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5.記憶

「あなた方は旅人、ですか……?」


 一人の少女がフォルナ達を不思議そうに見つめていた。

 少女は金色にたゆたう髪を下ろしていて、手には大きな葉の茎を持って雨を防いでいるようだった。


「ええ。私達は水の国へ向かってるの。あなたは……?」


 フォルナが聞くと、少女は驚きを顔に出して頷く。


「あなた方の訪れを歓迎します……私はクレア・ラーク。水の国の王女ですわ」


 ◆


 水の国の建物は水面上に浮かび、桟橋でそれぞれの建物とつながっている。


 水の国に着くと、クレアは一人の人間を連れてくるように人々に言った。

 現れた男の名は、ライナス。陽語が話せるために、フォルナ達が水の国滞在中での世話係になるようだ。


 クレア王女はフォルナ達に充分に体を休めたら自分の元へ来るように伝え、一旦別れた。 


 フォルナ達はライナスに連れられて、まず宿屋に向かっていた。


「今から行く宿屋は、『安らぎの海』が一番綺麗に見渡せる場所なんですよ」


「安らぎの海?」


「はい。この広大な水を見て、さぞ驚かれになったでしょう……。この水はルシュカ様の神聖な水で、この中にも魔獣や小さな生物達がいます。私達はそれらを食べて、命を繋いでいるのです」


 ライナスはグアナとオラムを見た。


「えっと、この魔獣達はこの空き小屋でいいでしょうか……宿屋も近いですし」


「ええ。わかったわ」


 グアナとオラム、そしてクーは開放的な広い小屋に入れられることになった。


「オラム、僕達がいない間海に落ちるんじゃないぞ。グアナ、クー、よろしくな」


 グアナとクーはわかったと答えたかのように鳴く。


「それで、宿屋は隣になります」


「わぁ…………綺麗だね!」


 ルルートは着くや、真下の海を見下ろした。

 海の中では、ほのかな赤や緑のものが美しく咲き誇っていた。


「ライナスさん、これ、何ー?」


「これは、コーラルといいます。死者の生まれ変わりと言われているんですよ」


「なんでなの……?」


 ライナスは少し寂しそうな顔で言った。


「私達は亡くなると、この海に水葬されるんです。先代の生命の記憶が眠る、安らかなこの海に」


 ◆


 フォルナ達は少し休むと、王国の小さな城でクレア王女と再会した。

 四人は海が見えるテラスの椅子で座り、茶を飲んだ。


「旅人が来るのは七年ぶりになるかしら。本当に久しいことですわ。……あなた方は、どのようにしてここに来ることができたのですか? 簡単には来ることが出来なかったでしょう」


「はい、杖が無ければ来られませんでした」


「杖、ですか?」


 リュキがルルートが持ってきた杖を指差した。


「この杖は不思議な力を持っていて、雨と川を吸い取ることができたの!」


 クレアは驚愕した様子を見せる。


「この宝玉、力…………もしかして、これは水の王家に伝わるルシュカ様の神器!?」


「ええ。……7年前から突然、水の国と地上をつなぐ道は毒雨と激流で行き来が出来なくなりました。私は水を操る力を持っています。以前から毒雨を浄化して川の流れを止めようとしているのですが、私の力でも足りなくて」


「あなたは浄化の力を持つの?」


「ええ。水の民は浄化の力を持つ者がいくらかいるのです」


「それでは殿下。すぐに浄化の力を持つ方を、湿地の町へおくっては頂けませんか? 湿地の町の住民は毒水のせいで皆病にかかり、苦しんでいます」


 リュキも湿地の町が心がかりだったのか必死な顔で訴えた。


「湿地の町が…? 地上との交流が途絶えた今、私もその可能性を危惧していたのです。わかりました、すぐに民をおくらせましょう。杖は水の王家が頂いても良いですか? 私と杖の力が合わされば7年前のように水の国と地上をつなぐ毒の地を、完全に浄化することもできるかもしれないのです」


「構いません。ありがとうございます! ルルート、渡して」


 クレアは一礼してルルートから杖を受け取った。


「感謝いたします。あなた方はどこでこれを手に入れたのですか?」


「私達も湿地の町で杖があることを聞いて、遺跡で手に入れたの」


「遺跡、ということは言い伝え通り……まさか…………あなた方は無事だったのですか!?」


「守り手のことですよね。襲われましたが命からがら、助かりました」


「なんてことでしょう……神獣様の思し召しなのでしょうか」


 クレアは手を合わせて震えた。


「あの守り手と呼ばれている物…………それははるか昔の700年前、争いの中で水の国で造られた古代兵器なのです」

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