1.夕暮れ
森が開けた途端頭上に空が開けて、輝かしいほどの光と色にフォルナの目が眩んだ。
それは魔獣のティメールも同じで、フォルナを乗せたグアナの歩みは止まった。
フォルナの視界が開けてきた時目に飛び込んできたのは、初めて見たはずなのに懐かしい色だった。
(とても、眩しい)
初めて見る、焼けるような紅色の空模様は、とても美しかった。
いつの間にか、フォルナの両目からは涙が溢れ出していた。
「大丈夫だよ……さあ、進もう。あとちょっとで着くよ」
フォルナはグアナの頭を撫で、足で進む合図をした。
グアナはその合図で走り始める。
一人の魔獣使いと、一匹の魔獣の影が遠く沈んでいった。
◆◇
「ここが夕暮れの村ね」
フォルナはグアナを降りて、『トラモント村』と書かれた門をくぐった。
すると、暇をしている村人がフォルナに気づいたらしく、歩み寄ってきた。
「こんにちは、旅人さん。夕暮れの村トラモントへ、ようこそ! 俺が町案内をしようか?」
「ぜひお願いしたいわ」
申し出がフォルナにはとてもありがたかった。
「じゃあ、この……なんていうんだ、でかくてこぶがあるロビン(馬、牛)を門で預かっておくからな」
「ありがとう。グアナはこれを良く食べるから食べさせてやって」
門番に、グアナの好物である薬草を束ごと渡した。
10歳前後だろうか、まだ幼さののこる顔の案内人は、最初に宿屋の場所を教えようと歩き出した。
「あんた、出身はどこなんだ?」
(……そうだ、私は出身を、言ってはいけないんだ)
フォルナは善良そうな案内人を見た。
(この人は、信じたいけれど……ここで話される言語が陽語だとわかった今は)
「陽の国の支配領域のとある村よ」
嘘を、ついた。
「陽の国か」
案内人の目が見開かれた。
「どうかした?」
「いや……陽語をきれいに話すし当たり前の質問だったなと思って」
フォルナの心臓は大きく、早く鼓動を打っていた。
「さてと、ここが宿屋だ。食事も出しているから後で食べよう」
フォルナは頷く。
この村の建物は石造建築のようだ。
案内人は、村の店をまわっていく。
フォルナはたくさんの色がふんだんに使われた服が売られている服屋に、少し惹かれた。
この村は陽の国の旅人や移民が多いらしく、通りがかった子供たちは歓迎の言葉をかけてくれた。
「旅人と移民に優しい村なのね」
フォルナは村の人々を観察する。
すると、自然に1人の男が目に止まった。
男の顔は、薄暗くてよく見えないが赤い光に反射して輝く宝石のようなものを店頭に並べているのが見えた。
フォルナは、引き寄せられるように宝石屋に向かって歩き出す。
男も、同時に顔をあげようとして、フォルナと男の視線が交わった。
出来事が起きたのは、何気ない日常風景での、そんな時だった。