デスリング
※キーワードにオカルト、ホラーとありますが、オカルト、ホラー要素はほとんどありません。悪しからず。
"いわく付きのリング買ったんだけど、うち来ない?"
私のケータイにUちゃんからメールがきた。もちろん即OK。
"いーよ、行く行く(^^)"
* * *
「ジュースいれてくるからちょっと待ってて」
Uちゃんはそう言って部屋を後にした。
ここはUちゃんの部屋。Uちゃんと私とは小学校の時からの友達で、Uちゃんの家には何度も来たことがある。それにしてもUちゃんは変わらないなあ。いつ来てもダウジングとかいう占いの道具や心霊スポットの写真ばかり置いてあって、女子中学生らしきものは何もない。そう、Uちゃんはオカルトとかホラーとか、そういうのが大好き。
「お待たせー」
Uちゃんが二人分のジュースを持って部屋に入ってきた。Uちゃんは足を使ってドアを閉めると、私の前の小さなテーブルの上にコップを置いた。
「久し振りー! 中学入ってからうち来るの初めてだよね?」
しばらくそんな雑談を交わした後、例のリングの話になった。
「どんなリングなの? 見せて」
私がそう言うと、Uちゃんは立ち上がって勉強机の引き出しを漁り始めた。
「この前旅行した時に買ったんだけどさ」
「あ、えーと家族で温泉行ったんだっけ」
「そうそう! そこのね、商店街にすごく小さなオカルトショップがあって、いわく付きだっていうからつい買っちゃった。詳しくは教えてくれなかったんだけど。ちなみに5000円したんだよ」
「5000円!」
私は軽く身を乗り出して叫んだ。
「リング一つで? 高くない? 逆に怪しいでしょ」
「うーん、私も最初はそう思ったんだけど……」
Uちゃんは振り返ると私の前に小さな木箱を置いた。
「この箱がきれいっていうか、何か雰囲気があったから」
Uちゃんが木箱から手をどけると、蓋に施されたとても細密な浮き彫りが露わになった。
「わ、何かすごいね」
私がつぶやくと、Uちゃんは「でしょ?」と興奮気味に言った。いかにも古めかしい感じの箱で、錆びた南京錠がそれっぽい雰囲気でついている。リングが"本物"かどうかはともかく、この箱を見たら買ってしまうのも無理はない。
「この鍵を使って開けるんだ」
Uちゃんはそう言いながら小さな鍵を取り出すと、ためらいもなく南京錠に差し込んだ。
カチャリ。
そんな小さな音がして、少し間を置いてから蓋が一気に開かれた。中には銀色のリングが一つ。底には紙が敷かれている。
Uちゃんはリングをつまんでじっと眺めた。
「どう?」
私が尋ねると、Uちゃんはリングをこちらに手渡しながら言った。
「うーん、別に普通かも……」
私は手のひらの上に置かれたリングに目を向けた。確かにごく普通のリングだ。持った感じも軽いし、むしろ安物寄りかもしれない。箱が雰囲気あっただけに何か期待外れだなあ。
「ちょっと待って、この紙何か書いてある」
Uちゃんは箱の底から黄ばんだ紙を引っ張り出した。よく見ると四角く折り畳まれている。
「デス……リング?」
畳んだまま見えるところに"DEATH RING"とものすごく凝った文字で書かれていた。
「何それ、ダサくない?」
私はそう言いながらも、少し怖くなってリングをテーブルの上に置こうとした。
Uちゃんは紙を開いて、一気に読み上げた。
「このリングに触った人間は死にます」
「うわあああああああ!」
反射的に投げたリングがカーペットに落ちて小さな音を立てた。
「死にます。って、何そのストレートな言い方! どうしよう、触っちゃったよ!」
「触った人間は死にます……?」
Uちゃんは私に目もくれず、何か考えているようだった。
「どうしよう? まさか本物じゃないよね? ってねえ、Uちゃん聞いてる?」
私は一人青くなってUちゃんの肩を揺すった。だけどUちゃんは残念そうにこう一言つぶやいた。
「何だ……やっぱり紛い物だったか……」
了
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Apr.12,2016 すずき やすはる