4.宝石屋の少年
(私は……死んだの……?)
そう思ったが、しばらくすると視界はだんだんと開け、耳元で叫ぶ声が聞こえる気がした。
「……い……、おい……しっかり気をもって!」
聞き慣れた感じがする声の主が見えてくると、それは町で出会った宝石屋、リュキであった。
「なぜ、あなたが……?」
「それよりも、急いでこの場を離れないと。あいつらがいつ目を覚ますかわからない」
周囲を見ると、盗賊達が失神している様子であった。
「僕の馬に乗って」
フォルナはリュキの手を取り、必死に燃えるように赤いたてがみを持つ火馬に跨った。
グアナは意識を保っており、片足を引きずりながらも必死についてきた。
「少しの辛抱だ。安全な所まで行くよ」
◆
一同は見通しの良い平野を抜けて、身を隠せそうな岩の洞窟まで来ていた。
「ここなら大丈夫そうだ。やつらが追ってくることもないだろう」
リュキはそう言って、洞窟内の溜まった水で布を濡らした。
フォルナとグアナは疲労した様子で、すでに壁に寄りかかっている。
リュキが濡れた布を渡すと、フォルナは自分の怪我の手当よりも先にグアナの傷を診始めた。
グアナの足に刺さった矢を抜くと、グアナは甲高い悲鳴のような声をあげた。足からは、青黒い血が滴り落ちる。
フォルナは苦痛な表情ながらも、左腕で淡々と治療を施していく。リュキも、治療を手伝った。
グアナの足に一通り治療が終わると、フォルナの顔は蒼白になっていた。
「薬草が足りなくなってしまった……取りに行かないと」
「もう、君は動いては駄目だ。僕が代わりに取りに行くから」
「……ありがとう……黒色の、クイラタという葉よ……」
「わかった。安静にしていてくれ」
リュキが言うと、フォルナは頷いて目を閉じた。
リュキは籠を持って洞窟の外へ出た。
洞窟の周りを探すと案外、クイラタはすぐ見つかった。
燃え焦げたような黒色が、金色の穂の草原の中ではよく目立ったからだった。
籠がいっぱいになってリュキが戻ってくると、フォルナは安らかな寝息を立てていた。
フォルナに近づこうとすると、グアナがリュキを訝しげに見てフォルナの前に立ちはだかり、守ろうとする仕草を見せた。
「起こさないって、まったく……」
リュキはフォルナの傷口を見るためにマントを脱がせた。
すると、内側には民族衣装のような服を着て、ブーメランや短剣、治療針などがたくさん収納されているのがわかった。
フォルナの右肩に目を移すと、傷口からはグアナとも違う青く光る血が布に滲んでいた。
(やっぱり、この体格、血といい、夜の民か)
正体が掴めず、魔術を使うとして忌み嫌われた、夜の民。
(なぜ、陽の国の支配下の町にいたんだ)
魔獣が巣くい、深い森に覆われた場所に住んでいると聞いたことがあった。
目の前にいる、自分とほぼ同い年であろう少女は、どんな人生を歩んできたのだろうか。
そんなことを考えながらリュキは、グアナにやっていたようにクイラタを煮詰めて液を抽出して傷口に塗り込み、布を巻いてあげた。
フォルナはぐっすりと、安心したような顔をしている。
寝やすいように、高く結わえた黒髪を下ろさせて、その髪を結わえていた紐をフォルナの腕に巻いた。
(考えてもわからないことはある。今は僕も寝るとしよう)
作業が終わるとリュキはフォルナの隣の壁に寄りかかり、眠りについた。