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第8話 他人のフリをしたい!

ズキズキする頭痛と目眩に耐え、俺はモンチッチ娘の挨拶を聞いた。


挨拶が終わると無情にもホームルーム終了のチャイムが鳴って、

「今年の留学生、ハズレだな……」

「中東とか、最近やたらアジア人多いよな……?」

「あー、残念。金髪美女が良かったわ」

担任教師が出ていって、無遠慮な感想が飛び交う教室内に、


「奏大!逢いたかったぞ!!」

……マルサネのよく通る大きな声が響き渡った。


し……ん!とざわついていた教室が、一瞬静まり返る。


そして。

当のモンチッチ娘は。


ニッコニコで、その力強い腕を勢いよく俺の首に絡ませ、ハグをかましてきたのだった。


「ぐぇぇぇっ!!」

息が!……ギブギブギブっ!何ていう力だよ……!


俺を殺す気か!?


「……ヤメロ!マルサネっ!」

「あぁ、すまない奏大。つい、嬉しくてな。手加減するのを忘れた」

マルサネなりに心細かったのだろう。見知った俺の顔を見て嬉しさのあまり、力一杯絞めあげてしまったらしい。


「何?奏大、知り合いなの?」

「ウソウソ、もしかして澤井の彼女?」

「え?マジ?澤井って優姫狙いだったのに、タイプ違うくない?」

ヒソヒソと嬉しくない囁きが俺の耳に漏れ聞こえてくる。好奇心剥き出しの視線がチクチクと、痛い。


ついでに最後の噂話にココロも、ジクジクと痛む。


そう。俺は隣のクラスの幼馴染に絶賛失恋中なのだ。


「おいおい奏大、大丈夫か?」

首もとを押さえて咳き込む俺の背中を、佳彦がさすってくれた。


「あぁ……」

「奏大の友人か?」

マルサネが無邪気に聞いた。

「え?うん。加賀見 佳彦だ。よろしく」

佳彦は爽やかに片手を差し出す。


「あたしは、マルサネ・ゲンメ。奏大のウチに本を捨てに来ている」

マルサネはその手を今度は慎重に握ると、おかしな挨拶をした。

「……ん?キミんち、古本屋さん?」

佳彦はマルサネの言葉に首をひねった。


「ホームスティだろぉ……?」

俺の言葉に佳彦が笑いを堪える。

「ぷっ、くくく……なるほど」

「ホームすてい?あぁ、それそれ。ワカナがそんなことを言ってた。よろしくな。佳彦」

ドン!っと男らしくマルサネは自分の胸をたたいてみせた。


うわ、やっぱり猿だ、猿……。


「……ぅくくっ……面白れぇヤツ。それにしても随分と男前な留学生だな、奏大!」

「俺は全っ然面白くないぞ、佳彦」

俺は目の端に涙を浮かべ、笑いを堪える佳彦を睨みつける。


「はぁぁぁ……しっかし奏大の学園は小さいなぁ。人がギュウギュウに押し込められていて、まるで屠殺(とさつ)前のニワトリ小屋のようだな」

思いっきり伸びをして、マルサネが言った。


「屠殺?」

「ニワトリ小屋……?ウサギ小屋なら聞いたことあるけど。文化圈で言い方も変わるんだろうか……」

佳彦が興味深げに呟く。


「あのな、これが日本の平均的な公立高校だ。そんなことより、どうやってここへ来た」

「ワカナが連れてきてくれた。キョートーとかいう上役と話をつけてくれたらしい」

「あー、教頭!」


和奏姉ちゃんもここの高校出身だ。

今の教頭は確か、当時和奏姉ちゃんの部活の顧問をしていたハズ。


……今朝、何か和奏姉ちゃんがニヤニヤしてたのはこういうことだったのか。

制服は和奏姉ちゃんのお下がりだろう。くたびれ具合が半端ない。


やられたっ。

どうりで昨夜、ミシンの音がしてたハズだ。制服の裾を下ろしていたのか……。


「なぁ、奏大。この制服とやらは脱いでも良いのか?」

「何でだ?」

「う~、ワカナに丈は伸ばしてもらったのだが、なんだか胸が妙にキツくてな……」

マルサネはブレザーを脱ぐと、制服のブラウスのボタンを三つ目まで開けて俺達に見せた。


「うわ……っ」

「バカ!早く着ろよっ!!」

俺は慌ててブレザーをマルサネに投げつけた。


「脱いだらダメなのか」

不服そうにマルサネは口を尖らす。


「絶対ダメ!ずっと着てろ!ボタンも開けるのも禁止!」

「仕方ないだろ。ワカナの服は胸がキツい」

「……お前、それ和奏姉ちゃんに絶対言うなよ?」

「なぜだ?」

「気にしてるからだよ」

「何を?」

「胸がちっちゃいことをだよ!」

思わず、大声で言ってしまった。


……クラスの女子からの冷ややかな視線がグサグサと刺さる。


うわ……もう、俺帰りたい……〈泣〉


「ふん、ワカナはそんなことを気にしてるのか。胸が小さければ、揉めば良いではないか。奏大、それぐらい揉んでやれ」

「なんで俺が……!」

 真面目な顔して突然なんてこと言うんだ、この女~!


「弟だろ?一つあたしが良いことを教えてやろう。男が揉むと胸が育つらしいぞ」

声をひそめて得意そうにマルサネが言った。

「そんな教えはいらねーよ!」

「なんだ、奏大は女の胸を触る度胸もないのか。何ならあたしの胸で練習するか?」

「バっ、いらねーよ。それを出すな!頼むから!」

ブレザーの前を開けようとするマルサネを必死に止める俺。

助けを求めて隣を見ると佳彦が、腹を抱えてひーひー言いながら笑っていた。


「……っ……助けてくれ……死ぬ……!」

「勝手に死ね!」

俺は窮地になっても助けてくれない親友に冷たく言い放った。

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