初恋、夢に帰す!
光に包まれると、そこは元いた暗い私室だった。
窓の外に輝く満月が、私とリリィを照らしている。
そして――目の前のベッドには、寝息を立てるグレンの寝顔があった。
その表情は穏やかで――私の視線が囚われてしまう。
「いいのですか?」
訊ねるリリィに、
「いらないわよ、こんなやつの精気なんて」
私は言い切った。
だいたい巨乳になれないなら、意味がないではないか。
そう思いつつも、視線はグレンの寝顔へと吸い込まれる。
私の胸の高鳴りを見抜いてか、リリィは優しく妖艶な笑みを浮かべて言う。
「私、先に帰りましょうか?」
私の頬が赤くなる。
「いいって!」
ちょっとムキになって怒鳴り声を上げてしまった。
ハッとしてグレンを見ると、穏やかに寝息を立てている。
(半夢魔化のせいよ)
本気でそう思う。
ただ、私が人間に戻っても――この気持ちがなくならなければいい――そう願う自分もいる。
私は全身の魔力を操作した。
世界が表情を変える感覚が通り過ぎる。
リリィが驚いたように私を見ていた。
「魔王様、すでにご自分で半夢魔化を……!」
うっとりとしているリリィを尻目に、完全に人間に戻った私は、ベッドに目を向けた。
昂る想いを感じるわけでもなく、痛みさえ胸に感じなかった。
そこには、ただ同世代の男の子が眠っていた。
「グレン! おっはよ!」
朝の光に照らされる、学校の玄関。
いつも通り友達に挨拶されて、グレンは少しびっくりしたような顔をした。
「おはよ……」
「なんだよ、寝ぼけてんのか?」
友達が訊いて来る。
「ううん、昨日見た夢が忘れれなくてさ……」
答えるグレンに、
「なんだ、夢の美少女にでも惚れたか?」
ニヤニヤ笑う友達に、グレンは複雑な顔をした。
「おい、まじかよ……」
引いて見せるように笑う友達に、グレンは返す言葉がなかった。
「おはよー、グレン」
「ああ、おはよう」
「おはよー」
「おはよー」
いつも通り、みんなと挨拶していく。
「おはよー」
聞き慣れない声に目を向けると、そこには学校指定のローブに身を包んだ、ピンク色の髪の女の子がいた。
「え――」
グレンが硬直する。
横で友達も硬直する。
夢で出会って、自分を助けてくれた少女――ロウラは、この現実の中で一度視線を横に逸らしてからグレンに言った。
「友達になってあげるわよ。これからよろしくね」
「……」
呆然とするグレンの顔色を伺うような目をすると、少女はツンとした表情でグレンとすれ違うように去って行く。
サラサラとしたツインテールから、いい匂いがした。
「誰だよ、あの子。めっちゃ可愛いじゃん!」
騒ぐ友達を無視して、グレンは可憐な後ろ姿に叫んだ。
「うん、よろしくね、ロウラ!」
ダメだったと思ったが――私は、初めて友達ができた。