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モンスターといこう  作者: hachikun
女戦士とモフモフの章
82/106

突入前日(1)

ちょっと微妙にエロい表現が。余裕でR15の範疇に収まると思いますが。


「というわけで、神殿に顔出して事情説明したら、こっちにも言っとけーって言われたの。狩人ギルドにしたのは、あたしが所属してるからね。ギルド員でないと色々面倒になるでしょ?」

「なるほど了解です」

 転移門の一件より約1時間後。ここは町の中にある狩人ギルドの支所である。

 ここのギルドマスターは女性のようだが、もちろんただのギルドマスターではないのだろう。商業ギルド支所も兼用のようだし。

 なんていうか、おそらくは海千山千のしたたか者なのだろうとモフ子は考えていた。

 ……だが。

「西の国政府が転移門を押さえたのは今回がはじめてじゃないんですが……ちょっと人数が多すぎますね。これはもしかして『居残り組』狙いかもしれませんね」

「どういう事?」

「異世界人が居なくなるでしょう?この国は政治の中枢で異世界人が活躍したから、良くも悪くもその有能さが知られてるんですよ。補充というわけでもないんですが、使える者をひとりでも多く自国に確保したいみたいなんですね。

 だけど、ひとりひとりの居残り組まで彼らが把握しているわけがない。だから、町に密偵を放ったり各機関に通達したりして、居残り組のリストを作成しようとしているようです。もしかしたら、強制的に招聘しようとか狙ってる可能性がありますね」

「……バッカじゃないの?」

 モフ子は一瞬、呆然として……そして、ためいきをついた。

「そんな無茶しようとしたら、みんなよその国に逃げちゃうよ」

「おそらく高給や地位が約束される、くらいはあると思いますよ?条件によっては残る人もいるんじゃないかしら?」

「高給?地位?ご冗談でしょ?そんなもの欲しがるような人が、そもそも居残りになるわけないって。無駄無駄」

「そうですか?でも、お金を元にして日々の平穏を買う事だってできますよ?」

「ないない」

「根拠は?」

「根拠ぉ?」

 何いってんだこの女、とモフ子は思った。

 立場は違うがモフ子だってプレイヤーだ。そして、リトルと共に暮らすようになるまでは確かに、数いるヘビープレイヤーの一人だったのだ。だからわかる。

 そもそも、お金や地位にホイホイ引っ張られるような種類の人が、なんで何百時間、何千時間と無駄に投入してネトゲなんかする?

 モフ子は女の反応に首をかしげつつも、はっきり言った。

「あのね。わからないんだと思うから一応、説明しておくけど、はるばる別の世界からツンダークに、しかも居残りするほど時間つぎ込んで遊びにきているような連中が、何が悲しくて小銭で雇われなくちゃいけないのよ?」

「いえ、さっきも言いましたけどね、それなりの報酬はおそらく提示されるはずで」

「それなりって、いくら?白金貨で年俸二十億枚くらいかしら?」

「……は?」

 何いってんの、と言わんばかりの女に、モフ子は苦笑して続けた。

「あんたさぁ、何年もネトゲやりこんでるプレイヤーの経済事情知らないでしょ。どのくらいのお金持ってて、どのくらいの金額のものをやりとりしているか、全然理解してないよねえ?

 今あたしが提示した金額だって、冗談でもなんでもなく、普通に給与交渉で提示されると思うけど、どう?これが高いか安いか、プレイヤーの相場から判断できるの?あんた?」

「……無理ですね。でもさすがに白金貨で二十億枚は非常識では?西の国の国家予算全額でもそのお金はないですよ?」

「だから?給与交渉をするからには、相手の懐事情で判断すべきでしょう?」

「いくらなんでも冗談が過ぎますよモフ子さん。白金貨で二十億というと国家予算レベルですよ?いくら異世界人でも持っているわけがないでしょうに」

「ブッブー。あんたさ、このあたしが着てるボロボロのチュニックとホットパンツだけどさ。手に入れた頃、アイテムとして金額換算したらいくらって言われたか知ってる?あ、ちなみに当時は新品のピッカピカね?」

「……はぁ?それ鎧じゃありませんよね?見たところスパイダーシルクのようですけど、新品だったとして……金貨十枚ってとこでは?」

「ははは……あんた本当に商人?」

 おもいっきりモフ子は苦笑した。

「これ、布地からして人間が作った服じゃないよ?縫製もね。

 これの鑑定してくれた人、これ神域で神様か精霊の手で作られたものですよね、神仙織りなんて初めて見ましたって言われたんだけど?

 ちなみにその人、縫製や布地を見られる人なら、普通じゃないのはひと目でわかるよって言われたんだけど……あぁいいや、バカバカしい」

「……ほほう、そうなのですか」

(だめだこりゃ)

 確認するそぶりもない。つまり、モフ子の言葉が嘘だと信じ込んでいるのだろう。

 なんでこんな人が支所とはいえ商業ギルドを締めてるんだろ、とモフ子は思った。

 だがこれはモフ子の買いかぶりではあった。

 そもそも、西の国のギルド支所にはあまりプレイヤーが寄り付かない。西の国には確かにプレイヤーが多いのだが、そもそも、西の国に多くいる没入タイプのプレイヤーは普通の社会人タイプが多く、ギルドとやりとりするような生産職や狩人の類だと、中央大陸にそのままいるか、それともシネセツカに渡るかのどちらかが多かった。

 ツンダーク人だけの商人で、しかも若いとなると、モフ子が言うような珍品はそもそも渡されない。価値を理解できないから、理解できる年季の入った商人に回すからだ。つまり、モフ子に対する態度が問題なのは別として、能力的にはおかしな事ではない。

 とはいえ、それは今のモフ子には関係ない話だ。

(れっきとしたギルドのギルマスでも、こんなレベルの理解なのかぁ)

「ちなみに地位は言うまでもないと思うよ。社会的地位にひかれるような人がそもそも異世界人なんて呼ばれてツンダークに遊びに来てないって」

 やれやれとモフ子は肩をすくめた。只者ではないという最初の印象は、悪い方のそれだったらしい。

「まぁ、ギルドにお世話になってる身だし、一応警告はさせてもらったよ?あとは信じようが信じまいが、お好きにどうぞ」

 モフ子としては、無理に説得したり理解させる必要性は感じていなかった。

 彼らとてその道のプロである。今のモフ子の話だけでも、ちゃんとした者なら確実に裏付けをとり確認するだろう。ちゃんとしたプロなら。

 だからモフ子は、さっさと切り上げる事にした。

(……めんどくさいけど、冒険者ギルドにも説明しとくか)

 かつて斥候兵やっていた頃の感覚が、保険をかけておけと彼女に訴えていた。

 

 

 

 二十分後。冒険者ギルドのマスター室。

「ああベティさんね、彼女にそれ理解しろったって無理だわ。彼女、プレイヤーは専門外で全然わかってないから」

「やっぱりですか……」

「言っとくけど彼女が悪いわけじゃないよ?」

「ええ、わかってます。プレイヤーが異常なだけ。そうでしょ?」

「ふふふ、とびっきりの規格外のキミがいうと、また不思議だけどねぇ」

(……こっちのギルドマスターも濃いなぁもう)

 なんと、冒険者ギルドのマスターは、やたらと軽い、いやチャラい感じのお兄さんだった。

 もちろん中身はちゃんとしているのだろう。でなきゃギルマスなんて務まらないはず。

 だが、モフ子はなんとなく頭痛がする思いだった。

「しかし政府もおバカだねえ。力づくで異世界人を釣り出そうなんてね。わかってない、としか言いようがないね!」

「へぇ……」

 と、そこまで思ったところで、ちょっとモフ子はイタズラ心が湧いた。

「ひとつ聞いてもいいですか?」

「ん?何だい?」

「ギルマスさん、もし貴方が異世界人を勧誘して釣ろうと思ったら、どうします?」

「オレがかい?あはは、そんなの簡単じゃん」

 そう言うとギルマスは目を細めてニヤリと笑い

「知ってる?冒険者ギルドにゃこんな言葉があるのさ。『冒険者担ぐに金子(きんす)はいらぬ、助けてくれの一言でいい』ってね!報酬はたしかに必要だけど、金金金で冒険者を釣るのは下策だって事だね。

 オレ思うんだけどさ、異世界の人たちにもそんなとこあるよね?基本的に冒険者的っていうか」

「あるある、ありますねえ」

 というか、そういう部分があるからこそ、わざわざゲーム内で冒険者やったり人助けしたりするんだろう。

「わかってくれた?」

「はい。これ以上なく」

 冒険者をさした言葉だろうが、そのまんまプレイヤーに当てはまるのが面白い。

 そして、やはり見た目によらずこのギルマスは有能らしい。さっきの女とは大違いだ。

「それじゃあ、お手間ですけど情報の拡散についてお願いします」

「了解、任されたよ……ああ、そうそう」

「はい?」

「神殿には顔出したかい?転移門の問題なら神殿にも噛んでもらった方がいいんだが」

「問題ありません。最初に立ち寄ってお話してあります」

「なるほど。わかった……あ、ちょっと待った」

「はい?」

 モフ子が腰を浮かしかけたところで、ギルマスはポンと手を叩いた。

「話が飛ぶんだけどさ、試練に行くんだろ?」

「はい」

「だったら、その前にここに行っときなよ。この名刺と、この一筆を持って行ってオレの名前出したらタダにしてくれっからさ」

「へ?これって……美容院?」

「ああ、そうさ。ただしここの専門は髪の毛じゃないけどね!」

「へ?」

「行けばわかるさ」

 そういうと、ギルマスはにっこりと笑った。

 

 

 

「いらっしゃいませぇ」

「……」

 さらに三十分後。

 なんというか、日本の美容院チックな環境にモフ子とリトルはビビリまくっていた。

「あの、お客様?……ああもしかして、冒険者ギルドの方からいらっしゃいました?紹介状はお持ちですか?」

「え?あ、はい。えーと、これです」

 なんだこの病院っぽい臭いは。

 異様に清潔臭のある空間はまるでツンダークではないみたいだった。リトルもその雰囲気を異様に思っているのか、借りてきた猫のようにおとなしい。ずいぶんとデカい猫を借りたものだが。

 ちなみに他にも客はいるが、誰も騒がない。どうも上流の客ばかりのようで、異様に身なりもいいのだ。かといってモフ子たちを変な目で見るわけでもない……いやむしろ、生暖かい目で見ているかのような?

 いや違う。これは、この目線はもっと違う種類の客のものではないだろうか?

 そう……たとえば『よく訓練された客』というか?

 さて。預かったカードと、それから一筆書かれた紙を渡したのだが「ああ」と受付嬢が頷いた。

「なるほど、神獣の試練をお受けになられる方ですね?ではこちらに」

「あのー」

「はい?」

「すみません、よくわかってないんですが、ここって何をするところなんでしょう?」

「何をするか、ですか。当院は外側のケアを主に行います」

「外側?」

「はい。……異世界の方にはピッタリの言葉があるって伺ってますけど」

「へえ。あの、あたし異世界人なんですけど、それって何ですか?」

 いやな予感がてんこもりに積み上がってくるのを感じながら、モフ子は聞いてみた。

「はい。『脱毛サロン』というのだそうです」

「どうも失礼しました」

 受付嬢の言葉を聞いた途端、モフ子は一瞬で回れ右をした。

 だが。

「ささ、こちらですよ?どうぞー」

「リトルくんっていうの?可愛いわねえ」

「え?ええ?」

 あれよあれよという間に大量のスタッフが現れ、抵抗する間もなく別室に連れ去られる。リトルも一緒に。

「え、あの、ちょっと?」

「大丈夫ですよ。リトル様の方は皮膚病のチェックと体毛のリフレッシュをさせていただきます。サーベルタイガー種は当店のお客様でお連れになる方が多いものですから、全く問題ありません。ご安心を」

 ちなみに本当の話である。西の国の令嬢とサーベルタイガーの組み合わせは定番といってよく、富裕層むけの店にいるペットむけサポーターをタイガー係、またはタイガーケアと呼ぶくらいなのだ。

 だが、問題はそこではない。

「いえ、だから、どうして」

「お客様の方はこれから産毛とケアの他、特に局部の脱毛をさせていただきますね」

「そうじゃなくって!いえ、それもなんかおかしいけど、そういう問題じゃなくて!」

「お客様?お客様はこれから神前にたち、正式に神の試練を受けられるのですよね?」

「あ、はい」

「でしたら、身だしなみを整え清潔にせねばいけません。今までももちろん神様の来訪は受けられていたのでしょうけど、今までとは違うのです。特に神獣の儀の場合はそうなのですが」

「……どういう意味?」

 店員の言葉にひっかかるものを覚えたモフ子は、抵抗を止めて聞いてみた。

「はい。ではちょっとご説明させていただきますね」

 モフ子のように問いかけてくる客は多いのか、店員はスラスラと答えを返してきた。

「神獣の儀を受けられるのは獣の方であり、褐色の乙女の方ではない、というのが一般の認識なのですが、それは少し違います。いわゆる褐色の乙女にとっても大切な通過儀礼なのです。ただし立場としては主役というより、むしろ供物(くもつ)に近いのですが」

「供物?」

 その言葉の不穏さにモフ子は眉をひそめた。

「表現が不穏で申し訳ないのですが、実際にそうだと聞いています。神獣を育て上げたものとして神前に添えられるそうですから、確かに間違いではないかと。

 そのため、綺麗に整えるのは大切なのです。

 お肌のつやや体毛の生え具合まで細かく規定がありまして。以前は神殿でこういう業務もやっていたのですが、お肌を清潔に保てるという事で一般の女性陣にも昔から人気なのです。ですからケア業務だけをこうして独立しているのです」

「え?じゃあ皆さんもしかして、神職だったり?」

「はい。当店の店員は全員、巫女なり神官なりの神職となっております」

「へえ……」

 脱毛サロンの店員が全員神職でここが神殿の一部とか。どういう文化だと頭を抱えるモフ子だった。

「さて、では再開いたしますね。まずは一番大変な陰部のケアに参りましょうか」

「え、ちょ……や、やめっ!」

「はいはい、大丈夫ですよ。……あら?思ったより綺麗なのね。恋人かだれかいらっしゃいます?」

「……そんな、居るわけないよねー、でも変ね、みたいな言い方しなくても」

「すみません。でもホント綺麗に整ってますよ?」

「はぁ……」

 そう。モフ子は知るわけがない。そして店員にもわかるわけがない。

 褐色の乙女には恋人は決してできない。そして清潔さが保ちにくいしカミソリやハサミの発達してない異世界では、自分で自分のムダ毛処理は非常に難しい。

 しかし、モフ子のムダ毛は綺麗に整えられていた。いったい誰が?

「ま、いっか。さ、はじめますよ?」

「ちょ、待って、やだ、ぎゃああああっ!」

 だが必死の抵抗もむなしく、モフ子の身体は寝台に固定され、店員たちの手で恥ずかしいところが剥き出された。

 そして数分後。

「……」

 そこには、真っ赤になった半泣きの顔を両手で覆ったまま、口に出せないようなところを剃られたり塗られたりしているモフ子の姿があったという。

 

 

 

「……」

 で、その横の寝台では、体毛ケアとマッサージをしてもらいつつ、気持ちよさげに目を細めているリトルの姿があった。


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