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魔王、侵略す!




「はぁ……」


 特注の玉座に座ったまま、私は溜め息をついた。


 特注の玉座というのは、私が座るに相応しい、豪華で煌びやかで、高い背もたれのついたシングルソファーのことだ。

 もともとあった玉座は固く、お尻が痛くなったので倉庫にしまってある。


 私は肩出しのドレスを翻すように脚を組み直し、謁見の間を見渡した。


 魔王の城というのに相応しい、真っ赤な絨毯が敷かれた石造りの部屋。

 部屋の左右に並んだ窓が美しく、外では稲光が明滅している。


 私の隣には、金髪の美青年ドゥヴォルが佇んでいる。

 ずっと。


 かれこれ二時間ぐらいこうしているのだが……。


「ねー」


 私の声に反応して、ドゥヴォルがこちらを向く。


「ひま」


 私は一言そう言った。


 ドゥヴォルは生意気にも呆れた顔をする。


「当たり前だ。魔王とはいえ、ずっと謁見の間に鎮座しているわけではない。まったく、ロウラは何の影響を受けたのか……」


 イラっとして、私は言った。


「だって、王様だっていっつも玉座に座ってるイメージあるもん! アンタだって、私が来た時この辺に座ってたじゃん!」


「人間の王に会う時は謁見の時だろう? 奴等とて常時玉座で過ごしているわけではあるまい。我も、侵入者だったロウラをここで出迎えただけだ」


 屁理屈を言うドゥヴォルにむすーっとした顔をするも、すぐに顔を背けられる。

 私の美貌が眩しいのだろう。


「魔王ってこんなにヒマなの?」


「玉座に座っているだけではな」


「むー」


 こいつ、摂政の分際で、魔王の私に生意気だな。


「ねー、外に行って来ていい?」


「侵略か?」


 なんか違うけど。


「うーん、まぁそんな感じ」


「では兵を集めよう。どこを落とす?」


 なんか大袈裟なことになってきた。

 私は責任感を覚えて、頭に青筋を立てる。


「あー、もううるっさいなー! 私一人で充分よ!」


 私は我慢できずに立ち上がった。


「これからデリカ国に行って、王様に会ってくる!」


「一人でか?」


 私はガラスのヒールを小気味好く鳴らしながら、無言で扉へと歩いていく。


 ドゥヴォルは黙って、私の可憐な姿に見とれていた。







 全身を魔力が包み込み、ピンク色の長い髪と漆黒のドレスが舞い上がる。


 スカートから白い生足が見えるが、下着が見えなければ問題ない。


 私の体が宙を浮き、私室のバルコニーから空へと飛び立つと、巨大な魔王城が眼下に広がった。


 雷鳴が轟くのに雨が降っていない空。


 飛竜たちとすれ違いながら、山を超え谷を超えると、青い空が広がった。


 さらに森と海を超えて、街や村を見下ろしながら、デリカ国の城へと辿り着く。


 私が城下町と城を繋ぐ跳ね橋の上に降り立つと、門番の兵士たちが二人、目を丸くした。


「何奴っ!」


 私は艶のあるピンクのツインテールを右手で後ろに払い、


「勇者だったロウラよ。私、魔王になったから」


 キメ顔で言い放つ。


「は?」


 兵士たちは目を丸くした。


 私の神々しさが分からないダメなヤツらなようだ。


「めんどくさいな……」


 私は右手を目の前に上げた。


 陽光を弾く可憐な指輪や腕輪は、魔王城にあったマジックアイテムだ。

 魔力増幅の効果があると聞いたが、さてどの程度のものか。


 普通に魔法を使い、ピンク色の煌めきが兵士たちを包み込み。


「な、これは……!」


 兵士たちが目の色を変える。


 一度驚愕に染まり、そして瞳にハートが浮かんだ。


「ロウラ様、はうわぁ……!」


 二人の兵士が私に飛びついてきた。


 やばい、効きすぎた。


「おい、私にくっつくなっ! 変態っ!」


 私のくびれに手を絡め、発育途中の胸に頬擦りをしてくる兵士の兜を必死に掴んで引き剥がそうと試みるが、本能を解放した雄の力には抗えない。


「ああっ、ロウラ様っ! もっとなじってくださいっ!」


 両目をハートにしながら私を襲い続けてくる兵士の兜に肘打ちを繰り返すも、よけいに興奮しながら兵士はなお私の胸を求めて頬擦りを続ける。


「おい、お前! やめさせろ!」


 もう一人の兵士に命令するが、そいつは後ろから回り込んで私の丸い尻に頬擦りを始める。


「ロウラ様ぁ! ロウラ様ぁ!」


「くそう! 変態共めっ!」


 意識の片隅で、自分が使った魔法の質に後悔するものの、すべては手遅れだ。


 何人もの通行人が集まって来きているが、国の兵士に対して誰も何も言わないで見ている。


 むしろ好奇の目で視姦している者までいて、このままでは大衆の前で輪姦されかねない。


「このッ! いい加減しろッ!」


 そんな初体験はごめんだ。

 私は全身に走る悪寒に耐えかねて、魔力を高めた――その時、


「やめろ!」


 響いた声は、聞きなれない男のものだった。


 見ると、イケメンが立っていた。


 背中に大きな剣を背負った、黒髪のイケメンだ。

 まさに〝勇者〟といった風情。

 コスプレと言ってもいいレベルかもしれない。


 だが、そんな声は目をハートに燃やしながら暴走する兵士たちの耳には届かない。


 その時、勇者が走り出し、兵士を兜ごと殴り飛ばした。

 数メートルの距離を飛んだその兵士には目もくれず、もう一人の兵士に鎧の上から回し蹴りを放つ。


 くらった兵士は、やはり数メートルの飛距離を記録し、地面に転がる。


 周囲から歓声が上がった。


 開放感と安堵感に、私は地面に座り込んだ。

 膝につく砂の感触を気にもせず、私は勇者を見て言った。


「助かったわ」


 勇者は私の可憐な微笑みをちらりと見ると、目を逸らし、


「服を整えろ」

と言う。


(?)


 状況を理解できない私が自分の胸元を見ると、そこにはまだ膨らみきらない白い水風船が二つ、外気にさらされていた。


「――!!」


 顔が激しく熱くなる。


 胸元が大きくはだけたドレスをすかさず直し、乳房が隠れたことを確認して、先程の兵士たちを睨みつける。


 勇者の一撃で完全に伸びているケダモノが二匹。


 すぐさま立ち上がり、狙いを定めて手に魔力を込めると、


「やめておけ」


 見ると勇者が冷静な瞳でこちらを見ている。


「何がやめておけよ!? こいつらが私にしたこと見てたでしょ!?」


 私は先程のシーンを思い出し、再び羞恥心に顔を紅潮させる。


 魔王のこの私に、これだけの恥をかかせたのだ。

 大衆の目の前で。

 まだ発育途中なのに。


 だが勇者は冷静に、


「ここは城下町だ。法がある。こいつらはそれを破った。だから、それで裁かれるべきだ」


「……」


 ちょっとカッコイイじゃん。

 イケメンだし。


 私は一度深呼吸をして、


「分かったわ。貴方には助けてもらったことだし。名前を聞いとくわ」


「ロッドだ」


「名前、似てるわね。私はロウラ。魔王よ」


 言いながら、長いドレスの裾についた砂埃を払う。


 誰もが絶句し、空気が凍った。

 当然だ。

 世界が恐れる魔王が、ここに君臨したのだから。


「……いくつだ?」


 ロッドに聞かれ、


「十四」


と、答える。


「……思春期か」


「?」


 よく分からず顔をしかめた時、集まった人混みの中から三人の男女たちが姿を現した。


「ロッド!」


 振り向いたロッドは、彼らの姿を確認するなり、


「この兵士たちが、このお嬢さんに不埒な真似をしていた。兵士長に報告するぞ」


 どうやらロッドの仲間のようだ。


 それにしても、魔王たる私がいるというのに、全く恐れないこの精神。

 私はこのロッドと名乗った青年を高く評価した。


「とんでもない兵士ね」


 見るからに魔法使いな女が言った。

 僧侶風な女は、無言のまま同意する。


 ロッドは兵士の一人を鎧ごと担ぐと、


「ヘリオス、そっちの兵士を担いでくれ」


 ヘリオスと呼ばれた少年は黙って頷き、伸びているもう一人の兵士をやはり鎧ごと担いだ。


 一瞬、私と目が合う。

 こいつもイケメンだ。

 私に惚れたな、と直感する。


「じゃあ、また会ったらよろしくな、ロウラ。気をつけろよ、お前は綺麗だから」


 そう言ってロッドは去って行った。

 三人の仲間たちもそれに続く。


 私はしばらく、彼らの背中を見送っていた。



 

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