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短編集 詰め合わせ

人喰いパラサイトに寄生されてしまった場合

作者: 忍者の佐藤

 バイトを終えた俺はいつものように公園のベンチに座って休んでいた。

 木の枝からこぼれる暖かな木漏(こも)れ日、近くで聞こえる噴水の音、遠くで聞こえる子供達の声、俺の目の前で(えさ)をついばむ鳩たち。

 平和な光景についついアクビが出てしまう。その時だった。

 視界の奥から黒い塊が俺の方へ飛んで来て、吸い込まれるように俺の口に収まった。俺は異物感と吐き気に見舞われ、うずくまって激しくえづいた。


 しかし異物は俺の食道をグイグイと進んでいき、感覚的に胃に落ちるのが分かった。大きさから言ってカナブンか何かだろうか。


 何はともあれえづきから解放され、顔を上げた俺の前には更に異様な光景が広がっていた。白衣を着た十人ほどの集団に取り囲まれていたのである。

 宗教の勧誘だろうか、どうやって逃げようかと考えていると、集団の中から初老の男が歩いてきて俺の肩を掴んだ。


「私は寄生虫の研究をしている博士で、奥村という者だ」


「は、はあ」


「君はたった今寄生虫に寄生された」


「え? 寄生虫……?」


「さっき黒い塊が君の口に入っただろう」


「でもあれカナブンか何かじゃあ……」


「ソイツの名前は寄生虫『PK』。一度人体に入ればジワジワと人体を(むしば)み、寄生された者は激痛のウチに命を落とすことになる」


 俺は急に目の前が暗くなっていくのを感じた。そんな、俺の人生はこれで終わってしまうのか?!


「ちょ! ちょちょちょちょっと待ってくださいよ! 俺はどうすれば!」


「安心しなさい! まだ時間はある!」

 そう言う博士の後ろで慌ただしく何かが準備されている。

 どうやら体育館によくしまってあるタイプの長椅子とパイプ椅子のようだ。


「あちらに座りなさい」


 パイプ椅子を指差す博士。

 言われるままに座る俺。

 目の前に置かれる鍋焼きうどん。


「食べなさい」


「なんで!?」


「『PK』は熱いものが苦手なんだ! アツアツのうどんを流し込むことでPKを殺せるかもしれない!」


 改めて鍋焼きうどんを眺める。まるでマグマのようにコポコポと泡を立てている。ここで俺は一瞬シラフになる。なぜだ。寄生虫に寄生された俺がなぜアツアツのうどんを食べなければならないんだ。


「早くしろ! 死んでも良いのか!?」

 俺に顔を近づけて叫ぶ博士。

 ええい、 やるしかねえ! 俺はお(わん)の両はしをつまみ、一気にうどんの汁を口から流し込んだ。

 口内を強烈な熱が襲って俺はまた咳き込む。


「アツ! アッツ!!」


「ダメそうだな……、よし次だ! 」


 さらりと流されたことで俺の殺意ゲージが一気に溜まっていく。

「カモン!」

 博士が指を鳴らすと白衣の集団の中から屈強そうな男が二人出て来てそれぞれ俺の右肩と左肩をがっちり掴んだ。……ん?


「目には目を! 寄生虫には寄生虫を捕食する生物、この『キラーP』を!」


 そう言って博士が取り出したのはモルモットサイズの生き物だった。ネチャネチャしていて「シャー! キシャー!」と低いうなり声を上げて、何より深海魚をボコボコにしたような顔をしている。


「これを噛まずに飲み込みなさい!」


「無理無理無理無理!!」

 俺は必死に逃げようと試みるががっちり両腕を掴まれていて動くことができない。


「いいから口を開けなさい!」


「いや絶対に寄生虫よりソレの方がヤバいだろ!」


 しかし博士は無理やり俺の口を開いた。


「行け」


「あいよ」


 間抜けな返事をしたキラーPはソウメンのようにチュルチュル俺の口に入っていく。意外にも吐き気は感じなかった。


「研究者たるものリスクヘッジは欠かせない。次の手段だ!」


 次はどんなエイリアンを飲まされるのかと恐怖でジタバタ暴れている俺の前に用意されたのは浴槽のような形をした、透明なアクリルに入った透明な液体だった。

 勢いよく湯気が立ち上っているところを見ると、おそらく熱湯のようである。


「入りなさい」


「なんでだよ!?」


「新陳代謝を活発にして皮膚(ひふ)から寄生虫を追い出すためだ!」


「アンタ絶対適当に言ってるだろ!」


 しかし俺の抵抗むなしく屈強な男たちに担ぎ上げられた俺は熱湯のフチまで運ばれた。


「待って! 本当に待ってくれ! まだ心の準備が!」


 しかし博士の表情はひたすらに冷酷である。


「やれ」


 その言葉と共に熱湯に突き落とされる俺。


「アチャチャチャチャー!!!」


 想像を超えた熱さにリアクション芸人ばりの面白い動きでのたうち回る俺。


「ナイスだ!」と笑顔で言う博士に更に殺意が溜まる。


「何がじゃあ!」

 俺はどうにか熱湯から転がり出ながら叫んだ。しかし博士の表情は再び硬くなる。


「さあ次は服を脱ぎなさい!」


「なんでだよ!」


「そろそろ寄生虫が出てくるからだ!」


 どっちにしろ熱くてたまらなかった俺は上半身に身に着けていた衣服を脱ぎ去った。


「下もだ」


「正気か!?」


「早くしろ!」


「ここ公園だぞ!」


「君の命が掛かってるんだ!」


 ええい、ここまで来たらヤケクソだ! 

 俺は勢いよくズボンをズラした。何故か白衣の研究者たちから歓声が上がる。

 すかさず俺の方に歩み寄ってきた博士は俺のお腹に手を当てて目を閉じ、何かの気配を感じようとしているようだ。

 博士の動きはそのまま止まる。俺の意識がハトの声をとらえ始めたころ、急に博士がカッと目を開き、俺の肩に手を置いた。



「今すぐパンツを脱ぎなさい」


「気は確かか!?」


「早く!もうすぐ★自主規制★からが出てくるぞ!」


「尿管結石か!」


「あと一枚! あと一枚!」


 博士が手を叩きながらコールを始める。それに同調して研究者たちも同じくコールを始める。


「あと一枚! あと一枚! あと一枚!」


 既にパンツ一丁の俺は公園中の注目の的だった。ここまで来たらパンツ一枚も全裸もあんまり変わらない気がしてきた。

 クソッタレ。ここで死ぬくらいならやってやるぜ!


 俺は勢いよく下半身をさらけ出した。


 先ほどまで鳴り響いていたコールは雄たけびに変わる。


「どうだ! 寄生虫が出てくる気配はあるか!?」

 博士が激しいテンションで聞いてくる。


「いや、とくには……」


「じゃあ振り回すんだ!」


「……は?」

 俺には言っている意味が分からなかった。いや、分からなかったわけじゃないが、心の底から俺の聞き間違いだと思いたかった。


「★自主規制★を振り回して寄生虫を体外に排出するんだ!」


「いやいやいやいや! おかしいだろ! そもそも振り回して出てくるようなデカさじゃないかっただろ!」


「大丈夫。君なら出来る」


 そう言って力強く頷く博士。


「でも……」


 俺が全裸のまま(しぶ)っていると、博士は胸ポケットから一枚の白い手ぬぐいを取り出した。遅れて俺を取り囲んでいる研究者たちも白い手ぬぐいを取り出す。なんでみんなして持ってるんだ。


「こうやって振るんだ!」


 博士は天高く手ぬぐいを掲げ、それを激しく円を描くように振り回し始めた。呼応するように、後ろの研究者たちも手ぬぐいを元気いっぱい振り回しはじめる。これは何の悪魔を下ろす儀式なのだろうか。


「さあ早く!!!」


 手ぬぐいを振り回しながらピョンピョン飛び跳ねる研究者たち。ああ、これ何て言うんだっけ? そうだ、ヤケクソだ。


「うおらああああ!!!」


 何かが吹っ切れた俺は力いっぱいにケツを動かし、下半身のアレを振り回し始めた。その勢いたるや我ながらすごかった。もう20世帯分の電気を風力発電できるくらいの勢いでブンブン振り回した。


 ★自主規制★を力いっぱい振り回す俺。

 その俺を前にして、歓声を上げながら手ぬぐいを振り回す研究者たち。

 ここに世界一汚いライブ風景が出来上がった。ああ、早く寄生虫出てこないかなあ。


 しかし出てきたのは下からなく、上からだった。

「博士、寄生虫いませんでしたよ」

 俺の口からにゅるにゅると出てきた『キラーP』がダルそうな声を上げる。そもそもお前は何なんだよ。


「そんなバカな! 絶対に彼の口に寄生虫が……」

「代わりに胃の中からカナブンは見つけましたけど」


 先ほどまでバカみたいに騒いでいた一団がまるでお通夜のように静かになる。

 しばらく経ったところで博士が俺の肩に手を置き、言った。


「と、言うわけだ。安心したまえ、君の命はもう大丈夫!」




 俺は博士を担ぎ上げ、熱湯風呂に叩き落した。




 終わり


お読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] バラエティ番組を見ているかのような無茶ぶり面白かったです。「あと一枚」コールも情景が浮かんで面白かったです。
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