9.沿革
「僕は、アレン・アトゥル。陽の国の、第一王子だった」
リュキが言うと、ルルートは力が抜けたようにリュキの顔を見た。
「おうじ、さま?」
「そうだった」
リュキは顔を濁らせる。
「ゴレッツ・アトゥルを覚えてるか。そいつは僕の弟だ」
「ま、まさかっ。リュキ、冗談うまくなったね」
ルルートは笑ったが、リュキを見て真面目な顔に戻った。
「……ほんとなの?」
「ああ」
リュキは頷いた。
「なぜ、その……弟に、狙われてるの」
リュキは悲しげな顔をして、訳を話し始めた。
「僕が生まれてからすぐに母は死んでしまって、2年後に父は新しく女王を迎え入れた。そして彼らの子供がゴレッツ。僕の2歳下の弟となった。だけれど僕も父も、あまり強気な性格ではないし、支配政策にも反対だった。弟は死んだ祖父と似て、その正反対で実権を握る僕と父が嫌いだった。
その時……弟の母方の家に、肩を入れる貴族達が現れたんだ」
リュキは話を続けた。
「僕が11歳、弟が9歳の時事件は起こった。王族や貴族で行われた鷹狩りで、僕達3人で森に入った。あの時を思えば……護衛も弟の手中だったんだろう。どこからか、矢が飛んできて……父の胸を射抜いた」
「森の中に伏兵がいたんだ。父は僕を抱き締めたまま息を引き取った。弟はそれを見て、叫んだ。その声で集まってきた者達に、血で濡れた剣を見せて………アレンがやった、って言ったんだ」
ルルートが息を呑む音が聞こえた。
「僕の服には父の血がべったりとついていた。その状況で弟が涙を流してそう訴えたらそりゃあ、皆僕を疑って捕まえようとする。僕は混乱した。僕は弟から剣を奪って、森の中を走り続けた」
「それで、どうなったの?」
「もちろん、兵士がすぐに火馬で追いかけてきた。僕はもう……そんなに覚えていないけれど、剣を振り回して……兵士の火馬に乗って、やがて国を出た。その火馬がオラムだ」
「オラムとは、そこで会ったんだね!」
「そうだな。今頃僕達が来なくて、驚いてるだろうな。グアナもいなくて、一人だろうから、あいつはさぞ寂しいだろう…………クーはどこにいるのかいつもわからないが」
リュキは寂しがり屋な愛馬を思い浮かべて言った。
「それで……国を出た後は?」
「追われていたから、山賊達がたむろし、危険だと言われるトラモント村へ行った。その時は山を越えると、振り切ることができた。そこから7年間、トラモント村で暮らし生きる術を学んだ」
「トラモント村って、フォルナと会った村でしょ!」
「そうだ。……トラモント村で暮らすのはとても大変だった。僕は弟から奪った剣を持っていたが、ある日村に盗賊に来て、その剣を盗まれてしまったんだ」
「そんな!」
「僕は暮らしていくうちに、トラモント村の大変な事実に気付いてしまった。その村は……村長が村人や旅人を山賊におそわせていたんだ。僕はそれを知って剣を取り戻すために、村長の悪事を暴くために宝石の知識、技能をつけて、宝石屋を始めた。いつか村人達の分まで村長に復讐をしてやるって。
そこで、盗賊は本当に僕の店に来た。僕は盗賊を捕まえて、村人達の前で事実を吐かせようとした。その時……僕の宝石屋を守るために、フォルナが現れた」
リュキは、リュキを守ろうとして盗賊に立ちはだかったフォルナを思い浮かべた。
恐ろしく澄み通る青の瞳。珍しい長身ですらりとした体。
宝玉の光るブーメランを手に持った姿はまるで、目が鋭く光る鷹を引き連れているようであった。
戦いの後の、後ろの首の傷から流れ落ちる青い液体をひどく覚えている。
夜の民は青い血を持つと聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだった。
――この石はとても綺麗ね。こんな美しいもの、この村に来るまで見たことがなかったわ……
(陽光石のことを、そう言っていたな)
リュキは部屋の中の陽光石を見て、フォルナの声とうっとりとした顔を思い出した。
「そうだったんだ、リュキ。……フォルナ、今何してるんだろうね」
(今頃湿地の町には着いただろうか)
ルルートがそう言うと、クノッタは首を少し傾げた。
「旅の仲間だ」
「用心棒、ではないのですか?」
「用心棒っぽいけどそうじゃないよ、薬師!」
ルルートが笑って答えた。
「まさか……その女性には、紋章はありませんよね?」
「紋章…………」
リュキとルルートは顔を見合わせた。
「あったな」「あったよ!」
「それが、どうしたの? 足に紋章があるっていうだけで」
それを聞くと、クノッタは震え始めた。
「今、どこにいらっしゃるかご存知でしょうか」
「湿地の町で人々の容態を見るって行っちゃった」
「……わかりました。フォルナ様も、ここにお連れしなければなりません」
リュキとルルートは驚いた。
「早急に取り掛からなければ。私はこれで失礼いたします」
「なんだったんだろう」
「わからない。だけど、フォルナも連れてこられるらしいな」
フォルナを守るように傍につくグアナの姿が目に浮かんだ。
(フォルナは一筋縄ではいかなそうだ)
「フォルナ、私達がいなくてびっくりするかな」
「そうだな……」
食事を食べ終えたルルートは膝を立てて座り込んだ。




