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色気、目指す!




「ロウラよ、早速一国の王を仕留めるとはな――言葉もない」


 轟く雷鳴が止んだタイミングに、ドゥヴォルは冷たい声で祝辞を述べた。


 世界の恐怖を司る中心地、魔王城。


 天井に輝く魔法のシャンデリアに照らされた謁見の間には、その支配者である私と、その左右にドゥヴォル、リリィの姿があった。

 目下には甲冑を着た魔物たちが馳せ参じ、膝を着いて並んでいる。


「とーぜんよ!」

 私は玉座にふんぞり返り、白くしなやかで美しい脚を組んだまま言い放った。


(あのジジイ、蹴り一発で死にやがって……)

 私は内心頭を抱えていた。


 確かに勇者になった当初、五百ゴールドしかくれなかった恨みは大きかったが、国王から先に倒してしまったのはなんかミスだったような気がする。


 敵国を正面から制覇してこそ魔王ではなかろうか。

 これではまるで、コソコソ忍び込んで老人虐待をしたような気になってしまう。


「デリカ国は、勇者の名産地です。その国王を処罰なさったのは、軍事的に考えてもご懸命な判断だったと思います――しかも、御身自らご出陣なさるとは」


 相変わらず豊満な胸を組んだ両腕の上に乗せて、リリィが恍惚な表情を浮かべて言った。


 〝勇者の名産地〟って、作物じゃないんだから……。


 私は悩める心境を誤魔化すために、組んだ脚のガラスのヒールを半分脱いで、可愛らしい生足の先にぶら下げて揺らし続ける。


 くそー、カッコよく宣戦布告だけしたつもりだったのに……。


「いいわ、ご苦労。下がりなさい」

 私はガラスのヒールを脱いで、白く可憐な足の指で扉を指した。

 ピンク色の長いツインテールと相まって、ちょっとマニアックな萌えポーズ。

 馳せ参じた魔物たちの忠義が高まるのを感じる。


「「「ははっ!」」」


 騎士風の魔物たちが出て行くと、謁見の間には私とドゥヴォルとリリィの三人が残った。


「あっけなかったわ」


 私は愚痴るように言う。


 本当に不満だった。


 後世で、この出来事がどう語り継がれるのだろうかと思うとゾッとする。


「魔王様の御決断と行動力あっての賜物ですわ」

 リリィはうっとりとした表情で私を見る。

 私は白けた瞳でその下にある巨乳を見てしまう。


「でもこれでデリカ国が潰れるわけでもないでしょ」

 つまらなさそうに言う私。


「いや、そうでもないぞ。後釜がいようが、王が死ねば国は乱れる。国力が削がれ、軍事力が下がる。それは侵略する上での大きな隙になる」


 相変わらず堂々と発言する生意気なイケメン、ドゥヴォルの言葉が今は頼もしい。

 私を巨乳にできないクセに。


「まぁいいわね。過ぎたことよ」

 私は独りごちた。

 どう解釈したのか、リリィが陶酔するような笑みを深める。


「では魔王様、晩餐のお時間になりますので、食堂に向かいませんか?」

 リリィにそう言われると、急にお腹が空いて来た。


「そうね」

 私は脱ぎかけていたガラスのヒールを踏むように履き、玉座から立ち上がる。

 リリィが魔法の光を放ち、足元に紫色の魔法陣が広がった。

 空間転移。

 視界が暗転し、目の前に食堂が広がる。


「さてさてー、ご飯よご飯ー!」

 活力が出てきて幸せになる魔法の言葉。

 長いテーブルには白いテーブルクロスが敷かれ、既に大量の料理が並べられている。


 そんな私を優しく見つめるリリィの視線を感じながら、私は歩いてテーブルに近付くと、骨付きチキンを手にしてかぶりついた。

 うむ、焼き具合と味付けが絶妙だ。


「ロウラよ、高貴な人間というのはテーブルマナーを善しとするものではないか?」

 落ち着いた声でドゥヴォルにそう言われるが、

「ふふふぁいわうぇ、わわうぃわわをうよ(うるさいわね、私は魔王よ)」

 

 立ったままテーブルの回りを歩き回り、好みの料理を食べていく。


「バイキング形式というものですね」


 リリィが優しくそう言った。


 (こんなお父さんとお母さんが欲しかったなー)

 そんな想いを、私が口にするはずもなかった。






 食事を終えて、入浴も済ませた。

 私はファンが萌え死ぬであろうナイトウェア姿で、ベッドに座っていた。

 目の前には谷間剥き出しの巨乳――じゃなくてリリィが立っている。


「今日はデリカ王討伐お疲れ様でした。もうお休みになられますか?」

 そう優しく言うリリィに、私は思っていたことを訊く。


「サキュバスってさ、人間の夢の中で食事するんでしょ?」


 リリィは少し目を丸くするものの、すぐに優しく微笑んで、

「現実世界でも食事しますよ。もっとも、人間の夢の中にも入ることはできますが……」


 私はニヤリと笑って、

「じゃあさ、今夜私を夢の中に連れて行ってよ」


「本気ですか、魔王様?」

 リリィは目を丸くする。


「当たり前じゃない。魔王である私が、配下のリリィがやってること知らないってゆーのもどーかと思うのよね」


 つまらなさそうに言う私。


「それに、言われたんだ、ドゥヴォルに。自分の欠点を見つけて、克服するようにって。貴女のやってる何かに、それがあるかもしれないじゃない」


「魔王様……」

 リリィは瞳を輝かせた。己が主たる者の、さらなる成長の志を目の前にして。


 私は視界の隅で、ただリリィを巨乳を盗み見ていた。

 ボインなサキュバスたちが求める人間の夢。

 そこに、私の欠点の克服――巨乳になるための何かがあるかもしれないという期待を胸に。




 

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