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第14話 止まらない食欲!


その夜。


 スッカリ馴染んでしまったエプロン姿で俺が皿を洗っていると。

 会社から帰ってきた和奏(わかな)姉ちゃんがいつものように、賑やかに帰ってきた。


「たっだいまー! あ~! くっそ疲れたぁ。奏大(かなた)、今日のご飯は何?」

「ハンバーグだよ」

「え~! 今日はハンバーグの気分じゃないわ。たまにはイタリアンが食~べた~い~」

 でた! 和奏姉ちゃんのワガママ。

 先週、ハンバーグ食いたいって言ったの、姉ちゃんじゃねーか!


「あ~! うっせー!! 文句あるなら自分で作れよな!」

 お行儀悪く、いつものように冷蔵庫の扉を足で閉めると和奏姉ちゃんはお茶をガブガブと旨そうに飲んだ。


「あ、マルちゃんはもう食べたの?」

 ……俺の話、聞いちゃいねぇ。


「あぁ。このはんばーぐというヤツ、なかなか旨かった。……ちゃんと和奏と歌音の分は残しておいたぞ」

 マルサネが偉そうに言う。

「まぁ、ありがとう。食べたかったら私の分も食べて良かったのに」

「わ! バカ姉貴! そいつに食べていいとか言うんじゃねーよ。そいつの胃袋、底無しなんだぞ?

 もう、明日の分の米、残ってないんだからな!」

 俺は慌てて和奏姉ちゃんの口を押さえた。


「奏大。あんた、たかが米ぐらいで、本当にケツの穴の小さい男ねぇ……」

「ケツ……?」

 和奏姉ちゃんの言葉にマルサネが不思議そうに俺の尻をじっと凝視する。


「──大変だな、奏大」

「ブッ……!」

 気の毒そうに言うマルサネに、また大ウケして口からお茶を吹き出しそうになる和奏姉ちゃん。


「?」

 首をかしげるマルサネ。

「あー、お前はもうそれ以上なんもゆーなっ!」

 俺はダンッ! と勢いよくサラダの入った皿を食卓に並べる。


「あれ? 歌音は~?」

 和奏姉ちゃんが壁の時計を見た。


「まだ塾だろ。それより姉ちゃん、食い終わったらちょっと話があるんだけど?」

「え~、私、録画してあるドラマ見たいんだけどなぁ」

 お行儀悪くハンバーグに箸を突き刺して和奏姉ちゃんはブチブチ文句を言った。


「じゃあ今、聞いてくれ。……昼間の続きで悪いが、何でコイツを学校に連れて来る意味があるんだ? 俺はここに留守番させとくのがベストだと思うんだけど」

「またぁ? しつこいわねぇ。JKの異世界転生といえば学園ドラマ! それが定番ひゃないふぉ?」

 ずずっと味噌汁をすすりながら答える姉ちゃん。


「定番じゃねぇ。俺が今日どれだけ迷惑したと思ってんだ! どうしても外に出したいなら会社に連れていけよ。留学生のインターンシップ、受けてるんだろ?」

「ダメよ。10代の子は対象外なんだから」


 言い争う俺たちを見て、ボソッとマルサネが言った。

「迷惑をかけて悪かったな……」


「……あ!」

 俺は思わず手で口を押さえた。

「マルちゃん、バカ奏大の言うことなんか気にしなくてもいいわよ。あー、本当にデリカシーないわね、アンタ」

 冷たい目で和奏姉ちゃんに睨まれる俺。


「あのなぁ、コイツの本性知らないからそんな悠長なことが言えるんだよ。外に出すの、下手したら猛獣より危険だぞ?

 それに姉ちゃん達、昨日コイツに変なこと吹き込んだだろ? おかげで死人が出るところだったんだからな!」

「死人? 大袈裟ねぇ。別に変なことなんて言ってないわよ? ……マルちゃん、いったい何をひはのほ?」

 ハンバーグを豪快に口の中に放り込みながら喋る和奏姉ちゃん。


 食うか喋るかどっちかにしてくれ。


「昨日、コイツに死体捨てるところがなかったら殺してはダメだとかいわなかったか?」

「何でもバレなきゃいいのよ、バレなきゃ。……だから何があったのよ? ねぇ、マルちゃん!」

 和奏姉ちゃんは箸を置くと、ワクワクした目でマルサネを見た。


 ──ダメだ、こりゃ。


「ん? 何って……ちょっと家畜の相手をしてやっただけだぞ。まぁ、先に吠えてきたのは向こうだ。ありえんぐらい手応えのない奴らだったが……優姫と奏大に止められたから()()()()()()()()?」

「何もって……骨折れてたぞ、あいつら。お前が強過ぎなんだ。この世界の人間はお前のように、命のやり取りして戦う奴なんていねーんだよ」

 俺はため息をついて、歌音姉ちゃんの夜食用にとっておいたキッシュをマルサネの前に置いてやった。


 和奏姉ちゃんの皿を羨ましそうに眺めていた、マルサネのドングリ眼が嬉しそうに輝く。


 やっぱ、まだ食いたかったみたいだな……。


「へぇ、やっぱりマルちゃんってそんなに強いの?」

 無言でキッシュと格闘するマルサネを見ながら和奏姉ちゃんが感心したように言った。


「あぁ、マジで桁違いだ。俺と優姫の二人がかりでも勝てる気がしない……」

「それは……凄いわね」

 ヒュウ、と思わず口笛をならす和奏姉ちゃん。


「全国覇者の優ちゃんでも歯がたたない、か。こうやって食べてる姿からは想像つかないわ~。全くどんな世界なのかしらね、彼女の故郷って──」

「同感だな」

 マルサネのおかわりの皿を取りかえてやりながら、俺は和奏姉ちゃんに同調した。


 こりゃ、今夜の歌音姉ちゃんの夜食はインスタントになりそうだな──。

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