14.困惑
◆
「やあ、クノッタ。一体どうしたんだ、報告すべきこととは」
剣を研いでいたゴレッツはクノッタを見て、楽しそうに言った。
「報告いたします。……例の紋章の男、死んでいるのが見つかりました」
捕らえたとの答えを期待していたゴレッツの顔の血相が変わった。
「どういうことだ。俺がサン様の守護を……」
「心配されることはありません、ゴレッツ様。おそらくサン様は、あの男が加護を受けるに値しないとお考えの上で天罰を下したのでしょう。その御加護は後にゴレッツ様に伝承されるはずです」
クノッタがいつもと変わらない無表情で言った。
「…………本当か。俺に伝承されるというのは」
「我ら雷の一族、古来より史を正しく継承してきた者。間違いありませぬ」
クノッタを見て、ゴレッツは頷いた。
「それならば良いな。あいつはどこで発見されたんだ?」
「湿地の町の近くで姦賊に襲われて腹を裂かれていました。既に土に埋め、祓いを行っているのでご安心を」
ゴレッツは笑い始めた。
「水の国へ通じる道がとうとう開けたらしいな。……あいつもいなくなったことだ、サン様はやっと俺を見てくれるようになったか」
「………ゴレッツ様。神獣様の真意は、わかりませぬ。水の国には手出しせぬほうが」
「そうか。まあ国攻めは後からでも出来る。…………その男は、女の用心棒を雇っていたという話を聞いた」
「女の用心棒?」
「ああ。そいつが今まで男を匿っていたに相違ない。捕まえろ」
「え、捕まえるって、その女を……」
「嫌なのか?」
ゴレッツはクノッタの顔を覗き込んだ。
「滅相もない。ただ、そんな情報はありませぬ。きっと何かの間違いでしょう」
「俺は、自分の兵からそのことを聞いた。もし間違いだとしたら、俺は兵を罰しなければならぬな。さあ、クノッタ、やるのか、やらないのか」
ゴレッツは、はっはっはと笑う。
「やります」
そう、クノッタは即答したがその顔は暗かった。
(まさか、ゴレッツが陽の兵を使うようになっていたとは)
クノッタの額にはいつになく汗が流れていた。
◆
「おかえり、オラム」
フォルナが水の国まで遠い道を駆け戻り、火馬をオラムと一緒の厩へ入れるとオラムは嘶き騒ぎ始めた。
「こらこら、オラム。ほら、二匹とも仲良くしてね」
フォルナが宿屋へ着くと、出入口の前の席で座っていたライナスが走り寄ってきた。
「ライナスさん! 今戻ったわ」
「フォルナさん、お帰りになられましたか。……お話したいことが」
ライナスは暗い表情でフォルナを見た。
「…………お連れの、リュキさんとルルートさんの行方がわからなくなりました」
「えっ!?」
フォルナは驚愕した顔で、すぐにでも部屋の様子を見に、宿屋の階段を登ってすぐの部屋の扉を開けた。
しかし、そこには二人の姿は無かった。
「なぜ!? なぜ、こんなことに…………」
フォルナは歯をくいしばった。
部屋の中にはフォルナ達の鞄一つでさえ何も残されていなかった。
(そんな…………彼らは私を置いて行って、そんなことをするはずがないはずなのに)
――ヒヒィイイン、ヒヒィン!
(オラムの声! ……そうだ、オラムへ聞けば何かわかるかも)
厩へ向かうと、相変わらず火馬とオラムは威嚇しあっていた。
「オラム!! ねえ、リュキとルルはどこ!? 何か知ってる!?」
オラムは何も知らないというように鼻を震わせる。
「…………これは、妙なことになってるわね」
フォルナは困惑した表情で、呟いた。




