今晩の宿を探しています。
ぼくが勇者になってから、どれだけ経っただろうか。
相も変わらずレベルもなかなか上がらなければ、経験値もなかなか取得できない。というのも、僕の基礎値があまりにも低いからである。剣も未だろくすっぽ振れない。あまり強いモンスターに出くわそうものなら、一撃で瀕死になってしまう。
それに従って、ぼくについてきてくれているみんなのステータスも上がらない。
それでも、ぼくは曲がりなりにも勇者であるらしいので、後ろに引き下がるわけにはいかないのだった。
そんなぼくに愛想をつかさないでついてきてくれる仲間たちが、ぼくは大好きなのである。
◇◆◇
町広場の真ん中で、ぼくらは行く先がなく、たむろしていた。
「で、今日も今日とて、泊まる場所が見つからないと」
アジェが太い腕を組んでこちらを見下ろしてくる。ぐうの音もでない。
ぼくたちの手持ち金で泊まれる場所はそんなに多くない。そして、日が沈みかけたところで町に到着しても、安い宿はたいてい埋まってしまっている。それに人数が人数である。ぼくたちのパーティーは全員で五人。女性であるリーリアのことを考えると二部屋確保できるのが理想なのだが、現実はそんなに甘くなく、一部屋確保できればいいほうだ。
お金を積めば、いくらでも泊まれる場所はあるのだろう。そういう余裕がないのは、ひとえに僕の能力不足のせいなので、みんなに迷惑をかけてばかりである。
「そんなこと言ったって仕方ないじゃない。もう五人で同じ部屋に泊まるのも慣れたでしょ」
「リーリエ、いつもごめんね……」
「ユークのせいじゃないわ。私たちにだって原因はあるの。だからそう悲観的にならないでちょうだい」
ね、と優しく笑ってくれるものの、男四人と同じ部屋に泊まるのに慣れたなんて、言ってはいけないはずだ。
「アジェが心配してるのはリーリエじゃなくてユークでしょ」
と、なんだかおもしろくなさそうにテオがいう。言われたアジェは眉間にしわを寄せた。図星のようだ。それを見てテオがため息をひとつ。
「ぼくのことは大丈夫だよ、たぶん、さすがに、うん」
などと言っていると、後ろからルエに頭を撫でられる。どうやら励ましてくれているようだ。
「あー! もう!!! ちょっとみんなここから動かないでね! 俺が交渉してくる!」
テオがしびれを切らしたように、頭を抱えて町の中に歩を進めていく。
「素直じゃない」
ルエがぼくの頭をなで続けながらぼそりという。
アジェとリーリエもうなずいている。
でも、いい人なんだよな、とぼくは思う。
大柄な剣士のアジェ。
褐色の肌を持つ女弓士、リーリエ。
勉強熱心で面倒見のいい魔導士、テオ
口数は少ないけど、優秀な召喚士、ルエ。
彼らが僕の仲間たちである。
◇◆◇
なんとか確保できた宿の一部屋。
「……、ユークは寝た?」
「ぐっすり」
「じゃあ、行きますか。留守番頼んだぜ、ルエ」
そして、三人部屋を出ていった。