お金を稼ぐためには身体を張らねばならぬ
「聞いてたよりも難易度高くないかしら?」
「俺も同じ事を思った」
「アジェが手加減出来なくて鱗粉砕するせいでしょ!」
三人組は悪戦苦闘していた。
というのも、彼らの目的は、この大蛇を倒すことではなく、大蛇の鱗を手に入れて売ることだからである。
そもそも、この大蛇を討伐する理由がない。生き物を殺すのは好かないし、何よりも、誕生日プレゼントのために生き物を殺しましたなんて、胸を張ってユークに顔合わせが出来ない。
ここは平和的解決と、テオが叫ぶ。
「あのー! ごめんなさい起こしてしまってー! 鱗二十枚くらい譲ってくれませんかー! お金が必要でー!」
それを聞いたリーリエが「うっわ……頭わるそう……」と実直な感想を漏らした。
「そもそも人の言葉通じるの?」
「それだ」
「最初から友好的解決を臨めばよかった……」と、テオが呟きながら簡易的に動きを封じる結界を展開。狭い檻に閉じ込められた大蛇は窮屈感からか、さらに暴れていく。ひとまず一撃必殺は食らわなくて済む状態になった。じゃあ、アジェよろしく、と軽く言う。
「成人男性投げ飛ばすのは結構大変なんだぞ……」ぼやきながらも両手を組む。「じゃあリーリエが行く?」「それができるなら貴方たち、今まで瀕死になりかけてないと思うわ」「いえてる」
しゃがみこんだアジェの両手の上にテオが乗る。
「いくぞ」「おっけー」の掛け声で、テオが吹っ飛んだ、否飛び上がった。
「あいつ、また軽くなってたぞ」
「明日の朝、無理やり口開いて食べ物突っ込んでおきましょ」
魔術に関して詳しいことは、アジェとリーリエにはよくわからない。それでも一つ言えることは、これが魔術ではなく、テオの体術であるということだ。おおよそ戦闘訓練を受けたとは思えないのに、跳躍と瞬発力だけはどうしてもテオに敵わない。
自分が展開した結界に、短刀を突き立てて跳躍の威力を殺すと共に、大蛇の目の前にナイフ一本でぶら下がったテオは、翌朝、口に果物を詰められて起きるとは全く知らず、身を翻して短刀の上で直立した。にぃ、と開いた口から出たのは、およそ声とは言いがたい音であった。