表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

ユークは勇者である。


ユークは勇者である。

ある朝起きたら勇者だった。神からの“天啓”らしい。


ユークは勇者である。

勇者は何故か旅に出て、世界を救わなくてはならないらしい。理由はよくわからない。


ユークは勇者である。

勇者なので、自分の生まれ育った村を出るときにも泣かなかった。


ユークは勇者である。

だから、帰る場所が無くなっても世界を救わなくてはならないらしい。


ユークは勇者である。

それだけが、それだけが彼の旅を続ける理由だった。






夜中にユークが目を覚ますと、何故か同じベッドでルエが寝ていた。

身を捩ってルエの腕の中から抜け出そうと試みたら、さらに抱き締められた。ぼくはぬいぐるみじゃないんだぞ、と少しだけ思った。抗議しようと思って開いた口は、ルエの胸に押し付けられて、むぐう、と変な音しか出してくれなかった。

上から「まだ夜中、おやすみ」という声が降ってきた。なんでぼくのベッドにいるのか、とかいろいろ聞きたかったはずなのに、おやすみ、と言われたのでなんとなく、目を閉じなくてはいけない気持ちになった。



ややあって、また規則的な寝息をたて始めたユークを確認してから、ルエは手をほどいた。ルエの頭身の三分の二程度の大きさの少年がそこにはいる。神からの“天啓”で、九歳の時にはもう彼は勇者だったという。あと一週間もすればユークは十一歳になる。

それでもまだ、彼は少年なのだ。まだ柔らかなその髪に手を差し入れるとくすぐったいのか、少しだけ声を出した。そっと手を離す。

自分が同じ歳の頃を思い出そうとしたけれど、あまりはっきりとした記憶がない。遥か昔の話ではないはずなのに。

しかし、少なくとも、父と母に囲まれて、裕福ではなかったがそれなりの食事をして、あたたかい場所で寝ていたはずだ。

ユークのことを、かわいそうだというつもりはない。そういう風に生まれてしまったのだ。そういう風に定められたことだ。

だから、少なくとも、彼が寝ているときだけは少年であれと、ルエは願わずにはいられないのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ