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第6話 貴女のおウチは何処ですか?

「うわぁぁぁぁぁ~っ……!!」

あんまり広くもない3LDK、築10年ちょっとのマンションの廊下に俺の絶叫が響き渡った。


「なんだ?奏大」

首を傾げるマルサネ。

その表情はあどけないが、彼女は何も身につけていなかった。

早い話が、スッポンポンだったのである。


チラッと見えてしまったが、筋肉質のわりに結構、胸がある……。

イヤイヤ、そんなことよりも!!



俺は慌てて後ろを向いて叫んだ。

「おっ、お前!なんでマッパなんだよっ!!」


「奏大、まさかお前……女のハダカも見たことないのか?」

憐れんだ口調でマルサネが俺に近寄ってきた。


「わわっ、こっち来るなぁぁぁ!」

ペタペタ足音が俺に近寄ってくる。

俺はマルサネに背を向けたまま、ジリジリと狭い通路の壁に張りつく。


「奏大。悪いが、着替えはどこだ……?」

「知らねぇよ!あっちに歌音姉ちゃんのがあるだろ!何でもいいから着てこいよ」

俺は彼女を見ないようにして、脱衣場の入り口を指差した。

「何でもと言われても、勝手がわからん……」

ちょっとむくれたようにマルサネが言った。


「バカ姉貴~!早く来い!!」

「うるさいわね、バカ奏大!何騒いでるのよ……あら、マルちゃん。もう出てきたのぉ?」

こんなことになった元凶の姉ちゃん達がリビングからやっと廊下にやって来た。



元凶。


そう、さっき初対面のマルサネに事情を聞こうとした時。名乗ったところでくしゃみを連発していた彼女をこの適当な姉ちゃん達は有無を言わさず、我が家の風呂に突っ込んだのだ。


「あら、冷え冷えじゃないの。女の子は身体を冷やしちゃダメよ!話はあとあと」

「マルサネ?じゃあ、マルちゃんね」

とか言っちゃって。


マルちゃんって……あの日曜日の人気者小学生かよ!って思わずツッコミたくなったが、そんな口出しをする間もなく、マルサネは姉ちゃん達の勢いに押され、訳も分からず風呂に拉致られていき。


要領のよい歌音姉ちゃんが手早くお湯をため、浴槽に勢いよく沈められたらしく、派手な水音がした。

「温まるまで出てきちゃダメよ」

なんて言われているのが聞こえてきたのが、五分前位だろうか。


まさに、カラスの行水。


当人はあっという間に風呂から出てしまい、廊下で不幸にも俺は鉢合わせてしまったというわけだ。



「折角お風呂入ったのに冷えちゃうじゃん。風邪引くわよ。歌音のパジャマ出しといたけど、わからなかった?」

和奏姉ちゃんが自分のカーディガンを脱いでマルサネの裸の肩にかけた。和奏姉ちゃんだとサイズが少し小さいのでピチピチだ。


「すまない。脱衣場が狭くてメイドが居なかったから分からなかった……」

「メイド?へぇ、マルちゃんって見かけによらずお嬢様なのね」

感心したように言う和奏姉ちゃん。


「お嬢様でも何でもいいけど、服ぐらい着てこいよなっ!」

一瞬、思わず振り向いちまったが、俺は慌ててもう一回壁に向かって張りついた。


……。


ロング丈の黒カーディガンが裸体に妙に透けて……余計にエロいわっ!


「なによ奏大。アンタ、女の子のハダカを無料でジロジロ見るんじゃないわよ。はい、マルちゃん手をあげて?」

歌音姉ちゃんがニヤニヤしながら、マルサネにすっぽりトレーナーを被せた。


「ふぅ……こんなの立派な逆セクハラだろうが。俺は被害者だ!」

「?なぁ、セクハって何だ?」

俺の言葉にマルサネは真剣に質問をする。


「セクシャルハラスメント、よ。マルちゃん、英語わからない?」

「エイ……海に泳いどるヒラヒラしたヤツか?」

手をヒラヒラさせて真剣に答えるマルサネに、姉ちゃん達は顔を見合わせた。


「英語圏じゃないのかな?」

「でも、流暢な日本語よね……」

「ま、いいわ。それよりマルちゃんって、結局どこの国の人なの?」

和奏姉ちゃんが尋ねる。


浴室前の廊下から、ダイニングに移動して俺達はクラッカーの皿を囲んで座っていた。


当然、用意したのは俺。

適当にジャムやクリーム、フルーツなどディップするものを並べてやった。

我ながら手際の良さに感心する。誰か誉めてくれ。



「ユッカだが?」

クラッカーを珍しそうに見つめながらマルサネが答えた。


うん、それ。俺もさっき聞いた。

だから、ユッカって何処だろう。


「それ、どこら辺にある国なの?」

流石、受験生の歌音姉ちゃん。

しっかり追及してくれ、頼む。

俺はGoo○le先生に聞いても分からなかった!


「東の海上に浮かぶ島国だ。知らんのか?」

いくぶん、不安そうにマルサネが言った。


「知らないわ」

「全然わからない」

口一杯に、クラッカーを頬張りながらキッパリ否定するウチの姉ちゃん達。


「よし、ちょっと待ってて。奏大、お茶おかわり宜しくね」

歌音姉ちゃんがおもむろに……立ち上がると、何かを持って戻ってきた。


「ほら、これ」

「うわっ、懐かしい……歌音。地球儀なんて、よくあったわねぇ」

和奏姉ちゃんが感嘆の声をあげる。


「ケチ臭くてモノが捨てられない、しみったれた奏大の部屋にあったわ」

嫌そうにいう歌音姉ちゃん。

「人の部屋に勝手に入っておいて、その言い草は……」

「なによ。奏大のクセに文句あるの?」

歌音姉ちゃんは、俺の言葉を昔から嫌というほど聞かされてきたお決まりのセリフで遮る。


「そんなことより、どう?マルちゃんの国あった?」

和奏姉ちゃんは俺達のやり取りをサクッとシカトすると、マルサネの顔前に地球儀をずい、と押し出した。


「これは……何だ?」

マルサネは傍目にも困惑していた。

「地球儀よ。地図みたいなものかな?」

「地球……儀?」

「ここに貴女の国はあるかしら?」

歌音姉ちゃんがクルクルとゆっくり地球儀を回す。


「ほら、ココが今私たちがいる日本」

和奏姉ちゃんが、太平洋の端にある日本を指差してみせる。

「ニホン……いつもリツコが言ってたニホンか……?」

「……ママが?」

マルサネはコクンと頷く。

「あぁ」

「で、マルちゃんの国は?」


「……わからない。この地球儀とやらはあたしは初めて見た」

戸惑うマルサネ。

「うーん……帰る先がわからないと」

「さっき、どうやって来たのかもわからないって言ってたし、送ってあげようにもねぇ」

大抵のことには動じない姉ちゃん達も腕組みして唸る。


「すまない。あたしにもわからないことだらけなんだ」

殊勝にも頭を下げるマルサネ。


「……うまく言えないが、リツコは……あたしと入れ換えであたしの国へ行ったんだと思う」

顔をあげてマルサネは俺達を真っ直ぐに見て、意を決したように言った。

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