ自信があるなら、アイツを引っ張り出すことないだろ。あんまり虐めるんじゃねーよ?」

「おや?嫉妬ですか?いくらウィルでもあげませんよ」

「いらねーよ。アイツ見てると俺は自分の兄弟見てるみたいな気分になるしな。イトコだけど」

「二人並ぶと中身はともかく、やっぱり雰囲気は似ているところがありますよ。血統ですね」

「ん~、あんまり俺は似てるとは思わないんだが……」


……?今度は誰のことかしら?

ウィルの親戚?まさか、どこかの令嬢を取り合ってるの?


ヒロイン、銀の公子じゃなくて他に居たのね!


隠れキャラかしら?


「ところで血の繋がりはなくても、貴方を溺愛しているあの方の様子はどうでした?」

「あぁ、アスティに頼んどいたのに、やっぱり護衛をまいて、スイーツの食べ歩きだの、ゲームBARだので好き放題してたみたいなんだよな~。もういい年なんだから、ちょっとは落ち着けばいいのに」

「まぁ、じっとしてるのは苦手な方ですからねぇ。で、戻ってきてくださったのですか?」

「あぁ、ソーヴェ様とエストの控え室に居るはずだぞ」

「そうですか。よろしくお願いします」

「顔を見せていかないのか?」

「昨日の朝に顔をあわせましたよ。我が家的にはそれで充分です」

「後で俺が何か言われるのは困るから、一応来いよ。この後の打ち合わせもしたい」

「仕方ありませんね」


二人はエストの控え室の方へ移動していき、会話はそれ以上聞き取れなかった。



何?なに?

血の繋がりはない?

アスティとかソーヴェ様って誰?



くぅ~っ。検索ボタン欲しい~っ。

ユッカ国内ニュースか、人物名鑑でポチれば出てくるんじゃないの?


仕方ない。

その辺の侍女さんに聞こう。


「すみません、ちょっと」

何種類かの髪飾りを持った若そうな侍女を植え込みの陰に呼んでみた。


「ハイ、何でございま……しょう……っ!?」

呼ばれた相手が猿姫だと分かって、気の毒にカタカタ震えてるわ。

「ごめんなさい、何もしないから落ち着いて。騒がないで」


我ながら台詞が変質者と変わらないなぁと思いつつ、逃げられないように手をつかむ。


「ひっ……」

さらに真っ青になる侍女さん。


う~ん、どうしたものか。

こんな時は特にルーチェが居てくれたらと思うわ。

無理にでも連れてこればよかった。ルーチェがクッションになってくれないと、私一人では怯えられて普通にコミュニケーションが取りにくい。


「ちょっと教えて欲しいことがあるの。アスティ様とソーヴェ様ってどちらにいらっしゃるのかしら?」

控え室は公家ごとに別れてるから、場所が分かれば何処の人間かわかると思ったのよ。私なりに怪しまれないように考えた、ナイス質問だわ。


「え……っ!、そ……それは、お答えできません」

「何で?」


控え室とかって教えられないの?

アイドルの楽屋みたいにファンが来るといけないから?


私の反射的な鼻息に怯えながら、侍女さんは果敢に答える。


「主より、誰に対してもそのようなことをお伝えすることは禁じられています」

はぁ、セキュリティとか個人情報ってヤツですね。さすがに大公宮。しっかりしてる。


「じゃ、質問を変えるわね。その髪飾りは誰の?蛇姫かしら?」

侍女さんの抱えている髪飾りはどちらかといえば若い女性向きだ。しかも蛇姫が使うとは思えない正統派のデザイン。公家の侍女が運ぶなら持ち主はどこぞの令嬢じゃないかしら?


「こ、これですか?」

また激しく動揺する侍女さん。


「蛇姫じゃないよね?」

「まさか!カルドンヌ様じゃありません!これは公子様の大切な方のモノです。マルサネ様にお渡しするわけには……」

「大切な方?」


しまった!というように口を押さえてさらに髪飾りを強く抱き抱えてガタガタし出す侍女さん。


脳内にはきっと侍女さんをボコボコにして、髪飾りを奪いとってく野生の猿のようなマルサネの映像がちらついてるんだろうねぇ。


本当にマルサネって素行がジャイアン以下なんだから……。


「大丈夫、取らないわ。だから安心して」

「はぁ……」

疑いの目で私を見る侍女さん。


「それは公子様の大事な方のものなのね。引き留めて悪かったわ。お届けして差し上げて」

「し、失礼しますっ!!」

驚愕に目を真ん丸に見開きつつ、深々とお辞儀をして侍女さんは逃げるように走り去っていった。



ダメだ。

結局誰だかわからなかったわ。


収穫はどちらの公子かわからないけど、やっぱり恋人が居るらしいことがハッキリしたことかな。


さっきの二人の会話を聞いた感じだとヴィンセント様の方の恋人かしら。

しかも、ウィルの従姉妹?


ってことはやっぱりどこかの令嬢よね。

蛇姫とマルサネが異常に苛めるから存在を隠していたの?

わからないけど、その令嬢を守るためにヴィンセント様はウィルに矢面に立ってもらっていたってこと?


ふふん。

どうよ、なかなかの名探偵ぶりでしょ?


さて、答えあわせをするわよ。



意気揚々とゲンメの控え室に戻った私は、うつらうつらとフネを漕いでいたバーコード頭を起こしにかかった。

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