第12話 JKの放課後! side:マルサネ
ピンポンパンポーン。
「迷子のお知らせです。S戸市内からお越しの澤井 奏大さま。お姉さまがお待ちです。一階、サービスカウンターまでお越し下さい」
この放送の10分前。
手近に居た老人に「奏大は何処か?」と尋ねたら、「ガイジンさんかね?やれやれ」などと呟かれ、あたしは何やらカウンターへ連れていかれた。
そこで化粧の濃いフェルト帽子を被った女に色々質問されたが、何を言われているかさっぱりわからない。
「奏大を探せと言われましても……お客様、携帯番号などの連絡先は御存知ないのですか?」
「番号? なんだそれは……」
この国は人間に番号をつけているのか?
……奴隷制度でもあるんだろうか。
「では、お呼び出しいたしますね。失礼ですが、お客様とどのようなご関係の方ですか?」
「関係? ……うー、あたしの中にいたリツコの子どもだから……息子でもないし……ええと孫か?」
あたしは一生懸命考えながら、答えた。
「は? お孫さん?」
目の前のやたらと睫毛の長い女にバカにされたようにため息をつかれた。
……なんか、感じ悪い奴だな。
「あなた、その制服。S戸高校の子でしょ? 大人をからかって楽しい?」
「からかってなどいない。本当にあたしは奏大が居なくて困っているのだ」
あたしの真剣な言葉に帽子女の後ろにいた上司らしき中年男が口を出してきた。
「キミ、何でもいいからさっさとお呼び出しして差し上げなさい」
「……はい」
女は渋々返事をして手元のマイクをオンに切り替えた。
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「凄いなー、本当に来た」
あたしがサービスカウンターやらの前のベンチに座っていたら何やら慌てた様子の奏大と佳彦、優姫がやってきた。
イケメンオーラを振り撒きながら歩いてくる佳彦を見て、すれ違う女たちは振り返り熱いまなざしを送る。が隣を歩く美少女の優姫を見て、瞬時にあきらめのため息をつくのが見ていて面白い。
佳彦を堂々と指さしている中年女もいた。母譲りの可愛い系の奏大を、チラチラ見ているヤツもいる。これはそれぞれの好みの問題だろう……。
「目立つ奴らだなぁ……しかし、この世界は佳彦のような顔だけ良いヤツが女にモテるのか。
あんな全く筋肉もついていない、吹けば飛ぶようなヒョロヒョロとした身体がもてはやされるとは……理解できんな」
あたしがこっそり呟いていると、
「お前っ! 何やってるんだよっ!!」
奏大があたしを怒鳴りつけてきた。
……そんなに怒ることか?
「まぁまぁ、無事に見つかったんだから良かったじゃないの」
優姫がとりなすと、デレッとして「そうだなぁ」とかモゴモゴ言う奏大。
……何だよ、その態度。
さすがのあたしもこれにはムカっとした。
拳を握りしめていたら、グイグイと佳彦にフロア隅に引っ張られ、なんかフワフワしたモノをあっという間に口の中に突っ込まれる。
「はい。どうぞ」
美味しい。
甘酸っぱいクリームと、フワフワのプリン、ベリー系の果物とアイスクリームなど色んな味が口の中いっぱいに広がった。
「ふわぁ……」
「美味しいでしょ、ここのスペシャルクレープ」
爽やかな笑顔の佳彦がカラフルなショーケースを指差す。
そこには、ところ狭しとさまざまな果物やスイーツにデコレーションされた扇形のデザートがディスプレイされていた。
甘過ぎず、クド過ぎず。
口の中をホロホロと爽やかな後味を残して走り抜けていくクリームのハーモニー。
ユッカのカフェデザートは、やたらと砂糖がふんだんに使われ、ジャリジャリと甘くてあたしは好きではなかった。しかし、この「くれーぷ」とやらのクリームは、スッキリしていて本当に食べやすい。
あたしは、「くれーぷ」を夢中になって頬張った。
スイーツは得意でないはずのあたしがあっという間に完食。
美味しかった……。
「うわぁ、気持ちよい食べっぷりだね~」
なんて言いながら、佳彦が動物にエサを与えるような眼差しを注いでくるのは気に入らないが、無言で手を出したら奏大が自分の分をくれたから、まぁ許してやろう。
「さて、暫く雨はやみそうにないな……今日はもうお開きにしますか?」
佳彦がポケットからスマホとかいう小さな機械を出し、何やら指先で弄りながら言った。
「なんで外が見えないのに天気がわかるんだ?」
あたしは隣でまだ、クレープを食べている優姫に質問する。
ここは窓1つない建物の中で雨の音すら聞こえない。
「雨雲レーダーを見たんじゃないのかな? 雨雲で天気の予測がつくのよ」
「へぇ、佳彦は予知もできるのか?」
「予知? うーん……別に特別なことじゃなくてね。スマホのお天気アプリが教えてくれるのよ」
「……? へぇ……」
何やらわからなかったが、あたしは曖昧に頷いた。
昨日、歌音からこの世界にスマホという魔法の箱のようなモノがある、とクドクド説明された。
それで、それは要するに通信機でネットが使えるモノだ、とまではあたしも理解した。
偉いだろう?
そのうち、和奏があたしにも「お下がり」をくれる、と言っていたがあたしにアレを扱える自信はない。
だってアプリとやらは勝手に喋るし、なにやら人が中に入っているようで正直、ああいうものは気味が悪いのだ。できれば触りたくない。
ショッピングモールを出ようとしたところで奏大が突然、声をあげた。
「あ、お前! そういえば傘、どうした?」
「ん……? 傘?」
奏大に言われてようやくあたしは気がついた。
あの盾みたいな棒、どこに置いてきたっけ……?
うーん……。
わからん。
腕組みをして考えてみる。
この建物に入った時からなかったような気もするが、どこと言われてもなぁ……。
「バス降りた時から持っていなかったような気がするぞ?」
「バスの中だな……」
佳彦の言葉に奏大はため息をつくと、
「そこのコンビニで、買ってきてやるからお前はそこで待ってろ!」
とショッピングモールの隣にある縞模様の店の前で、あたしに顎をしゃくった。
……そこにはベンチもあったが、動物のマークがついている銀色の棒があった。
これってどういうことだ? おい、奏大。
「あ、奏大。俺も行くわ」
佳彦も奏大の後を追いかけて店に入っていく。
ソワソワした様子だ。
あ、トイレか。
「あいつら、仲がいいな」
あたしは、何だか釈然としない気持ちでベンチに腰をおろすと、前を押さえたようなポーズでセカセカ歩く佳彦を眺めながら隣に座る優姫に言った。
「そうね。仲が良すぎるぐらいかな。小学校から一緒なのよ、私たち……」
優姫が何か言いたげに話し始めたところで、
「ゲヘヘ……めっちゃ可愛いじゃん……」
ベンチの向こう側、クサい細長い煙がたなびく銀筒の後方からやって来た二人組の男が突如、優姫に声をかけてきた。
脱色した髪にチャラチャラと鳴るアクセサリーのチェーン。原色のシャツにヨレた制服らしきズボン。
一人は長い髪を油状のもので固め、耳や鼻に金属の輪やガラス玉を皮膚に穴をあけてくっつけている。
なんだ? どこかの蛮族か?
この世界の人間にしては、醸し出す空気が薄汚い。……暴力のニオいがする。
「なぁ、一緒に遊ぼうぜ……」
「……E隙高!?」
隣に座っていた優姫は勢いよくあたしを庇うように立ち上がったかと思うと、男たちを睨みつけた。