なんたらと煙は高いところが好き。
「鱗少しならわけてくれるってー!」
遥か頭上からテオがさけんだ。いつ足を滑らせるか冷や冷やしながらみていたリーリエは、ほっと息をついた。
よくやったとアジェがいう前に、その代わり、と続く。
「もうしばらくほっといて欲しいから、討伐したことにでもしといてくれってー!」
「……、本当にそう言ってるのかしら」
「わからんが、信じるしかないだろ」
モンスター相手でも友好的な解決は可能らしい。今度から有効的に利用していこう、とリーリエは思った。
それよりも、だ。
「テオ、あんた、どうやって地面に降りてくるつもりなのー?」
リーリエの言葉にテオは考えてなかった、と言わんばかりに目を丸くした。
隣でアジェが頭を抱えて下を向いている。
「まあ死なないでしょ、多分」
「死ななくてももらった鱗が全部あんたの治療費で吹き飛ぶわよ」
「もう、鱗わけてもらうついでにその蛇に助けてもらえよ……」
「アジェ、天才!」
魔導師の素質と、思考回路はあんまり関係がないようだった。
蛇に向き直り、口を動かす。何を言っているのかは聞こえないし、聞こえたところで理解できないのだろう。
とりあえず、助けてもらえることにはなったようで、狭い結界のなか、尾っぽの先をテオに向かって差し出した。それを確認してから結界を解く。テオを支えていたナイフが中に投げ出されて、それと同時に、自重で地面へと引き寄せられていく。ナイフの上にいたのと同じ、直立姿勢のまま落ちていく。
そこへ、足元を作るために大蛇の尾が差し入れられる。テオは膝を曲げそのまま勢いをつかい紅い尾の上で宙返り、綺麗な着地を決めて見せた。
テオの芸当のお陰ですっかり忘れていたのだが、大蛇から殺気がないので、確かに交渉は成功したようだった。
「俺ら今回必要だった?」とアジェ。リーリエは「最後に絶対必要になるでしょ」と苦笑いしながら返した。
そこで、地鳴りが起きた。否、紅い蛇が身震いをした。
思わず剣を構えたアジェを見て、大丈夫だよ、とテオは呑気にいう。
パリパリと乾いた音が大蛇の頭から聞こえる。
パリッ、と小気味良い音がして、ずるり、と朱朱しい頭が一つ出てきた。
そのままそこからズルズルと、胴体がつづいて出てくる。
……紅い大蛇は脱皮してさらに紅さを増していた。
鱗をわけてくれるどころか、一回りいただけるということらしい。
「蛇の脱皮って初めて見るわよ」
「俺もだ」
小さな蛇ならいざ知らず、こんなにも大きな蛇が脱皮する場面には今後二度と出会えないだろう。