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第9話 珍獣娘は注目の的!

「くっくっく……マルサネ……さん、だっけ?君、本当に面白いね……」

「?」

「あ~、なんか笑い過ぎて腹筋が()りそう……ハハハ……」

佳彦はまだ一人、笑いのツボにはまりこんでいた。


「おい奏大、お前の友人。大丈夫か?」

あ~あ、佳彦。モンチッチ娘に不審がられてるぞ。笑い過ぎだ。

「ほっといてやれ。発作みたいなもんだ」


ひーひー言っている佳彦を無視して俺は本題に入った。

「そんなことより何でここに来たんだ? 朝はそんなこと、一言も……」

「奏大が出かけたら、急にワカナにこれを着せられたんだ」

とモンチッチ娘は制服を窮屈そうにつまむ。


……もう脱ぐなよ。頼むから。


「あたしには良くわからんが、ワカナもカノンも『学園ものこそ、異世界転生、ファンタジーものの王道よ!』とか昨夜から興奮して言ってた」

「は?」

「なぁ、奏大。王道、ということはこの世界の学園には王が居るのか?」

真剣な顔でマルサネは教室中を見回した。


「……多分どこの世界でも、王は公立高校には居ねーと思うぞ」

何、考えてんだ。あのクソ姉貴達!


ラノベの読みすぎだよ……そういえば、歌音姉ちゃんの本棚、異世界だの、チートだのそんなのばっかりだった気がする。


「王? 何なに? お国は王政とってるの?」

何とか笑い発作から立ち直った佳彦が、興味津々、俺達の会話に首を突っ込んできた。


「いや、王はいない。我が国は合議制で四つの領地を領主がそれぞれ治めている。一応、大公はおかれているが……輪番だし、それほど権力はないな」

「へぇ………」

「あ、補習授業がはじまるぞ」

予鈴が鳴り、教師が教室に入ってきた。


大丈夫かな? こいつ(マルサネ)。授業とかわかるのかな?


担任の数学教師の念仏のような、抑揚のない解説に目を擦りながら横目で隣を見ると、マルサネは……白目を向いた状態で寝ていた。口は半開き、ヨダレも少し垂れている。


こっ、こえ~よぉぉぉぉぉ……!!


夜、これ思い出したら絶対寝れないヤツだぞ……。


俺は教科書を立て、ダイレクトに隣の寝顔が視界に入らないように防御した。


ふぅ、この顔。心臓に悪いわ……。

怖すぎる。



その後の授業も補習の為、座学が中心だったので、マルサネは座ったまま、同じ姿勢同じ顔で寝続けていた。


……年季入ってるな、この姿勢。


ピクリとも動かないマルサネの顔を見ないようにして、俺はそっと呟いた。


言動から勉強は元々、得意じゃないんだろうという予測がついた。時頭の良し悪しはともかく、勉強嫌いなんだろう。


勉強嫌いなのに、こいつが学校来る意味があるんだろうか? まぁ、この世界のことを学べってことかもしれないが、初日からいきなりとはまた姉貴達も酷なことを……。


しかし普通、知らない世界へきたらもうちょっと緊張するものだろうに。


こんなに堂々とよくもまぁ、眠れるものだ。


全く、大物だよ……このモンチッチ娘は。



……白目を剥いて、ど迫力の表情のまま寝ているマルサネの隣で俺はテキストの英文にマーカーを引いた。


黒板の前では教師が休み明けのテスト範囲の説明をしている。うわぁ、今回は結構量があるなぁ……。


休み明けすぐにテストがあるんだよな。それでちょうど部活もなくなるので、俺は毎日、涼しい図書館にでも籠ろうかと思ってたんだけど。


こいつ連れて、図書館でテスト勉強……できるだろうか。


はぁぁぁ……こいつのせいで赤点を採るのはゴメンだぞ……。

俺は出題範囲を眺めながらシャープペンシルを咥えて唸り声をあげた。


§§§


四時間目終了を知らせるチャイムが鳴って、

「早く行かないとAランチが売り切れるぞ!」

「お腹減ったぁ~」

「オレ今月ピンチだから弁当なんだ……」

「夏に遊び過ぎだろ!」

など、育ち盛りの高校生の叫びが充満する教室内に

「奏大!」

と、爽やかなソプラノ声が響く。


大好きだけど、俺が今、一番聞きたくない声かもしれない……。


「……何の用だよ、優姫(ゆうき)!」

俺は焦ってガシガシと頭を掻いた。


先日、俺に佳彦が好きだと告白してきた幼馴染は、サラサラのロングヘアをなびかせて教室に入ってきた。


「噂の留学生に会いに来たに決まってるじゃない」

好奇心一杯に大きな瞳をキラキラさせている。


「あっそ」

俺はぶっきらぼうにそう言うと、優姫から視線を外した。


うう、今日も可愛いなぁ、クソッ。

態度とはウラハラに俺の心の中はハートマークだらけだ。


「ぷっ……」

俺の気持ちを知っている佳彦は、そんな俺を見て笑いの発作を堪えるかのように、口の端をギュッと引き結ぶ。


ちくしょー、佳彦め。俺にとっては笑いごとじゃないんだぞ……!


「奏大の家にホームスティしているんだって?随分と急だったのね。おばさんの仕事の関係?」

ウチの事情を知っている優姫は訳知り顔にたたみかける。

「あぁ……そんなところだな」

しどろもどろに答える俺には構わず、優姫は屈託のない笑顔をマルサネに向けた。


「こんにちは!あなたが噂の留学生ね?」

「マルサネ・ゲンメだ」

傲岸不遜な態度で挨拶するマルサネ。肩をいからせるから余計にでかく見える。


……猿が縄張り争いしてるみたいだ。


「私は松井優姫。よろしくね」

そんなマルサネの態度には全く意を介さず、優姫はふわっと笑って右手を差し出した。

マルサネは黙ってその手を握ったかと思うと、ニヤッと笑い、とんでもないことを言いやがった。


「奏大。お前この優姫とやらが好きなのか?ちっこくて、ふわふわしてて幼女(ロリ)顔。リツコにソックリな娘だな。母がそんなに好きか?」

「は……?」

モンチッチ娘の言葉に呆然と凍りつく俺。


「えぇ~? 私がおばさんに? そっかなぁ、似てるかなぁ……」

言われた優姫は眉を寄せて真剣に考え込んでいる。


……気にするところ、そこ?

俺としてはスルーされた前半が大ダメージなんですけど……。


「あぁ? 奏大ってマザコンだったっけ?」

佳彦もニヤニヤして言うものだから、

「何言っているんだ! んなわけないだろぉぉぉ!!」

真っ赤になって大声で必死に否定する俺。


「うるさいぞ、奏大。そんなことより、あたしは腹が減った」

俺の袖をつかんで、マルサネは切羽つまった顔で訴えてきた。


俺は色々と言いたいことはあったが、全てを諦めるとため息をついて立ち上がる。

この辺のあきらめの良さは、長年姉達に鍛えられた賜物(たまもの)だ。


「じゃ、食堂行くか……」

「あ、私も付き合うよ」

「面白そうだから、俺も~」

俺達の様子をざわつきながら、遠巻きに見つめるクラスメイトを後に教室を出ると、なぜか優姫といつも早弁をして食堂に来ない佳彦まで着いてきた。


食堂のランチルームへ佳彦と優姫、マルサネの四人で連れだって歩く。


今日は特に校舎中どこへいっても視線が痛い。


柔らかな王子然とした笑みを浮かべ、足が長く甘いマスクの佳彦、ロリ系美少女の優姫と歩いていると、普段から注目を浴びることには多いのだが……。



今日は違う。それだけではない。

絶対こいつのせいだ。


このデカい、モンチッチ娘(マルサネ)


佳彦に向けられる女子からのラブ光線には慣れっこになっていたが、そういう類いとは違う……そう。

まるでパンダかコアラを見るかのように、通りすがり、すれ違う生徒全員にジロジロと無遠慮に眺められた。


あ~、落ち着かねぇ。


だけど、どういう育ちか知らないが当人は珍獣を見るようにジロジロ眺められても、全く気にする様子はない。いっそ、その様子はモンチッチ娘のクセに清々しいほどだ。


ーー注目を浴びることに慣れている?


なぜか、そんな気がした。



この後、財布も持っていないクセに、マルサネはペロリと5人分のスタミナランチを平らげ、食堂のおばちゃんやギャラリーからやんやの喝采を浴びても平然としていたのだった。


俺は……財布の残金が気になって、さっぱり本日のオススメランチが喉を通らず。


結局、それも「なんだ、奏大は少食だな」とトレイごと引ったくられ、あっという間にマルサネに食べられてしまった。


……ひょっとして、モンチッチ娘。国で大食いバナナコンテストにでも出ていたの、か!?

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