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払暁の魔獣使い フォルナ  作者: 小鳥葵
道中の邂逅
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6.目覚め

 ◆


「はっ!」


 フォルナは、美味しそうな匂いで目を覚ました。

 周囲を見渡すと、グアナ、火馬、男の背中……。


(シナン……?)


「あ、起きたね!」


 男が振り返る。


「良く眠れたかい? スープを作っておいた」


 リュキは、顔を見て真ん丸に見開かれたフォルナの瞳を見て、「僕を忘れちゃったのか?」と声をかけた。


「いや、違うわ。覚えてるわよ。あなたが村の外で盗賊から助けてくれたんでしょ? 寝る前に、クイラタの葉を取りに行ってくれるって言ってくれた……」


「良かった。覚えてるみたいだね」


 リュキは、ほっとしたように言った。


(あれは、夢……七年も前のことを、今更思い出した)


 フォルナの隣には着ていたマントがたたまれていることから、自分が寝ていた時に治療されていたことがわかった。


 フォルナはリュキの風貌を眺める。


 年はフォルナよりも1つ、2つくらい上だろうか。端正な顔立ちで、茶がかかった少しだけくせのある髪にゴーグルをつけているのが特徴的だった。


「君の怪我の手当、簡単にだけれどしておいた」


 フォルナは右肩の傷口を見た。

 ちゃんとクイラタから液を抽出させて正しい方法で塗り込み、布が巻かれている。


「ありがとう……私がグアナに治療するやり方をちゃんと見ていたのね。このクイラタの液で塗り込むと治りがとても早いの……スープいただきます」


 フォルナがスープを飲むと、口に山菜の味が広がった。


リュキは頷いた後、フォルナの荷物を指差して、「これ使ってもいい?」と聞いた。


「もちろん。豆と、麦のパンと、香辛料、それと種が入ってるわよ」


 リュキは鞄からこれらを出し火打ち石でおこした火を使って、料理し始めた。

 しばらく経つと、香ばしい匂いがしてきたので、フォルナはその匂いにたまらなくなった。

 

「はい、どうぞ」


 リュキは、豆と種に香辛料を炒り付けて仕上がった料理を葉にくるんでフォルナに差し出した。

 フォルナは目を輝かせて、出された物に勢いよくかぶりつく。


「あはは、君はとても美味しそうだという顔をして食べるね」


「この料理、最高よ! これがトラモント村の味付けなのね」


「ああ。この香辛料はこの豆とよく合うんだ」


 むしゃむしゃと食べるフォルナを見て、グアナが不機嫌そうに鼻でつつく。


「‥‥もうグアナ、村で食べてから時間が経っているし、長い間歩いていたからおなかがすくのも仕方がないでしょう?‥‥‥‥ああ、なんだ、あなたも食べたかったのね。誤解してすまないわ。……はい、どうぞ!」


 フォルナは鞄をまさぐりグアナ用の薬草を取り出すと、グアナは奪うように食べ始めた。


「君達、食いっぷりが似てるな」


「もう、失礼ね。グアナの方がよく食べるわよ」


 フォルナは怒ったような顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「申し遅れたわね。私はフォルナ。あなたは……」


「僕はリュキ。ただのリュキだ」


「リュキ‥‥世話になったわ」


 フォルナは夜の民の、感謝のお辞儀をした。


(なぜ、この人があの場面で助けに来てくれたんだろう……)


「……あなたは、あの村の人ではないの?」


「僕は、トルモントで生まれた訳じゃない。君と同じ、よそ者だ」


「じゃあ……なぜ、村から離れた場所で私達を助けてくれたの?」


「僕は昔にも盗賊に襲われたと言った。その時に、大切な物を奪われてしまった。もう、ずっと前のことだからずっと遠くに行ってしまっているかもしれない。けれど、君を見た時にやっぱり取り戻そう、いや、取り戻さなければいけないと思ったんだ」


「私を見た時……?」


「そう。‥‥君は、美しいブーメランを持っていたよね」


「これのこと?」


 フォルナは左手でブーメランを取り出す。ブーメランの真ん中には、美しい宝玉が散りばめられていた。


「それは、ちょうどこれと似た宝玉が埋め込まれていた」


 フォルナは、ブーメランの宝玉を覗き込んだ。

 

 それは透き通るようで、外の赤い光を拾っては輝きとして放っていた。


「僕は旅に出ようと思って村を出た。すると……君が盗賊に囲まれていた」


「そういうことだったのね‥‥」


 フォルナは納得した。


「……君は、夜の民?」


「ええ、そうよ」


(やっぱり、気づかれていた)


「この、君が呼んでるグアナってやつも、夜の地にいる魔獣なのかい?」


 フォルナは頷く。


「見たことがないな。こんな大型の魔獣が人になつくなんて」


 リュキはグアナを見上げる。


「このグアナは、私と父さんにしかなつかないの。おっとりした顔だけど、とても強いのよ。三日三晩、飲まず食わずで生きられる」


「そんな魔獣がいたのか!」


「まあ、グアナは食いしん坊だから三日目には倒れてしまいそうだけれどね」


 その言葉に、グアナは怒ったように鼻を鳴らした。


「まるで君の言葉を理解しているようだね。あの時も、君が何か力を使ったのかい」


「あの時?……ああ、火狼に囲まれた時ね。そうよ」


「すごいな。魔獣と心を通わせられるなんて。憧れるよ」


「憧れる?」


 予想外の言葉に、フォルナは驚いた。


「とんでもない。夜の民のみんなは、魔獣と心を通わせるとわかると私を嫌ったわ」


「そうなのか……」


 フォルナは寂しそうな顔をした。


「フォルナ。君はなぜ、旅をしているんだ?」


 フォルナは、鞄をまたまさぐり、一冊の本を取り出した。

 とても古い本で、題名も掠れて読みにくい。表紙には、民族的な模様がされていた。


「これは‥‥夜の民の言語?」


「違うわ。私にも読めないの」


 フォルナは、本の中身をリュキに見せた。


「父さんは最期に、この本とブーメランを私に遺した。きっと、父さんは意味を持って託したのだと思ってる。だから私はこの本を読み、この本に記されたオリトスという人を探すために旅をしているの」


「そうか。それが君の旅の目的なんだね」


「でも、私は地理に疎くて‥‥長い間彷徨った後やっと夜の地の森を抜けて、先日やっと人の住む町に辿り着いたところで……」


「盗賊が町を襲撃し、僕に血を見られたから、すぐに出発したのか。陽の民は、夜の民を嫌悪しているからな。休む暇もなかっただろう……すまない」


「いいえ、あなたのせいじゃない。父は薬師として名が知れていて、昔は夜の国の外へ行くこともあったそうなのだけれど、私は夜の地の外へは行ったことがなくて知識が無かった」


「へえ。君の堪能なサナー語も、お父様から教わったのか?」


「そうよ。父は一緒に住んでいた時、私にサナー語や、戦術を教えてくれたの」


 フォルナはリュキを見つめていたが、突然何かを思いついたような顔をした。


「あなたは、これからどこへ向かうの?」


「そうだな。まだ明確に決まっていないんだ。水の国へ行こうと思っているが」


 その言葉を聞くと、フォルナはリュキの手を取る。

 そして、顔を正面から見つめてこう言った。

「これから一緒に旅をしない?」と。

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