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払暁の魔獣使い フォルナ  作者: 小鳥葵
道中の邂逅
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10.瞳

 家の中から、数本の剣が振り下ろされた。


「あぶないっ!」


 リュキが反射的にフォルナを横倒し、剣が体にささることはなかった。


 剣を持った男がリュキ達を見て恐ろしい剣幕で怒鳴った。


「この町から出ていけ! 薄汚いやつらめ!」


「な、なぜです! 私達は何か悪いことをしましたでしょうか」


 リュキが倒れながらも家の中に向かって叫ぶ。


「忘れたとは言わせないぞ! 我らの町を襲い、人を殺した姦賊め!」


「姦賊!? 僕達は悪い人じゃありません!」


「そんな言葉に惑わされんぞ! 悪人ではないというなら証拠をだしてみろ!」


「証拠? …………これなら、信じるでしょうか」


「リュキ……? なにか、もっているの」


 リュキは立ち上がってはめていた手袋を脱ぎ捨て、ドアの前に手を突き出した。


「……こ、これは、いや、まさか」


「まさかです。これで怪しい者ではないことがわかったでしょう」


 剣の切っ先が、ゆっくりと下げられる。


「これは、失礼をいたしました」


「リュキ、なにをしたの?」


 フォルナが展開についていけず、瞬きする。


「僕の手の甲を見せたんだ」


「いや、それはわかったのだけれど、それがどうかしたの?」


 フォルナが見ると、リュキの手の甲には何かの紋章のようなものがついていた。


「これ……あなたもあるのね」


「……まさか、フォルナも持っているの?」


「ええ。足に」


 フォルナは長い靴を脱ぎ、両足を見せた。


 肌に、リュキのとは違う紋章のような印がついている。


「……まさか、こちらの方にもおありですか」


 家からは、数人の男達が二人を凝視していた。


「ええ。あります」


「ご無礼をいたしました。どうぞ、家へお入りください」


 フォルナも、家の男達も、お互い何が起こったのかわからずに客間へ通された。



「フォルナさん、リュキさん、お茶をお入れしました」


「どうもありがとうございます」


フォルナとリュキは、年齢の違う三人の男達と向き合って座っていた。


「私はこの二人の息子と一人の娘の父、モランダです。この二人は陽語が話せないものでね。いや、なんとお詫びを申し上げたら良いのか」


「いいんですよ。その代わり、質問をさせてください。今、この町で外に出歩いている人はいませんよね。何が起こったのですか」


「今からお話しますよ」


 この男の話はこうだった。


 数年前……六年前から、霧の町の周辺で強盗団が現れた。

 その強盗団ーフォッグスは霧の町に度々来て物を盗んだり、人を殺したり、ついには女子供を連れさらった。

 取り返そうと思っても、霧が深く跡を追うことが困難であった。

 業を煮やした男達は家々に閉じこもり、強盗しに来た盗賊達に反抗しているのだった。


「家に閉じこもり食材を盗まれなければ、向こうも飢えて死ぬと考えたのですね」


「ああ、そうだ。だからあなたたちを誤解してしまった」


「いいんですよ。事情はわかりました」


 リュキが頷く。


「だから、この町の家々には窓がないのね。食材はどうやって入手しているの?」


「食材は、各家庭で魚を育ててその卵を食べたり、煙突からの光で野菜を育てたりしている。けれど一度に食べれる量はとても少ない。だから、私達はいつも腹をすかせているんです」


 見ると、息子に食べさせて自分の取り分は少ないのか、父親はやせ細っていた。


「だから、外にいたあの子は飢餓で両親から捨てられてしまっていた、ということなのかな?」


「外にいる……子? …………まさか、ルルート」

 

 男の顔が険しくなった。


「知っているんですか?」


「ええ。あなた達はあの子供と、話したのですか?」


「話した。おなかがすいていそうだったから、羊肉を与えたわよ」


「…………あなたの持ち物で、なくなっているものはありませんか」


「なくなって……いるもの?」


 フォルナは、鞄を開き見た。

 鞄の中身で、なくなった物は見つからない。


「本もちゃんとあるし…………食材もちゃんとあるわよ」


「フォルナ、ブーメランは」


「ブーメラン?………………ブーメラン……ないわ!」


 フォルナは懐を探したが、見つからなかった。


「僕の宝石箱もなくなっている。まさか、盗られていたなんて」


「あの子は、いったい……?」


 フォルナは、慌てた様子で聞く。


「ルルートは、少し前に町の外から来たんですよ。外で子供の泣く声がするから、私達も子が帰ってきたと思ってドアを開けると、お腹が空いたとばかり。その子を無理矢理追い出すと、家の貴重品が全部なくなっているんです。立派な盗賊です。その手口に町中が引っかかっていると思いますよ」


「そうだったんだ……」


(無理矢理追い出されていた……)

 フォルナは、豆炒めをあげた時の子供の瞳を思い出した。


(あの瞳が、嘘だったかもしれないなんて信じられない。トチを育てていたのだって)


「私のブーメランは、父さんからの形見の品なの。大切な物だから、取り返しにいかないと」


「そうだね。じゃあお父さん、取り返しに行ってきますね」


「危険だ。あの子は生きるためには手段を問わない。殺されるかもしれませんよ」


「……それでも、ブーメランを取り戻さなくちゃいけないの」


 フォルナの熱心な顔を見て、モランダと彼の息子は不安そうに二人を見た。


「わかりました。もしかしたらその子は、フォッグスと繋がっていて品物を売り飛ばしていると思うんです。町のみんなで探り当てた、フォッグスのアジトの予想場所が載った地図があります。これをあなた方に授けましょう」


「ありがとうございます。……行ってきます」


 二人はモランダから地図を受け取り、町の門でグアナとオラムに乗って二人きり、アジトへ向かった……。

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