想いの違い
急な話だが、立体交差並行世界論というものをご存知だろうか。この世界論は普通の並行世界とは違い、ある一点が交わることで普通なら会えない人と会うことが可能だという考えだ。まあ、そんな考えが確立しているかと言われたら俺は何とも言えないし、信じるかどうか問われても微妙なところだと思う。何故なら実際に遭遇したことがないからだ。実際に見たこともないものを信じられるほど俺は馬鹿ではない。裏を返せば、実際に見たり出会うことがあれば信じるということである。というのもだが。
「お前、雪か?」
「そうだよ。ずっと会いたかった、秋クン」
本来ここにはいないはずの、御柳 雪がそこにはいた。俺には信じられないことなのだが、目の前に彼女がいるのが現実だというのだから質が悪い。
俺にとっては辛い過去がよみがえってくる。
『貴方とはもう会いたくないの。早く私の前から消えて』
昔、泣きそうな顔で彼女がそう言っていたのを今でも鮮明に覚えている。あの時の俺は手ひどく振られたと思い込んでずっと落ち込んでいた。しばらくして、俺はもう一度彼女に会うことがあった。嬉しさのあまり俺は彼女の近くに走っていった。それが間違いだったのかもしれないと今もずっと落ち込んでいる。結果から言うと、雪は俺を庇って車に轢かれた。血だらけの彼女は異様なまでに痛々しく、なんで俺を庇ったんだと思わず言ってしまった。当たり前だろう、彼女は俺を振ったのだから庇う理由などないはずなのだ。
『あの時言ったのは、貴方がこの事故に遭わないように言ったんだよ』
彼女には未来が見えたのだろうか、だから俺にあんなことを言ったではないのか、そんな考えが頭の中をぐちゃぐちゃにしていたことを、最近になってまた考え始めるようになっていた。
「あの、秋クン?」
「あ、ああ。悪い悪い、何の話だっけ」
過去の記憶はもう忘れようと決めているのに、目の前にいる雪を見ているといろいろなことを思い出す。楽しかったことも喧嘩したことも、彼女が亡くなった時のことも。だから辛くなる時がある。彼女は偽物なのではないか、俺が頭の中で作り出した架空の雪なのではないかとこの短い間に何回考えただろうか。
「もう、どこに行こうかって話をしてたでしょ?」
「そういえばそうだったな、とりあえず適当に歩こうか」
彼女は本物の雪ではない。だって、俺が知っている雪はもういないから。けれど彼女は雪にとても似ている。考えも、好みも、怒るポイントも、笑いのツボも、まったくもって一緒なのだからまた怪しさが増す。だからと言って本人に対して君は何者なのだと聞けるほど肝が据わっているわけでもないのだが。
「ここ、懐かしいよね」
「ここで、俺たち初めて会ったんだっけか」
ある冬の日に、この公園で俺と雪は出会った。確か雪は俺と同じ部活の先輩に好意を抱いていた。仲のいい先輩だったこともあって、もし付き合ったのならいいネタになると思い、こっそりついていった。いろいろな場所を歩いては遊んでいた二人を見ているうちに、俺がここにいるのは駄目だと思い、公園で一人何をするでもなく振ってくる雪を眺めていたら、泣きそうな彼女に出会った。何事かと思い話を聞いたら、振られてしまったようで涙を流していた彼女を見るのがとても辛くて、思わず抱きしめたことを覚えている。ここから、俺と雪が付き合い始めた。
「そういえば、あの日もここに来てたな」
「そうだね、ここで待ち合わせしたの。覚えてる?」
確かにここで待ち合わせをしていた。一年付き合ったことを記念して、思い出のある場所を振り返りながらデートしようと考え、この公園を待ち合わせ場所に選んだ。ということは彼女は本物の雪なのではないだろうか。
「ねえ、秋クン。早く次の場所に行こ?」
「あ、ああそうだな」
俺たちは公園の近くにあるデパートに向かった。あそこは最初にデートをした場所で、なかなかに広く色々な商品が並んでいるので飽きることはほぼない。ここで服を見繕ってもらったり、ゲームセンターで景品漁りをしたりとほぼ一日中遊んでいた。雪は服のセンスがとてもよくて、付き合い始めてからはほとんどの服を選んでもらっていた気がする。俺としては出かける機会が増えたからよかったのだが。
「ここのデパートってたくさんお店あったから探検みたいに歩いて回ってたよね」
「お前は方向音痴な部分あったから、目を離すとどこ行くかわかんなくて苦労したよ」
「あはは、私ってそんなに酷かったっけ」
このデパートは広いだけあって休日は多くの人で賑わう。雪の方向音痴はそこまで酷いと言う訳でもないのだが、人が多くなると流されて迷ってしまう。だから、いつも手をつないで歩いていた。稀に俺が寄り道をしていると居なくなっていることもあったが、それもまたいい思い出というというやつだろう。
「次はどこだっけ?」
「次は神社だ、忘れんな。行くぞ」
デパートから出ると、神社に向かって一直線に歩き始める。あの時も色々あったのだが、特筆することがないので省略するとしよう。神社にたどり着くと、そこには人が程よくいる。
「たしかここって」
「恋愛の神社だよ、ここで一緒のお守り買ったの。覚えてる?」
確か二回目のデートだっただろうか。ずっと一緒にいられるようにという願いも含めてこの神社行きたいとせがまれたな。しぶしぶついていったが、男でも楽しめるんだなと感じたことを覚えている。そのあとにおみくじを引いたが、凶を引いたときは悔しかったな。そんなこんなで次はファミリーレストランに行った。出かけるときはいつもこの場所に行ったな。特に何のルールがあったわけでもないが、なぜかこの場所に行くことになっていた。
「秋クンは何を食べるの?」
「んー、俺はいつものでいいかな」
ここには割と多くのメニューがあるのだが、どうしてもほかのメニューに手を出す勇気はない。気になるメニューはあるが、失敗したときにお金を無駄にした感じがあるからいつものものを頼んでしまう。
「秋クンはやっぱり変わんないね。もっと色々なメニューを頼めばいいのに」
「いいんだよ、俺はこれが好きなんだから」
そういえば、ここに来る度にそう言われてたな。それで、いつもこう返してた。ホントに懐かしい思い出だな。というか、何故俺らは雪と別れた日のデートコースを回っているのだろうか。まあ、今目の前にいる雪が本物なのかを確認するには手っ取り早いからいいのだが、本当に立体交差並行世界論なんてものが存在するから起きたのだろうか。そうだな、例えばだが、あちらの世界では俺が死んだことになっていて、彼女は俺に会いに来たのではないのだろうか。そう考えればいろいろと辻褄が合う気がする。
「秋クン?注文したの、届いたよ」
「ん、そうか。じゃあ食べよう」
頼んだ品は数分で完食し、少し話をする時間ができた。何を話すといいか、すごく迷ったが話をしないとわからないのも事実。このままでいるくらいなら、進んだほうがいい気がする。
「なあ、雪」
「どうしたの、秋クン?」
「お前、何者なんだ?」
「実はね。君に会うために来たんだ」
なんか、話がごちゃごちゃしてきた気がする。とりあえず話をまとめると雪は雪で俺がいなくなってしまい、助けたいと望んだ結果ここに行きついたらしい。俺としても、雪を助けることが出来たらと考えていたので、俺としてもうれしいことだ。今度こそ間違えない、俺は何があろうと雪を守り抜いて見せる。
「よし、そろそろ帰るか」
「その前に、私としては行きたい場所があるんだ」
俺はその時わかってなかったが、その場所に着くと理解した。そうか、ここは俺と彼女にとっては因縁の場所だ。俺はここの大通りで彼女を失い、彼女はここで俺を失った。ここで彼女を失ったらまた後悔してしまう。そのためには、何事もなくここを抜けるか、何かあった時に彼女を守り抜く覚悟が必要だ。
「ねえ、ここってさ。私にも君にも深く関わってる場所だと思うんだ」
「そう、だな。そういえばここで君に会ったんだもんな」
雪が亡くなったのも、今の雪に会ったのも、思い返すとこの場所なんだな。交差したポイントがあるとするなら、間違いなくここだろう。だから、彼女は最後にここを選んだのだろう。運命というのは時に残酷だ。あの時と全く同じように、車が俺と雪のもとへ突っ込んでくるのだから本当にびっくりしてしまう。
「秋クンにげっ」
「あああああああ!」
俺は大声を出して雪を突き飛ばした。次の瞬間には痛みと衝撃が俺を襲い、苦しさと寒気が体を支配する。自分が死ぬんだと錯覚するとき、何も言えなくなるのだなと今はっきり分かった。
「ねえ、なんで庇ったりしたの?」
「俺は、今度こそ君を守りたかったんだ」
この言葉に嘘はない。俺は今度こそ雪を守りたいと考え、その通り彼女の代わりに事故に遭った。俺としてはこれで満足だ。
「そっか、今回もまた助けられたね。おやすみ、秋クン」
俺の意識はそこで途絶えた。
急な話だが、立体交差並行世界論というものをご存知だろうか。この世界論は普通の並行世界とは違い、ある一点が交わることで普通なら会えない人と会うことが可能だという考えらしい。まあ、そんな考えが確立しているかと言われたら私は何とも言えないし、信じるかどうか問われても微妙なところだと思う。何故なら実際に遭遇したことがないからだ。実際に見たこともないものを信じられるほど私は馬鹿じゃない。裏を返せば、実際に見たり出会うことがあれば信じるということである。
「待っててね、今度こそ助けるから。秋クン」
そう呟いて、私は彼のもとにまた現れる。今度こそ、私が守るんだ。
「久しぶりだね、会いたかったよ秋クン」
また私は、彼を助けるために進みだす。私は、秋クンを幸せにできたかな?
お久しぶりです。ふと思ったので大学の課題用に提出したこの作品をここに出したいと思います
いずれかならず怪異探偵をだすのでもう少々お待ちください。