表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターといこう  作者: hachikun
女戦士とモフモフの章
84/106

突入前日(3)

 ディーテとマナの出会いはずっと昔。まだβ初期の時代にさかのぼる。

『誰かと組まなくちゃいけないんだけど……』

『あっそう。頑張ってね……って、離してくれない?』

『行かないでよぅ。ひとりにしないで。せめて初級脱出するまで』

『なんであたしが面倒見なくちゃいけないわけ?』

『……(ノД`)シクシク』

『そんな捨て犬みたいな顔で泣かれても』

『……』

『だぁぁぁもうっ!』

 たったふたりのチームは、マナからのアプローチで始まった。

 そもそもディーテが軽戦士になったのは攻略チームに参加したからではない。なぜか執拗に回復術師にこだわり、回復一本槍だったマナと組むにはどうしても前衛が必要だったが、だからといって剣だけでは戦う相手が限られてしまう。つまり、サポーター的に選んだ職業だったのだ。

 だが結果的に、この選択はディーテにもプラスになった。

 この頃のツンダークの流行は、単体の技能をガンガン上げる事だった。だから単機能型のプレイヤーが多かったのだが、マナのサポートをするために全力以上に頑張った結果、ディーテは片手武器、弓、ダガーの3つにある程度長けて、そして見敵必殺の隠密行動力もあるキャラクタに成長していった。

 これは裏返すともちろん器用貧乏といえるのだけど、こういう万能職は地味なために顧みられない事が多く、慢性的に不足するポジションでもあったのだ。ゆえに成長するに従い、回復専業で伸ばしまくっていたマナとは別の意味で、声がかかる事が増え始めた。

 やがてマナが初級回復術師を脱出、中級になったところでふたりのチームは任務完了となった。

 そのまま組んでいっても良かったが、そもそもマナとディーテは目指す方向性が違っていた。ただお互いが気に入っていたもので「いつか機会があれば一緒に戦おうね!」と握手をし、別れた。

 その後、ディーテはメインシナリオ攻略系のチームに。そしてマナはフロンティア系……つまり、まだ知られていない土地を冒険していく冒険者タイプのチームに別れたのだが。

「悪夢の残滓ってクエスト知ってる?ほら、幽霊が出るやつ。あれでケンカになっちゃってねぇ」

「あれか……話だけは知ってる。幽霊を殺せるやつだよね?」

「うん」

 ツンダークにはアンデッドはいない事になっているが、ひとつだけ幽霊の出るクエストが用意されていた。これが『悪夢の残滓』。もちろんゲームサービスとして用意されたものだった。

 ちなみにこの幽霊はイベント固定の存在で会話も可能なので、wikiではモンスターでなくNPCに分類されている。

 この幽霊は「死してなお、心残りで四散せず残った魂が魔力を帯びたもの」とされており、回復師か神職が回復魔法をかける事で昇華するか、あるいは彼らの心残りの源である指輪を受け取り、これを海に投げ捨てる事で彼らを慰め、そしてクエスト終了となる。悲しいがどこか心優しくなれる、そういうクエストだ。

 ところが実はこの幽霊たち、魔法攻撃で倒せば経験値が入るのだ。そして指輪も結構いい値で売れるが、彼らを昇華させるとただのボロボロの指輪になってしまう。

「つまり、マナティーが普通に昇華させようとして、でもその人たちは皆殺しにしようとしたのね」

「うん。私、そういうのイヤだったんだ。あんな悲しげに泣いてる人たちを皆殺しにするなんて。でも」

「所詮ゲームじゃんって言われてムッときたんだね。うん、マナティーらしいや」

「だ・か・ら。マナティーやめてって言ってるでしょ、デッちゃん?」

「あんたもね。そもそもあたしゃモフ子だっての!」

「モッちゃん?」

「それも勘弁して……」

「( ̄д ̄)エー」

「エーじゃない!」

「むう」

「まったくもう。でも気持ちはわかるね。あたしもその状況なら昇華させるね」

「でしょう?なんでも経験値経験値って、それでいいのかって言いたいよね?」

「うんうん」

 ちなみにモフ子の場合は当然、マナとは違う合理的理由での昇華推奨だった。でも結果としては似たようなものだ。

「経験値にこだわるあまり本質忘れるって怖いよね。そういうのって結局、オレはこの扉を選ぶぜ、みたいな常識的な選択肢で失敗する元だもんね」

「モッちゃんの言いたい事もわかるよ。供養とか全員でする必要ないし、休めるもんね」

「うん。しかもマナティーみたいな人の気持ちを汲む事もできる。大切な事だよね」

「うんうん!」

 性格も行動原理も違うふたりであるが、基本的にウマがあうのだろう。お互いを尊重しつつ咄嗟にベストの妥協点をはじき出す、そういう事にも慣れていた。そしてそれゆえに、ふたりはなかよしだったのだ。

「それでその人たちと別れて、西の国を目指したのね?」

「ええそう。それでだん……マオと出会ったってわけ」

「ほうほう旦那様(´・∀・`)」

「なぐるよ?」

 その旦那様はというと、のほほんとしたいつもの(マナ)と少し違う、やたらと活発な姿を見て目を細めていた。なんだかとても溺愛らしい。

 ちなみに現時点で年上に見えるが、これはマナがプレイヤーであるせいだろう。おそらく出会った頃には同年代に見えていたと思われる。ちなみに、日本なら俳優で通せそうないい男だった。一番下らしい赤子を背中にしょっているが。

 ふむ、とモフ子は思ったが、ひとつだけ確認したい事があった。

「ねえ、あなた。マオさんって言ったよね?」

「ああ」

「ひとつ確認したいんだけど……あなたマナの事、どう思ってる?」

「どう思ってる、とは?」

「マナは異世界人だから、今までは歳をとらなかった。でもこの先はわからない。言いたい事はわかる?」

「……そういう事か」

 うん、と青年……マオは大きくうなずいた。

「いつまでも若いままではいないって事だろ?うん、マナにもその話は聞いた。オレはいい事だと思うぜ」

「いいこと?」

「ああ。だってそれは、一緒に爺ちゃん婆ちゃんになれるって事だろ?」

「そうね。でも」

「あー、女として若くきれいなままって話はわからないけどさ」

 マオはそう言うと、少し眉をしかめた。

「考えてみなよ。自分の家族が全員いなくなって、ひとりぼっちになっても変わらなかったとしたら……それは悲しい事だと思わないか?」

「……」

 モフ子はマオの言葉を聞き、そして少し考えた。

「それを言うって事は……つまり」

「ずっと一緒にいられるのかって言いたかったんじゃないのか?異世界人とうまくやれるのかって」

「うん」

 はっきりとモフ子が肯定すると、青年は少し心外そうに眉をしかめた。

「なんでオレがマナを手放さなきゃならない?ふざけんな、逃げたって縄かけて連れ戻すぞ」

「……」

「……あー了解。いろいろとごちそうさま」

 照れて真っ赤になったマナと見比べて、モフ子はためいきをついた。

 ところでリトルはというと、子どもたちの遊び相手になっていた……といっても子供たちが一方的にリトルにまとわりつき、それをリトルがいなすという形だったが。

 試練の前という事もありモフ子はイタズラを心配したのだが、どうも子どもたちの方は動物慣れしているようで、怒らせない限度を心得ている感じがした。二歳くらいの子もいるし、そのへん意外だったのだが、

「ご近所に虎つれてるおうちがあるの。リトルちゃんみたいに大きくないけどね」

「なるほど。って納得してていいのかな?」

「何が?」

「いや、何がって。小さい子もいる街の中に猛獣って」

「ツンダークでは問題にされてないね。たぶん街にいるモンスターが無害だからだと思うけど」

「そっか……」

 確かに、今となってはモフ子にもわかる。

 ペットやテイマーの動物たちは人間を襲わないのだ。同種でも空気が違う。安全だと本能的にわかるから子供だって平気で近づく。

「はぁ。ほんっと、何見てたんだろうねえ……」

「ペット狩りの事?」

「うん」

 モフ子がペット狩りに加わっていた時代をマナは知らない。その頃は二人の道は違っていたし、マナはちょうどその頃、先刻のイベント関係で仲間と険悪になり、彼らと同調するか、それとも自分の意思を通して道を分けるかに悩んでいたのだから。

「それがモッちゃんの運命だったんだねえ。たぶんモッちゃんは最初から神様に魅入られてたんだよ」

「……どういうこと?」

 眉をしかめたモフ子に、マナは「あくまで憶測だよ?」といいつつ言葉を続けた。

「未来は過去に影響を与えるって言葉知ってる?ツンダークの言い伝えらしいんだけど」

「なにそれ?」

 それではまるで、過去が未来に影響を与える……つまり因果律の奇妙なパロディではないか?

「うん、普通はありえないと思うよね。でもね、ラーマ神様が関わるとありうるんだって。ラーマ神様は時間も空間も超えて存在し、因果も越える存在だからって」

「……それ、おかしな話ね」

「おかしい?」

「うん」

 モフ子は大きくうなずいた。

「そんなに全てを自在にできる存在なら、こんな半端な干渉じゃなくて、この世界をもっときちんと導けるんじゃない?実際、不合理も多いし余計な人も亡くなってるわけでしょ?」

 ぶっちゃけた話、今日モフ子が殺した青年だってそうだ。彼が神様の行動に対してもう少し敬意をもつ青年だったら、褐色の乙女を笑い飛ばし、道を遮ったりはしなかったろう。たとえモフ子個人に反感を抱いたとしても。

 人はひとりでは生きていない。

 おそらく、あの場にいた誰かが青年の父親に、犯人がモフ子である事を知らせるだろう。そしてあの子の親ならばおそらく、職権を乱用してモフ子を捕縛、いや殺しにやってくる可能性は否定できない。

 でも、だからといってあの場でも皆殺しはありえなかったと思う。

 モフ子とリトルの全力であたれば殲滅はできたろう。

 しかし彼女らは別に神の戦士でも殺人鬼でもない。

 モフ子にはモフ子の使命があり、それはリトルを育て上げ、試練の山に無事送り届ける事。この身は、この力はそのためのものであって、戦意なき者を皆殺しにするためにあるのではない。

 そんな事を許す神が、本当に万能といえるだろうか?

「んー、こういう考えはどうかな?」

 そんなモフ子の主張に、マナは一石を投じてきた。

「まず、神様は人間じゃないわけで、その考えの全てが理解できるわけがないと思うの。えっとね、こんな話知ってる?」

「?」

「テイマー事件の時……そう。ディーテが行方不明になった元のあの事件ね。あの時に穏健派の中でね、仮想世界ツンダークを制御する統合AI『ラーマ』についての情報交換がなされてたんだって。要は、なんでテイマーみたいな存在を放置しておくのかって話から出たらしいんだけど」

「うん」

「その時の穏健派たちの結論が『よくもわるくもラーマは人間ではない。ゆえに、非常に優れているのかもしれないけど、人間的な考えによる良心を期待するのは間違っている』ってものなの。意味わかる?」

「おいマナ、それは」

 マナの発言の危険さに、話を聞いていた(マオ)が眉をしかめたが、

「大丈夫。この言葉は結局『神様には神様のお考えがある』って言葉と同じ意味だから。それに居残り組でもない、もう消えちゃう異世界人の発言だしね」

「……そうか。すまん話の腰折った」

「いえいえ」

 夫の言葉に妻は柔らかく微笑み、

「だからねモッちゃん。そこは悩んでも仕方ないのよ。人間とは全く次元の異なる、生命体かどうかすらもわからない超次元の存在について、人間のスケールで推し量ってもそれは無理があると思うし」

「……」

 それでも沈黙しているモフ子に、マナはやれやれとためいきをついた。

「モッちゃん。ひとつ聞くけど、今モッちゃんがしなくちゃならないのは悩む事?」

「違う」

 そう言ってモフ子は、子どもたちのおもちゃになっているリトルの方を見た。

「うん、そうだね。今モッちゃんが考えなくちゃいけないのはリトルちゃんの事。彼を無事に送り届けて使命を果たす事だよね?そのために、ずっと今まで頑張ってきたんでしょう?」

「うん」

「だったら、それでいいんだよ」

「……でも」

「いいの!」

「……」

「はぁ。しょうがないねえ」

 マナはクスクスと笑い出した。

「そういえば旦那様。そろそろいい時間じゃないかな?」

「ん、そうか?そうだな」

 太陽がじりじりと地平線に近づいていた。

「よし、そろそろ火を起こすか。材料は用意できているのか?」

「もちろん。あとビール出していい?」

「ビールか?……まぁいい。でもサーベルタイガーには飲ますなよ?文字通りのオオトラになっても知らないぞ」

 ちなみに日本語でも酔っぱらいを虎に形容する事があるが、ツンダークでも同じである。

 しかしそれより、モフ子には聞き捨てならない発言があった。

「ビール?エールじゃなくてビール?」

「うん、ビールだよ?最近、居残りの酒職人さんが開発したんだよ?それも日本人おなじみのラガービールをね!」

「うわぁ……」

「あれ、モッちゃんもしかしてビール飲んだ事ない?こっどもー♪」

「いやぁ、あたし16歳だし」

「それ会った頃の話だよね?だったら今は四捨五入すると、さ……」

「ちょ、歳の話はやめい!」

「はいはい。で、余裕で成人してると思うけど?」

「……うーん」

 ニコニコと楽しげに笑うマナに、思わず眉をしかめたモフ子だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ