15.一人の旅立ち
「ライナスさん、私はこれから急いで陽の国へ行かなくてはならないの。あの二人がもし戻ってきたら、陽の国にいると伝えておいて、お願いよ」
フォルナはライナスに真剣な表情で伝えた。
「はい、お安い御用ですが……陽の国ですか」
ライナスの顔が曇った。
「今、陽の国へ旅立つのは危険かもしれませんよ。情勢が不安定だと早馬が来ましたから」
フォルナは少し戸惑ったが、ライナスに笑いかけた。
「大丈夫、心配してくれてありがとう。でも、どうしても今行かなくてはいけないの」
フォルナはオラムと火馬を眺める。
(リュキが帰って来てオラムがいなかったら悲しむわね)
フォルナはシナンの火馬で旅することを決め、火馬を連れ背を向けて歩き出した。
ライナスは空き家に残り、その後ろ姿を見えなくなるまで見送っていた。
◆
「この火馬……シナンのところから思わず連れ出してしまったけれど、怒っていないかしら」
フォルナはグアナを買い取った陽の国の商人を探すために水の国を出て、火馬とともに走り向かっていた。
「あなたは……シナンのところへ戻りたい?」
フォルナが火馬の顔を見て訊くと、何か波動が伝わってきた。
フォルナは全神経を集中させて、それを逃さないようにした。
「……やっぱり、帰りたいのね。いきなり連れ出して、ごめんなさい。陽の国に着いてグアナを取り戻したら、あなたも拠点の近くまで送ってあげるから」
フォルナは鞄から地図を取り出して眺める。
しかし地図は専門用語や記号を理解していなければ読むことができなかった。
「リュキがいないとこの地図も全く意味を為さないただの紙ね。ああ、陽の国も、リュキもルルも、どこなの……」
周囲は背の低い草が立ち並び、白の空の色に映えていた。
フォルナは父、アバズの言葉を思い出す。
――陽の国が位置する、陽の地の空はとても不思議だ。私はそこを訪れて初めて、「眩しい」という体験をした……
(「眩しい」という体験、不思議な空……それだけが私にとっての陽の国)
フォルナはトラモント村の空を思い浮かべた。
(あれも、確かに不思議な空だった。トラモントは陽の国支配下だったし、あそこから近いのかもしれない)
フォルナはトラモント村からの旅路を描こうとする。
しかし、地理をリュキに任せていたフォルナにはトラモント村まで帰り、陽の国まで辿り着く自信は無かった。
「人を探して、位置を聞きながら進むしかないわね」
フォルナは地図をしまい、人の住まいを探すことにした。
「あなたは陽の国の場所、わからない?」
火馬に訊くが返事は返ってこない。
「えっとー……名前はある?」
これも返事はなかった。
「じゃあ、名前がないと呼びずらいからドリーブスって呼ぶわ。父さんの前の馬の名前よ、格好いいでしょう」
フォルナはドリーブスの鬣を撫でた。
「ねえ、ドリーブス。本当に、シナン達の元へ帰りたいの? 彼らは魔獣の軍をつくって、陽の国に攻め入ろうとしていたのよ。私があの時逃げていなければ、あなたも戦わされていたかもしれないわ」
その言葉に、ドリーブスは動揺しフォルナの荷が落ちそうになった。
「ド、ドリーブス……落ち着いて。今すぐにじゃないはずよ、きっと」
ドリーブスの足が止まり、心配そうに何度も土を蹴った。
その姿を見て、フォルナは思考する。
(私が逃れられたと言っても、彼らは私無しでその計画を実行してしまうかもしれない。私のことを追い続けていくだろうし、もし実行されても私が止めなければいけないわね)
ふと周囲を見ると遠くに小さな集落が、山の上に一つあるのを見つけた。
「あ、あそこの村に人がいそうよ。霧の町とは大分離れているけれど、とにかく向かってみましょう」
フォルナはドリーブスを完全に落ち着かせた後、山の頂上の村まで向かっていった。
◇
「ここが山のふもと……空の光のおかげで辺りがよく見えるし、夜の地の山とは大分違うわね」
フォルナはドリーブスに乗って、山のふもとへたどり着いていた。
「よし、ここから登りましょう」
フォルナはそう言ってドリーブスを見たが、ドリーブスは辺りに怯えた様子で前に進まなくなった。
「どうしたの? ドリーブス」
フォルナは横から迫りくる大きなものに気付いていなかった。
影がフォルナ達ごと覆いつくし、辺りは暗くなる。
「あれ? なんだか暗く…………」
フォルナは横の「もの」に気付いた。
それは、大木に蛇の顔と足が4本ついた、巨大な魔獣だった。
「これは夜の民が何よりも恐れたウッディーク! なぜ夜の地の森ではないここで…………」
フォルナが理由を考えるよりも早く、ウッディークはフォルナとドリーブスを見つけて襲おうとしてくる。
「逃げるわよ、ドリーブス!」
フォルナはドリーブスの背を叩き、山の森の中へ走って行った…………。
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今リアルが忙しく、なかなか書ける時間がない状況ですm(_ _)m
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