二章 二人の時間 第二話
「遅い! 遅刻だよ!」
朝ごはんをゆっくりと味わい過ぎていた僕を待っていたのは頬をぷくっと膨らませた天野さんだった。その隣にはしっかりと向井さんは居るので天野さんが彼女の勧誘に成功したことが伺える。
「遅刻って、時間指定されてないけど」
「うるさい! 遅刻は遅刻だよ! 遅刻魔! 変態! 盗撮野郎!」
遅れた自覚はあるから遅刻魔は百歩譲って許そう。変態はよくわからないけど男はみんな変態って言うし変態も千歩……いや、一万歩だな。一万歩譲って許せないけど許すことにしよう。盗撮魔ってなんだ? 身に覚えがない。記憶のあった頃の俺は彼女に対して盗撮でも行ってきたのか? いや、そんなことしてたらこんな快適なところではなくもっと男臭い刑務所あたりにぶち込まれていたのでは? 訳がわからない。
「盗撮魔って......なんか俺盗撮やらかした……?」
「いや、別にやらかしてないけど何となく悪口が思いつかなかったから盗撮魔って呼んでみた。ダメだった?」
「ダメに決まってるでしょ!? 冤罪だよ!? 遅刻しただけで盗撮の罪なすりつけられたら世の中の7割ぐらいの男性はみんな前科持ちになっちゃうけど?」
「ん? 前科? よくわかんないけどまあいっか! それで今日のことについて話すね!」
盗撮の罪をなすりつけられて”まあいっか”で済ませてしまうところ辺り彼女のいい加減さが伺える。それにきっと彼女は前科の意味を理解していないだろう。彼女に案内を任せても大丈夫なのだろうかって少し不安になったけど隣にいる向井さんの楽しそうな笑顔を見てこれはこれでありかと思えることができた。僕自身少し楽しみにしてるってのもあったしね。
「
冷静に考えてね、ここってあんまり紹介するほど施設が整ってるわけじゃないんだよね。だから別のことをおやろうと思ってね」
ん? 今日は施設案内すると三十分ぐらい前にうきうきしていた彼女はどこに行ったのか。確かに食堂以外の施設って何があるんだって感じで思いつかないけども。
「別のことって例えば?」
一番疑問に思ってたことを向井さんが聞いてくれた。特にやることが思いつかないというのが本音だ。彼女はこの閉鎖的な空間で何をするつもりなのだろうか。
「天体観測!」
悩む様子もなくそう即答する彼女を見て少しだけ呆れてしまう。今はまだ朝で僕たちが今いる屋上は当たり前のように太陽に照らされている。とてもじゃないけど今から天体観測をやるなんて正気の沙汰じゃない。
「いやちょっと落ち着こう天野さん。今はまだ朝だし天体観測は無理だよ
」
「わかってるよ! だから夜にやるんだよ! だめ?」
言いたいことはわかる。夜に天体観測をしたい。ここまでは全然把握できる。でも結局は今から何もやることがないのには変わりないではないか。
「じゃあ夜までの時間は施設の説明かな……?」
向井さんが気を聞かせて時間つぶし方を天野さんに提案する。良い案だ。僕も賛成の意見を彼女たちに伝えようとしたけど天野さんが首を横に振ったせいで賛成し損ねてしまった。
「私はちょっと天体観測のための準備があって部屋に戻らないといけないんだ……」
ん? 彼女はもしかしてここに僕たちを招集するだけ招集して昼の間は解散しようとしてるのか? そんなことが許されると思っているのか?
「え、じゃあ残された僕たちはどうすれば……?」
「うーん……一応部屋の引き出しにゲーム機がしまってあるはずだからそれで時間をつぶしててほしいかな~、なんてね。ごめんじゃ、じゃあ私はこれで!」
彼女はそう捨てるようにゲームがあることを僕たちに告げると逃げるように屋上から立ち去って行った。ずるい人だ。
「すごい勢いでいなくなっちゃったね」
困ったような表情でそういう向井さんに僕は確かに、と頷くことしかできなかった。