9.不自然な町
「あの路地裏」
フォルナは、細い路地裏の中に、一人の幼い子供が建物にもたれかかっているのを見つけた。
「生きてる……のかな」
「……きっと生きているわよ。この町ことを聞いてみましょう」
フォルナは臆せず、子供に近づいた。
人が近づいたとわかると子供は目を開き、フォルナを隅々まで見た。
「たび、びとさん……?」
フォルナには消え入りそうな、陽の国のサナー語の声が聞こえた。
子供は前髪が伸び放題で、フォルナが一目見ただけでは、その子供の性別の区別はつかなかった。
黄金色の耳飾りと首にまいた民族的なスカーフが特徴的で、奇妙でもあった。
「そうだけど……ここの人はプルシュカ語を話すかと思っていたわ。驚いた」
「このまちのひとなら、はなせるよ……ウチは、サナーごしかはなせないんだ……それ、よりも、なにか……たべれる、ものがほしい……」
子供は力のない声で伝えた。
「豆炒めならあるわよ。ほら、食べて」
フォルナがためらわずに葉に包んだ料理を渡すと子供は驚きと希望が入り混じった顔をし、無我夢中で頬張った。
「おなかがすいていたんだな」
後ろからリュキが声を発した。
その声で、子供がリュキの方を向いて風貌を眺めた。
「もう、突然声をかけるからびっくりさせちゃったじゃないの。大丈夫よ、安心して」
フォルナが声をかけると、子供は肉を食べるのを再開した。
「どこから、きたの」
「私達? トラモント村から来たところよ」
するとまた、子供は体を震わせたような気がした。
その時、子供の体から何かの鳴き声がした。
我に返った子供は肉を持っていない方の手で必死に懐を押さえる。
しかし、その何かはその子供の小さい手の隙間をかいくぐって出、子供の手から残りの肉を奪い取った。
子供は暴れるそれを両手で再び懐に入れ、不安そうに二人の顔を窺った。
「トチを育てているのね」
「フォルナは、この魔獣を知ってるのか?」
「ええ。私の故郷の森によくいたの。ここにもいるなんて驚いたわ」
二人が魔獣について咎めないことがわかると、子供は安堵したような顔をした。
「質問したいのだけれど、私達オリトスっていう人を探しているの。知ってる?」
子供は首を横に振った。
「そうなんだ……それで、君は……」
リュキが聞きかけた時、子供は立ち上がって二人を見上げた。背は二人の腹までしかない。
「にく、ありがと。ウチ、もういかなきゃいけないから。じゃあね」
子供はすぐに、走り去ってしまった。
「この町はどうなっているんだ。外へ出ているのはプルシュカ語が話せないあの子だけ……」
「とりあえず、家にいる町の人に話を聞いてみましょう」
二人は、近くの家の扉をたたいてみた。
しかし、中からの反応は一切ない。
窓を探したが、この町の家々は窓がないらしかった。
「どなたか、いらっしゃらない? 少しお聞きしたいことがあるの」
その途端ドアが突然開き、中から数本の剣が振り下ろされた。
「フォルナっ、あぶないっ!」