召還士は眠かった。
「……、という訳で皮ごと全部いただけたのはいいのだけど、このままだとどうやってもユークにバレるわね」
「あと、体力なくてへばってるテオをどうやって連れ帰るかも問題なんだな」
「……いぇーす」
はあ、と一つため息を吐くと、リーリエは指笛を鳴らした。これをならせば、ルエが救援を出してくれる手はずになっている。
……、はずなのだが。
「……こないわね」
「……来ないな?」
その間にテオは意識を失っている。アジェの背に持たれたままもはや動かない。
「寝落ちの可能性は」
「なきにしもあらず」
「……皮を持ち帰るためにはテオを犠牲にするしか」
「そんなことしたら本当にユークに泣かれるわよ」
テオは「自分にはなついていない」等と言ったが、ユークの心の拠り所はテオだ。
テオとユークがどうやって出会ったのかを二人はしらない。別段知ろうと思ったこともないが、彼らの結び付きはまるで家族のように思えるほど強固だ。本人たちがそれを知っているかどうかはわからないが。
もう一度指笛を吹くと、その瞬間にバサリ、と大きな翼をはためかせる音が背後から聞こえた。
「アイラ、あなたがきたのね。いい判断だわ」
「まったくだ」
振り返った先に居たのは巨大な漆黒の飛竜だ。
「こんな真夜中にありがとうな」と、アジェに声をかけられて気をよくしたのか、長い首を二人に擦り寄せる。
「ルエのやつ、どうせうとうとしてたんでしょ」というリーリエの言葉にはぐるる、と唸るだけであった。
アイラの黄色の瞳が若干泳いだのを見た二人は苦笑した。
まず、二人がかりで大蛇の皮を丸め込み、それから完全に眠り込んでしまったテオのことをアイラの背中に乗せる。ロープを使ってアイラの首の付け根にテオを括り付けると、二人も背中にしがみつく。丸めた皮はアイラの足がしっかりとつかんでいる。
「頼んだぞ」と言ったが早いか、黒の飛竜は薄ら明るい空へと飛び立ったのだった。